創作世界

□メルドの夏休み
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メルドの夏休み前 0



「そういえばメルド、貴方もうすぐ夏休みね」
「あ」


竹刀を肩に置くように掛けて、思い出したように
少年に声を掛けた長く蒼い髪の女性の言葉に、
真剣の刃を地に向けて「そういえば」と言いたげに
新緑のような色の後ろ髪を短く括った少年が顔を上げた。

とてつもなく広い砂混じりの地に引かれた白いラインはほぼ消えがかってる
顔を上げれば何メートルか高い位置に360度見渡す限りの観客席。
西方大陸にある世界有数のコロシアムだ。

サファリ旅団、十二使『夜桜』 メーゼ・グアルティエ
レーシュテア高等学院、特戦科1年 メルド・ラボラトーレ

一見何の繋がりもない2人は師弟関係にあたる。
接点も無いように見えて、メーゼの母校もレーシュテア高等学院だ

西方大陸に位置するレーシュテア高等学院
戦闘技術を授業として習う特戦科の生徒が多く、そして質も高い

勿論、他の高校の特戦科が劣ってるというわけではなく
レーシュテア高等学院が優れているという話だ。

良い教師が居れば良い生徒に育てることができる。
良い生徒が居れば良いアドバイスができる。

まさしく戦闘場面で活躍する有名人がOBとして様子を見に来れば
ご教授頂こうと在校生が集まる。 メーゼも例外ではなかった。
現に彼女はたびたび母校であるレーシュテア高等学院に訪れる

最近の訪れる理由はもっぱら、一番弟子であるメルドの回収だそうだが。


「夏休みは暇なのかしら」
「ん〜・・友達と遊ぶ予定とかはありますけど、基本暇っすね」
「ふむ」

「あ、でもここのコロシアムで8月末に行われる
 闘技大会は見に行きたいなと思ってて」
「あぁ、毎年開催の。 何故真夏に闘技大会なんだか
 全く暑くてやってらんないわ」


呆れたように小さく息を吐き出すメーゼの隣で、
はは、と苦笑いするメルド。

聞いた話では、彼女がアルヴェイト国所属である
シェヴァリエ騎士団の部隊長を務め2年目の時に闘技大会優勝したらしい
優勝が人間女性というのは相当珍しい事例なんだと。 そりゃそうだ。

闘技大会は旅団開催だから、旅団に当時の映像が
残っているという情報もメーゼから聞いた。

いつか録画越しでいいからメーゼの戦いぶりを見てみたいと
思っているのはメルドのささやかな願いだったりする。


「じゃーさ、提案していい?」
「提案? ですか」
「夏休みの間、暇なら私と共に行動してみない?」
「・・・え?」

「貴方、実践慣れで伸びるタイプだと思うのよね。
 そこで。 友達との約束とか、その闘技大会辺りのイベントとか
 できるだけ付き合えるようにスケジュール調整するから
 実際にいろんな国や街行って肌で覚えてみないか、って」

「え、でもメーゼさん十二使・・・」
「当然そこらの旅団員より忙しいわよ。
 メルドの負担にならない程度に動くようにするけど」
「うぐぐ・・・」


そういう意味で聞いたのではないんだが。

十二使ともあろう人に自分が着いて行っていいのかという意味だったが
本人はさほどどころかこれっぽっちも気にしていないらしい。

その十二使ともあろう人に弟子入りしてる彼も彼だが。

メーゼの誘いに口元に手を当てて悩むメルド


「ま、暇で興味があるならどう? って話。
 いろいろ考えてるけど予定は未定。 検討しておいて」
「あ、はい」







「はぁぁあ!? 『あの』メーゼと夏休み実践旅ぃ!?」
「うん、メーゼさんが誘ってくれた」
「なんだそれ、くそ羨ましいぞ。 行くのか?」

「前向きに検討してる。 あ、このお菓子美味い」
「だろ? ユリアちゃんが『お友達さんとどうぞ』ってくれたんだよ
 ・・・いや! オレが聞きたいのお前の師匠の話!!」


お菓子が乗ったローテーブルの上を左手の平で勢いよく、
バンッと叩くはメルドと同じく特戦科1年のゼーヴァ

勢いよく叩きすぎたのか、「いってぇー・・っ」と
机を叩いた左手を抑えるゼーヴァの、対面に座るメルドが
笑いながらゼーヴァの様子を見ていた。

レーシュテア高等学院、男子寮。

晩御飯も風呂も終え、就寝時間まで2時間ほど自由時間がある


「正直・・今でも信じられねぇや。 お前がメーゼさんの弟子かぁ」
「実は弟子である俺が一番驚いてるよ」
「メーゼさんやっぱ強い?」
「強い、めちゃくちゃ強い。 ほんと化け物だと思う、良い意味で。
 けど俺、メーゼさんが全力で戦ってる姿見たことない」

