創作世界

□メルドの夏休み
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メルドの夏休み 10



メーゼは肩に掛けていた鞄を地に下ろし、タブレットを取り出す。
タブレットの操作途中、しゃがんでいるメーゼが孤児達に顔を向けた。


「この魔物、いつから居るの?」
「数日前から、だよ。 2日か、3日くらい前・・」

「・・ねぇ、この魔物が来る前後 何か不審なことは無かった?」
「ふしん・・?」
「怪しいこととか、変わったこと」
「・・・うーん・・と・・」


メーゼの質問に考え込む様子を見せる孤児達。
リーダー格の片割れ、オレンジ色の髪の少年が口を開いた。


「不審なこと、あったよ。 食べ物、届けに来た人じゃない人が来た」
「それは・・珍しいのかしら?」
「珍しい、凄く珍しいよ。 わざわざここに来る理由なんて無いじゃん?」

「・・・ どんな人だったか覚えてる?」
「男の人。 後、髪が白で」


そう述べられた瞬間、メーゼの眉が微かに動く。
怪訝そうな表情は分かりづらく、孤児達には察せなかった。


「・・服装、とかは?」
「黒い・・長いコート、羽織ってた」

「耳とか見えた?」
「耳? ・・・あ、そういえば人間っぽくは無かったな・・
 あれは・・・なんだろ、 エルフ・・・?」
「・・・はぁぁ〜・・・」


呆れた表情を浮かべたメーゼが即座に盛大な溜息をつく。
質問に答えていたオレンジ髪の少年が驚いたように怪訝な表情を浮かべた。

メルドとしても、あまり見慣れないメーゼの様子に瞬きを繰り返す。


「成程ね・・・有意義な情報だわ、凄く・・」
「・・・? 役に立ったなら、なにより?」

「・・そいつと何か話した?」
「いや、何も。 お互い遠くから見ただけだったし、」
「そう、 そっか」


メーゼは小さく頷くと、操作途中のタブレットからカメラ機能を機動した。

しゃがんだまま、ピアスが取り付けられた狼の耳をアップに1枚。
立ち上がって狼の全体図を1枚。

その2枚を撮り終えると、タブレットを鞄の中にしまい再度浅く息を吐いた。
悩んだように伏せられた瞼に、何も言えないでいて。


「・・・、 まぁ依頼は達したわね。 他に何か困ってることはない?」
「お前ら、なんかあるか?」
「なにも、」
「無いってよ。 えっと・・あ、名前」

「メーゼよ。 旅団に属してるわ」
「メーゼさんか。 ありがとな、そいつ倒してくれて」
「ありがとう。 ・・パン、届けに来てくれた人も、」
「あ、こっちも名前聞いてねぇや」

「お、俺? 俺はメルドです」
「メルドさんか、ありがとな。 なんもないけど、また来てよ」
「・・・ 待ってる」


そう告げた少年は伸びた藍色の髪を揺らし、他の子供達へと挨拶を促す。
年端も行かない少年少女達が、お礼と別れの言葉を口にした。

上手く言葉が返せずに、しどろもどろで頷くメルドを見てメーゼが薄く笑う。


「戻りましょうか、メルド。 報告義務も残っているわ」
「あっ、は はい! そうですね、 えっと、それじゃぁ」


メルドはラヴァリーに住む子供達へと、浅く会釈を行った。
彼女も控えめに手を振る。

「ばいばーい」と言いながら、両手を振る子供達を見て、
歩き出したメーゼの後をメルドが追っかけた。

揺れる海色の髪、 日射しは沈みつつあり、後は暗くなる一方だろう。


「さて」
「あ、はい・・?」


メルドより1歩先を歩いているメーゼが唐突に呟く。
反応した彼に、メーゼは少し顎を引いてメルドを見つめた。


「多分今日はもう依頼受けずに休むと思うんだけれど」
「はい」
「何か感じたことはあった?」


抽象的な質問に、メルドは「え」と一言。
歩きながら悩む表情を見せるメルドと、灰色の街を歩いて行く。


「ま・・・魔術を・・・・」
「魔術を?」
「覚えようかな、と思った、っていうのと」
「うん」

「あの子達が、良い人に引き取られたらなぁって」
「・・・」
「あ、も 勿論、幸せなら俺が口出すべきじゃないんですけど・・!」
「・・そうね、分かってる」


歩きながら、後ろに続く廃れた街並みをメーゼが見つめる。

いくら山崩れが起きたからって、
処理としての対応を全くしないこの国もこの国だが。

・・・なんで、わざわざ。

眉を潜めたメーゼは、浅く息を吐き出して街の外へと出た。
吹き付ける風は真夏相応に生暖かい。


「・・・何故・・ここを選んだのかしら?」
「え?」







メルド・ラボラトーレ
  多分お礼を言われることに慣れていないような気がする。
  環境は悪くなかったはずだから、多分自分が何かしらに不得手だっただけ。
  現状魔術はからっきし。 一応ある程度扱えるほどの潜在能力は存在する

メーゼ・グアルティエ
  不審者情報に対して思い辺りがある様子。
  彼女の怪訝そうな表情は、メルドから見れば珍しい、気がする。
  完全に蛇足だが、彼女の「分かったから」「分かってる」って発言が好き





 
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