創作世界

□メルドの夏休み
16ページ/16ページ






メルドの夏休み 14



見覚えのある人物との再会、尚その再会の仕方が急だったものだからと
驚きで心臓がバクバクしているのか、メルドは胸元を抑えたままだった。

申し訳なさそうに「わり」って笑う際に鮮やかな紫色の髪が揺れる。

男性にしては量の多い毛は前髪も重く作られていたようで、
片目が隠れやすくなっていた。

ディスは支部1階を1周見渡すと、フィアナとメルドへ視線を戻した。


「俺メーゼの様子見に来たんだけどさ。 メーゼは?」
「あ、なんかさっき、調査に行ったって受付さんが」
「あー、見事すれ違ったな・・まぁいいか。 2人は今から依頼?」
「ベラハ岬まで貝殻や砂の採取に行くんですよ」

「ん。 そっか、気を付けてな」
「はい。 ディスさんもまた今度」
「いってきまーす」
「気を付けてなー、いってらっしゃい」


すれ違うように手を振り返し、
受付カウンターへと向かうディスの背中を見送る。

扉を越えカンパーナの街に出るなり、
出てきたばかりの旅団支部にメルドは振り返った。


「ディスさんとメーゼさんって仲良いですよね・・よく一緒なの見ます」
「生まれた頃から知る仲だと聞いています。 幼馴染なんでしょうね」
「ほえー、幼馴染・・・」


幼少期から居る友人というのが居なかったもので、
珍しそうにメルドは彼の姿が見えぬ扉に視線を向ける。

地元では子供が少なかったから年の近い友人というのがそもそも少なかった。


「あの、」
「はい?」
「あの2人ってもしかして、こ、こいびとだったりするんですか?」
「ふふ、」


勇気を振り絞って動揺混じりの質問に思わずフィアナが吹き出すように笑う。

興味ではあったけど変に声が浮いてしまったせいで、
妙に顔に熱が集まる。 うわ照れる。


「本人達からはそうではないと伺っていますけど」
「あ、そうなんだ・・」
「私もあの2人結構素敵だと思うんですけどね」


翡翠の瞳を細めて柔らかく笑み、メルドに倣うように扉越しに視線を向ける。

・・純粋なる興味だけど、フィアナさんはどうなんだろう。
疑問は湧いたが流石に本人に直接聞くような勇気は持ち合わせていない。

言葉をぐっと飲み込みマーケットへ向かうべく通路をぱたぱたと走り出した。


「あ、メルドさん」
「あっ、はい!?」
「マーケット、逆・・」

「あっ・・・・ あっ、俺カンパーナの地図分からない・・・!」
「ふふ、どこに行くつもりだったんですか?」
「どこだったんだろう・・すみません、案内してください・・」
「はい、お任せください。 ふふ」

「あーっもうフィアナさんずっと笑ってる!!」
「す、すみません。 周りの人皆しっかりしてるから新鮮で・・ふふ、」







フィアナに案内される形で向かったカンパーナのマーケット。

各街に設置されたマーケットはその街のみで経営される固定の店が多く、
特定の街での販売とは限らない露店は外であることが多いため、
建物から外に出ればすぐ呼び込みの声、というのも珍しくない。

ただしカンパーナは鐘の街であり、鐘の音を妨害しないためか
外に露店はほぼなく、マーケット内の一角が露店広場となっている。


「うわー、すごい・・こっち側全部露店ですか?」
「そうなんです。 毎日店の並びが違うので楽しいですよ」


がやがやと賑やかなマーケット内、販売している品がまとまっていない
露店スペースに視線惹かれるメルドを見ながら、彼女は小さく笑った。


「まずは分かりやすいものから買って行きましょうか」
「分かりやすいもの・・砂用の瓶、とか?」
「そうしましょう」


依頼達成に必要だと思しき目的の品をフィアナの案内、
または手分けしてマーケットでいくつかの店をはしごしそれぞれ調達する。

買い物も終わりが見えてきて、残り数点を探すラストスパート。

荷物を分担して持ち、マーケット内を2人で歩いている際、
メルドがふと思い出したようにフィアナを呼びかけた。


「フィアナさんは、どうして えっと、戦うようになったんですか?」
「戦うように・・?」
「普通科を卒業したのに旅団に入る人って、こう・・・
 凄く珍しい気がして・・・それで、なんでかなって」

