創作世界

□メルドの夏休み
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メルドの夏休み 3



「それじゃぁ、はい。 旅団員証と学生旅団員って証のバッジ。
 バッジは装着任意だから着けたければ、ってことでね」

「おぉー・・・」


目をキラキラさせながら、テーブルを挟み対面のソファに座る
受付の男性から旅団員証とバッジを受け取る。

旅団員証の表は、ベースが暗めの赤で旅団印が描き込まれている。
その裏は「メルド・ラボラトーレ」と所持者の名前と年齢
入団日時や旅団員としての心得、他注意等と文字列が並んでいる。

まじまじと旅団員証を見つめているメルドの
隣のソファに座るメーゼが小さく笑みを浮かべた。


「良かったわね。 学生で期間限定とはいえ正式な旅団員よ」
「な、なんだか 夢みたいです。 写真撮ってもいいですか?」
「どうぞお好きに」


メーゼの言葉に、メルドは受付の男性から受け取った旅団員証と
バッジを机の上に並べた後、学院から持ってきた鞄の中身を漁り始めた。

目当てのカメラを鞄から取り出し、セットをして構える。

カメラを構えたメルドの様子を見た受付は、
メルドの隣に座るメーゼに目線を移した。


「メーゼ様、しばらくはアニティナに滞在されるご予定ですか?」
「彼の修行がてら滞在もいいかなとは思ってるけれど・・
 何かまずいことでも起きた?」

「大きなことではないのですが・・どうも最近魔物の動きが活発で」
「あぁ・・・こっちでも話題に上がってたわね」
「その影響で護衛・討伐依頼が処理しきれてないのですよ」

「撮れたっ! ・・・っあ。」


会話をぶった切るようなカメラ独特の音と共に、
声をあげたメルドが慌てて口元を抑えた。

恥ずかしさが込み上げてきたのか、俯いていくメルドに
受付の男性が優しい笑みを浮かべた。


「すみません、メルド君が居ないところで相談するべきでした」
「ふふ、確かに水差すような感じで悪かったわね。
 私はもう少し話していくけれど、先に露店見物しに行く?」

「俺、居ない方がいいですか?」
「・・別に居ても問題はないわよね」
「問題はないですね。 少々つまらない話かもしれませんが」
「あ、なら 聞いてってもいいですか・・?」


カメラを足の上に置き、おずおずとそう切り出したメルドに
メーゼと受付の男性は何度か瞬きをした。

メルドはまずい、と思ったのか
「あっ、えっと」と身振り手振り説明に入ろうとする。


「この辺りの魔物の話なら、俺も全然無関係というわけじゃないし・・
 い、一生徒と一団員として・・? みたいな・・・」


居心地悪そうに頬を掻きながら、受付の男性とメーゼを交互に見比べ
だんだん俯きがちになっていくメルド。

隣の席から「ふ、」と小さな笑い声が聞こえ、メルドは顔を上げた


「・・・別に聞くなとは言ってないわよ。
 寧ろ前向きに知ろうとする貴方の真面目さは評価しているわ」
「あ、ありがとうございます?」


メルドの疑問符付きの礼を聞き終えた後、
メーゼは受付の男性へと目を向けて小さく頷いた。

『話を続けていい』と。

男性は「それでは・・」と改めて口を開いた。


「まず、アニティナ・レーシュテア高等学院周辺ですが
 魔物の行動パターンの変化報告がしばしば目立ちます」
「行動パターンの変化・・・何者かが関与している可能性は?」

「研究所に魔物2種を送り、現在は結果報告待ちです。
 現段階、まだ調査中ですが・・直接的な改造はなさそうだと」
「・・・また違うのに手出してきたかな」
「メーゼ様もそう思われますか?」

「真っ先に疑う癖やめたいんだけどね、なんせあの連中だから。
 調査結果が出たら回してくれる? 上への報告は私がするわ」
「承知しました。 助かります」
「・・・・??」


話を再開すること20秒、既にメルドの眉が寄せられている。
そんなメルドの様子を気にせずに話を進めていくメーゼと受付


「討伐の方、残ってるのってランク高いのばかりかしら?」
「・・・寧ろ難度高い物しか残ってないですね」

「・・分かった、この周辺の魔物討伐は私が今受けるわ。
 護衛は時間食うからパス、それで依頼一覧出して」
「かしこまりました。 少々お待ちください」


男性はメーゼとメルドに礼を1つした後、
ファイルや書類を手に持って席を立ち、1階への階段を下りていった。

ソファの肘置きに肘を付き、頬杖をしたメーゼが小さく息を吐き出す。


「あ、あの メーゼさん・・?」
「何?」
「魔物の活動が活発なのは・・・えっと、
 メーゼさんは、人為的な物と読んでる・・ってことですか?」


半分信じられない様子でメーゼに問うたメルド。
彼女は小さく頷いて肯定を見せた。


「そっ、んなことできるんですか・・!?」
「驚くことにあの手この手で仕掛けてくる奴らが居るのよ
 仕込みを勘付かせずに、気が付いた頃には既に動いてる・・」


信じられないくらい用意周到で、念入りな奴らがね。

伏せた瞼をゆっくりと開き、何もない空間を見据えたメーゼの横顔は
メルドですら少し張り詰めた空気を感じ、息を飲んで頬を掻いた。

彼女は少しだけ窓際に目線を向ける。


「・・8月か。 また嫌な時期ね」
「?」
「今の話、『機密』だから他言無用よ」
「えっ!? あ、はい!?」


突然の機密発言にメルドが動揺しつつ返事を行う。

・・・そもそも「十二使」という存在そのものが機密であることは、
この際黙っておくべきなのだろうか。


「さて、話の通り数時間ほど魔物討伐で単独行動するわ。
 貴方は好きなように動いてなさい」
「あ。 その魔物討伐って、メーゼさん1人の方が都合いいですか?」
「そうね、1人の方がいい。 あまり時間は掛けたくないわ」


その返答を聞いた後、「数時間・・・」と呟きながら頬を掻いて
悩んだように「うー」と唸ったメルド。

隣でその様子を見ていたメーゼは小さく息を吐いた。


「旅団員になったんだから依頼の受け方を覚えるとか、工房見学とか。
 さっき言ってた露店巡りとか時間潰す方法はいくらでもあるでしょう」
「あっ。」







メルド・ラボラトーレ
 学生で夏休み期間限定とはいえ、正式な旅団員になった特戦科1年。
 しかし1年生で戦闘力が規定値に達していないので
 「戦闘の可能性を含む依頼は2人以上で組むように」というのが条件。
 扱う武器は剣で、現在は学院で支給された剣を使用している。

メーゼ・グアルティエ
 もう言わずと知れたサファリ旅団、十二使『夜桜』
 現在進行形で旅団と敵対する組織の幹部と戦闘になっているが、
 メルドには話したことが無い。 機密でもあるので意図的に伏せている。
 この後、数時間ほど周辺の魔物討伐に走るので一時離脱。

旅団員証
 メーゼの持つ十二使証とはまた別で、一般旅団員が持ってる奴
 表は旅団印、裏は注意事項や心得、入団日時などが掲載。
 カラーリングが固定なのか、複数あるのかは考え中ではあるが、
 メルドが受け取った旅団員証のカラーリングは暗めの赤だった。





 
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