創作世界

□メルドの夏休み
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メルドの夏休み 12



早朝、まだ太陽も昇っていないが明るくなってきた空を窓から一瞥してから、
彼女は寝起きとは思えないほど、すんとした表情でベッドから起き上がった。

数瞬ほど、座ったまま瞬きを繰り返した彼女はベッドから下りる。
立ち上がる際に揺れた髪は長く、まるで海を連想させる色。

ある程度身の回りを整えた彼女は、
室内の一角にある机の前の椅子に腰を下ろした。

鞄から取り出したタブレットを机に置くと、いくつかの操作の後、
ずらりと複数の画面が宙に現れた。

その内の1つである画面、背景は白く映し出された字は黒い。
どうやら書類、のようで彼女はそれをじっと見つめた。

更に短く操作をすると彼女の手元に現れたキーボードの画面が現れる。
慣れたようにキーボードを叩くと、書類らしい画面に字が入力されていく。


[西方大陸最北端に存在する廃退した街、
 ラヴァリーにて『例の人物』の目撃情報を入手]

[目撃者はラヴァリーに住む中学生ほどの少年1人]
[遠目であったそうだが特徴は合致し、『彼』である可能性は非常に高い]

[依頼を受けラヴァリーに向かうと、ラヴァリーに住んでいる少年達から
 狼種の魔物が2、3日前に街に紛れ込んだとのことで討伐を行った]

[『彼』は魔物が来る前に現れたそう]
[ただ結界用の魔石魔力は衰えていたため、直接的な関係は不明]

[不審点、魔物の耳に金色のピアスが取り付けられていた]


軽快なタイピング音は一定字数打ち込むとピタリと止み、
代わりに彼女は椅子から立ち上がり、窓まで向かい外の景色を見た。

明るくなってきたとは言え太陽はまだ昇らず、行き交う人も少ない。
人工の明かりもほとんど無いが街の様子は充分に見渡せる。

少し目線を上げ空を見上げれば、白い鳥が数匹パタパタと空を飛んでいた。


「・・・」


考え込むような表情を浮かべ、彼女はカンパーナの街へと視線を落とす。
思案の色が残ったまま、伏せられた藍色の瞳。


「・・・理由が分からないわ、」







太陽も昇り待ちゆく人の数も増え、人々の活動時間となってきた頃。

不定期に鳴る鐘の音を耳にしながら、彼は学生服のまま
カンパーナの大通りを小走りで進んでいた。

訪れたサファリ旅団、カンパーナ支部の建物の扉を開けると
扉に付いていた小さな鐘がチリンチリンと音を鳴らした。

扉を開けてすぐのカウンターを見やると、扉が開いたのに気づいた受付と
受付カウンターの前に居た女性の腰まで伸ばしたオレンジ色の髪が揺れた。


「あら、メルドさんおはようございます」
「あっ、お、おはようございます! フィアナさん早いですね」
「私もつい先程来たばかりですよ」

「いつもこんなに早いんですか?」
「朝なので、緊急を要する依頼が入ってないか確認したくて」
「ほえ・・・なんか・・旅団員のプロですね・・・」
「ふふ、 旅団員のプロ?」


フィアナはくす、と小さく温和な笑みを浮かべる。

頷いてみせるメルドに、メルドが来る直前まで
フィアナと話していたらしい受付の女性が口を挟んだ。


「依頼確認するために朝から支部まで来る人は少ないですよ」
「あ、やっぱりですか? あ、いや やっぱりって言うのはあれですけど!」

「依頼確認に来る方は結構多い印象なんですけどね・・
 時差ボケによる起床時間のズレでしょうか?」
「かもしれませんね。 大陸跨ぐ人も少なくないようですし」


そうやって短いやり取りを続けている受付とフィアナに、
支部の1階をメルドがきょろきょろと見渡す。

会話が一区切り付いた頃に、メルドがおずおずと声を掛けた。


「そういえば、あの メーゼさんは?」
「あぁ、どうやら調査らしくて。 朝早くから出かけられましたよ」
「あれ、あ、そうなんだ・・どうしようかな」


考え込むようなメルドを、フィアナが様子を伺うようにじっと見つめる。
少ししてはっ、と思いついたような表情をするとフィアナに向き直った。


「あ、あの。 俺、にできそうな依頼はできるだけやりたいなと思ってて」
「はい」

「フィアナさん、その もしよかったらご一緒・・してもらっても・・・?」
「構いませんよ。 彼と私でこなせそうな依頼はありますか?」
「少し待ってくださいね、一覧出します」


おずおずと聞き出した頼みから、合間無い了承。
流れるように依頼検索が行われる現状に瞬きを繰り返すメルド。

確かにチーム体験だと、彼女に協力を頼んでいたけれど。
ここまであっさり返答されると寧ろ困る。

検索にしばらくキーボードを叩いていた受付は、
受付カウンターの前にタブレットを置いた。


「戦闘が不要な依頼、フィアナさんが居れば可能であろう依頼を中心に
 一覧を出しております。 内容と難易度をご確認して選択してください」


説明を受け、依頼一覧が出されたタブレットを受け取るメルド。

序盤の方にいくつか表示された依頼を見比べ、
ふと気付いたような表情を浮かべ、フィアナへと顔を上げる。


「フィアナさんが居れば可能、ってことは
 街道さえ渡れればクリアできる依頼、って意味になるんですかね、?」
「多分そんな感じです。 私もそれほど強いわけではないので」
「1人で街道通れる人って、特戦科3年生以上のレベルなんですけど・・」


この人、普通科を卒業して1年半も経ってないって聞いたし、
昨夜の話だと今年3月に習い始めて、今制限無しで街道歩けるとか。

3月からってことは俺が特戦科入った時期と、1ヶ月も変わらないわけで。

唸るようにうぐぐ、と唸るメルドに、彼女は小さく笑みを浮かべる。


「先生が良かったんです」
「先生」






日が明けて3日目の朝。


メーゼ・グアルティエ
  早朝の報告書制作シーン。 彼女はほとんど夜眠っていないので、
  彼女の寝起き特有の表情を見れる人物は相当稀。
  受付曰く、調査で朝早くから出かけた。

メルド・ラボラトーレ
  俺の師匠もメーゼさんとかいうすんげー人のはずなんだけどなー?
  ってぼんやり思ってる。 特戦科1年生のため、
  戦闘技術を教えられたのは4月から、計4ヶ月。

フィアナ・エグリシア
  彼女へ戦闘に絡む技術を教えたのは3人居た。
  その3人とは今でも度々連絡を取っては助言だのを受けている。
  戦闘技術を教えられたのは3月から、計5ヶ月。





 
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