「あぁ、戦闘員に転向した理由ですね?」
「そう! です」


上手く質問できずに長々と述べてしまったが、
フィアナが一瞬で噛み砕いてまとめてくれた。

高校を普通科を卒業して戦闘員になる人なんて聞いたことがない。
いや、自分が無知なだけかもしれないけど、珍しいのは確かなはずだ。

彼女は「そうですね・・」と呟くと翡翠の瞳を一瞬伏せる。


「お答えする前に1つだけ聞いてもいいですか?」
「ほえ? はい?」


人通りの少ない通路、不意に足を止めたフィアナは
マーケットの壁に寄り掛かる形で端っこに立つ。

・・歩きながら、買い物しながらではなくゆっくり話したい、のだろうか?
不思議に思いつつもメルドも倣うように彼女の隣に立ち壁に寄り掛かる。


「例えば、目の前に戦えない人が魔物に襲われそうになっていて。
 でもその魔物は自分よりも強くて勝てないことが戦う前から分かってます」


突然降っ掛かった例題に幾度か瞬きを繰り返す。
・・・特戦科の授業でも戦闘状況の例題はいくつか出た。

聞き逃さないようにとしっかりと耳を傾ける。


「周囲には助けを呼べるような人がおらず、街からも少しだけ離れています。
 ・・・メルドさんならどうされますか?」
「え、っと・・・ 助け・・はできないんですよね、
 魔物は強くて・・・魔物がどれくらい強いかにもよると思うんですけど、」


与えられた情報を頭の中でまとめながら、
うーん、と一頻り唸るようにメルドは考え込む。

フィアナは黙ってその様子を見守っていた。

10秒ほど経過しただろうか、メルドは絞り出すように口を開いた。


「逃げるという手段が取れるなら・・・時間、稼ぎ・・・かな・・・?」
「ふむ」
「勝てない魔物を相手にするのは怖い、し 勝つのも無理だけど、
 その人が逃げる時間を稼いで・・・自分も離脱、する・・とか」


多分これが俺の最善、と付け加えるようにして答えたメルドに、
フィアナは笑みを浮かべ納得するように頷きを見せた。


「そうですね。 今の例えに明確な正解はないですけれど、
 メルドさんの判断は個人的には凄く好ましいです。
 戦えない人を逃がしてから自分も逃げる。 犠牲者もなく平和ですね」


要約にメルドはこくこくと深く頷く。
彼女の翡翠の瞳はメルドの姿を捉えていた。

微笑むように翡翠の瞳を細める彼女は、一瞬その目を伏せた。


「・・・さて、同じ質問を受けた時には
 私もメルドさんと同じような解答をすると思うのですが」
「はい?」
「私は、戦闘員に転向する前からこの思考でした」


・・言葉の意味を理解しようと数秒悩み込む。

戦闘員に転向する前から、 彼女は、
反芻するように彼女の言葉を思い返しているとメルドの眉が急に寄った。


「・・・え、た、戦えないのに!?」
「あはは、無鉄砲ですよね。 多少自覚もあって」


笑みを零しながら笑うフィアナからは無茶をするようには伺えない。

・・・こんな優しそうな人も戦うのか、
出会った直後はそんな驚きもあったけれど。

戦えないのに魔物から人を助けようだなんて、
絶対にただじゃ済まないと分かりきっている。


「なので戦闘員転向の理由を答えるのはそう難しくないです。
 『より良い未来を選べるように、選択肢を増やしただけに過ぎない』」


エメラルドに似た翡翠色の瞳は煌々と、凛と輝いていた。





(元々争い事は得意じゃなくて、戦闘や武器といったものを避けてきました。
 人同士で対立が起これば、仲裁に入ることもしばしばありました)
(・・・・)
(でもある時気づいてしまって、気づかされてしまって。
 力がなくては避けれない道がある、 ・・遅かったなぁ)

(・・フィアナさんって、 ・・・凄く大人ですね、
 確か俺と3つ4つしか歳変わらないんじゃ・・)
(ふふ、大人になれてるかなぁ)






驚いたな、更新1年ぶりじゃないか?


メルド・ラボラトーレ
  戦闘員向いてないなぁ〜という自覚がありつつも、
  戦えるようになりたい気持ちが強い。 本当に戦えるようになりたい。
  最近ちょっと設定底上げできた気がする。

フィアナ・エグリシア
  決して無茶するようには見えないのに、
  それしか道がないと知れば人のために平気で命掛けられるような人。
  最近フィアナへの熱意が凄い気がする、私の。





 
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