創作世界

□メルドの夏休み
4ページ/16ページ






メルドの夏休み 2



「夏休みの間、貴方を一時的にこっちに入団させようと思ってるの」
「・・・・ 旅団にっすか?」


レーシュテア高等学院から、徒歩移動でアニティナへと向かう街道の途中

旅団員と同じように行動するとは言ってもこれからどうするのか
とメーゼに質問をしたメルドが5秒後、自分を指差して瞬きを繰り返した。


「え、 つかそれって旅団員と同じように、っていうか」
「寧ろ旅団員ね」
「・・・っえ」


小さく口元に笑みを浮かべたメーゼに、彼は再度驚きに満ちた声を発した。

サファリ旅団といえば世界規模の有名組織。
知らない人物は世界で0.1%居るか居ないかだろう

この世界の移動手段はほとんど旅団が提供しており、
一般市民に最も貢献している団体と言っていい。

旅団員は基本的に戦闘を必要とするため、入団条件は高校特戦科卒業、
またはそれに匹敵する戦闘力、もしくは学校や家族などが許可を出した
特戦科在校生であること等が求められる。

特戦科の2年3年は夏休みの間、旅団に一時入団して
旅団員を体験する生徒もそう少なくはないが、
戦闘授業を習い始めたばかりの1年はそうは行かない。

いくら学年トップだったとしても、それはあくまで
「戦闘初心者ばかりの学年トップ」であって、
戦闘3ヶ月程度の特戦科生徒が最低限のラインを超えてるわけではない。

当然危険度も高くリスキーなので、
学校としても容易に許可を出すわけには行かない。

さて、彼女の弟子に入ったメルドは許可が出されない1年生であるわけだが。


「当然だけどメルド1人で行動させる気はないわよ。
 そもそも貴方1人で街道歩けないでしょう」
「う。」

「ま、特戦科1年の夏休み。 戦闘3ヶ月で街道を歩ける生徒ってのは
 上達早い遅い関係無しで『居なくて当然』なの。
 別にメルドが気に病むようなことは何もないわ」


話し終えたばかりのメーゼが右側の平原に目を向けるなり
歩いたまま右手を平原に向けた。

メーゼの足元を中心に緑色の魔術陣が広がる。

平原に向けた右手を上から下に抑えるように振ると、少し遠くに居た魔物が
風魔術で刻まれるようにダメージを受け、地に伏した。

「移動しながらの魔術のコントロールは難しい」「距離感が狂う」と
クラスメイトがぼやいていたのを思い出すメルド。

隣を歩くメーゼの表情は何事もなかったかのようにすまし顔だ。


「・・そーいうメーゼさんは・・?」
「元々私は特戦科入る前からある程度実力あったからね、歩けたわ。
 身近なとこに武器があったし、ディスとずっと殴り合ってたから」
「殴りあっ・・・・」
「子供の遊び範囲よ。 歳重ねるごとに本格的になっていったけどね」


小さく笑みを浮かべたメーゼが正面を向いた。
メルドもつられて顔を向けると街への入り口門が目の前に。

戦神の街アニティナ。
レーシュテア高等学院から最も近い街。

歴史に根強く残った世界異変時、地上に溢れ返った魔物の討伐に
一役どころか二役も三役も買ったという戦神が眠りに付いた場所なのだそう

人も多く活気もあり、闘技大会が行われるコロシアムは
この戦神の街アニティナにあるものだから、8月の終わり
闘技大会の観戦しに来た滞在者の多さは尋常じゃない。


「まずはここの支部で旅団員登録してもらおうかなって」
「高校1年で旅団デビューは・・まさかでした・・・
 っていうか学院からの許可は・・・あれ?」
「学院が出さなくても私が出すわ」
「じゅ、十二使強いっすね・・」


門から真っ直ぐ伸びる石畳の大通りを歩いていく
大通りを挟むように露店があり、威勢のいい声が両側から響く。

メルドは戦神の街アニティナも露店も初めて見るわけではないが
毎度真剣に見てるわけではないので興味が湧くらしく、
先程から周りをきょろきょろと見渡している。

その様子を見たメーゼがメルドに声を掛ける。


「露店回りの時間くらいあるわよ。 後で行く?」
「い、行きますっ」
「ん」

「あ、そーだ。 メーゼさん、旅団の依頼ってどんなのが?」
「街によって変わるけど、結構幅は広いわよ。
 魔物討伐だの収集採取だの道整備だの護衛だの物探しだの」
「さ、流石っていうか 戦闘系の依頼が多いっすね・・」
「旅団だからね」