「・・・えっ お前と手合わせー・・の時は手加減してるとして
 たまに別大陸行ったりしてんだろ? 街道とかで見ねーの?」
「あの人の前じゃそこらの大型魔物もただの雑魚だよ」
「・・・・えぇー・・・ あの人マジ噂どおりの化け物かよ・・」

「3年前の闘技大会さ、世界部門で優勝してんだって」
「はっ!? それ帝国軍とか騎士団も参加する奴じゃねーの!?」
「うん、そこで最年少で優勝だって。 録画映像もあるみたい」

「は・・? あの人確か若かったよな・・3年前ってメーゼさんいくつ?」
「21? だと思うけど」
「・・この世にはとんでもない人が居るもんだなぁ、おい
 あの人、亜人の血混じってたっけ?」
「・・・いや、そういった話は聞かないな。 両親は人間っぽいけど」

「今24歳だっけ? あの人」
「うん、そのはず」
「24であの完成度かよ・・・
 そりゃぁ歴代最強生徒って謳われて当然だよなぁ」
「だよね」

「メーゼさん、よくココ来るけどオレら生徒のことなんか言ってた?」
「在校生の話ならちょくちょく聞くけど・・うーん、」
「アルトとかは?」
「才は有るけど心配だって言ってた。 頭回ったらもっと化けるのにって」

「・・頭?」
「頭。」

「メーゼさん曰く、お前って才はあるんだっけ?」
「あー、 うん、実感ないけど。 アルトと完成度比較予想は聞いた」
「完成度予測とかできるのかよ、あの人。
 その比較予想って聞いても大丈夫な奴? お前傷つかない?」

「あ、平気。 えっと、全体能力値だとやっぱアルトの方が若干強いみたい」
「あー、まぁあいつはなぁ」

「うん。 攻撃力とか、防御力は単純に強いってさ。
 いざって時の底力は凄いみたい。 反面、魔術はマイナス方面だって」
「分かる。 アイツらしいよな、スペックが」
「ね、本人気にしてないけど」

「お前は?」
「んー、やっぱアルトに比べると攻撃防御は劣るみたい
 逆に魔術だけならアルトには余裕で勝てるんだって」
「あ、お前狭く特化型じゃなくて広く優秀タイプだったんだ?」
「らしい、人並み以上にはなれるって。 信じらんないよね」

「今のお前、魔術ほんっとからっきしだもんな。 覚えねーの?」
「うーん、今は剣と勉強で頭いっぱいだからなぁ
 2年生になったら考えようかな、って思ってる よ?」
「ふっ、なんだ今の間」







メルド・ラボラトーレ
 本作主要ストーリーの主人公。 レーシュテア高等学院特戦科1年生
 寮暮らしでメーゼの一番弟子。 夏休みの間、実践旅行の誘いがあった
 実技学年トップを争う同学年のアルトは尊敬の対象だけど、
 メーゼに「憧れるのはいいけど目指す場所は違う」と諭された。

メーゼ・グアルティエ
 サファリ旅団、十二使の一角を担う若手。 異名は『夜桜』
 この時点で既に誕生日を迎えており、現在24歳。 基本的に忙しい
 種別性別関係無し、命奪わず・回復魔法で治る範囲なら何でも可という
 ルールの世界部門を21歳で優勝するという武勇伝持ち。

サファリ旅団
 メーゼ属するサファリ旅団。 世界規模の大きな組織で、
 現旅団長はハイノ・エルンスト。 この組織の幹部的存在が十二使。
 闘技大会主催、この世界の移動手段、魔物討伐など
 基本的にこの旅団の存在がないと成り立たないことが多い。

闘技大会
 8月末に西方大陸のコロシアムで行われるサファリ旅団主催の闘技大会。
 参加部門は3つあり高校部門は特戦科推奨、一般部門は高校卒業以上で
 「十二使や部隊長には敵わないけど、腕には結構自信あるぜ」って人推奨
 十二使、騎士団部隊長など並外れた戦闘能力を持つ者は大体世界部門

レーシュテア高等学院
 西方大陸にある特戦科に力を入れた高等学院。 メーゼの卒業校。
 人間天使悪魔亜人、関係なくいろんな種族が居るが、
 特戦科の実技試合は人間とフェアになるように翼は封印するルール。
 すぐ近くに巨大コロシアムのある戦神の街、アニティナがある

ゼーヴァ
 寮内でメルドと対話していた、レーシュテア特戦科1年。
 アルト・ユリアとは高校からの付き合いで、
 アルト曰く「女子相手に少しチャラいとこある」。
 メルドにとっては能力順位関係なく接してくれる良い友達。

ユリア
 名前だけの登場。 レーシュテア特戦科1年
 回復魔法が得意で、魔術補助分野の授業を受けていることが多い。
 しれっと手作りお菓子を差し入れするほどの女子力。

アルト・ディーレ
 名前だけの登場。 レーシュテア特戦科1年
 物理攻撃分野にて、実技戦闘は学年トップ争いできるほどの生徒
 普段は運が悪いのか至るとこで怪我してる。





 
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