アニティナの街を歩きながら、メーゼはメルドに簡易な説明をした。

旅団の依頼は戦闘系や遠征系が多いこと。
受付に希望を出せば、ある程度の依頼範囲は狭められる。

配達系の依頼は基本「配達専用旅団員」が受けるので依頼一覧にはないこと。
とはいえ山奥の街や、飛空挺が着陸しない場所への配達は
普通の旅団員が受けて届ける場合もあること。

報告の仕方、パターン、報酬の受け取り方、等

一度に沢山の説明を聞き、頭がパンクしそうなのか
疑問符を浮かべ頭を抱えるメルドに
「だから貴方は体で覚えるタイプだって言ってる」とメーゼは小さく笑った。


話しながら辿り着いた旅団支部。 建物はすぐ目の前にあり、
メーゼは旅団支部の看板に一目向け、直後茶色のドアを開けた。

メーゼが抑え、開けられたままの扉から
メルドが慌てて滑るように建物の中に入る。
彼女も後を追い、旅団支部の中に入った。

冷房の効いたアニティナ旅団支部1階。
活気ある大通りとは打って変わって静かな室内

入り口とカウンターから少し外れた場所では、
支部受付らしい男性と依頼人らしい女性がテーブルを挟み会話している

カウンターまで真っ直ぐ歩いていくメーゼの後ろを、小走りで追いかけた。

受付カウンター越しに作業をしていた若い男性が、
メーゼに気付き顔を上げ、席から立ち上がった。

メーゼはズボンのポケットから、小さい手帳を取り出して受付に見せる


「あぁ、お待ちしておりました」
「書類の準備できてる?」
「はい。 上の階でもよろしいですか?」
「そうして」
「かしこまりました」


頷いて机の整理を始めた受付の男性。

メーゼは先ほど取り出した手帳をズボンのポケットにしまった

そそくさと机の整理をし終え、ファイルを持った男性が
「どうぞ」と2階へと続く階段に案内する。


「しょ、書類・・」
「一応団体組織だからね。 手順はあるわよ」
「正式な旅団員?」

「身分はね。 旅団から見ればお試し期間のアルバイトってとこかしら
 だから正式登録とは書類の内容も違ってくる」
「あ、そっか。 期間限定の上に学生だから・・?」
「そういうこと。 ちゃんと特戦科生徒専用の書類があるの」







メルド・ラボラトーレ
 今作主人公。 レーシュテア高等学院、特戦科1年。
 勿論特戦科生徒なら旅団には憧れるが、まさか1年でお試し旅団員は
 予想してなくて困惑しまくってたらメーゼに笑われた。
 戦闘中や修行中は若干長い後ろ髪をくくるようにしてる。

メーゼ・グアルティエ
 旅団十二使の一角を担う『夜桜』 現状、十二使最年少の24歳。
 剣でバッサバサやっていくから物理人間なのかと思いきや、
 凄腕魔術師と称される人物とほぼ同レベルの魔力量を持つ。
 受付に見せた手帳は十二使であることの証明する証みたいな奴。 十二使証

サファリ旅団
 この世界の移動手段のほぼ全てを受け持つ超巨大規模組織、旅団サファリ
 この世界の全ての人物が戦えるわけではないので、特戦科生徒等の
 戦力育成にも積極的にサポートしてる。 基本的に各街に支部が設置されてる
 旅団支部の設置がされていない街ではポストでの依頼受付が可能。

ディス・ネイバー
 名前だけの登場。 メーゼとは同じ村出身で同じ学校を卒業した腐れ縁。
 旅団の中では割りと有名な大剣使いの旅団員。 騎士団部隊長だったメーゼを
 旅団に勧誘したのはこの人。 旅団歴ではメーゼより先輩だったり。

戦神の街 アニティナ
 世界異変時、溢れかえった魔物の抑圧・討伐に一役も二役も買ったという
 戦神が眠りに付いた街。 レーシュテア高等学院の最寄街であり、
 8月末の闘技大会の開催地であるコロシアムがある。
 普段は訓練場などとして開放されてることが多く生徒達もよく通う





 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