創作世界

□メルドの夏休み
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メルドの夏休み 5



討伐依頼等を請け負うだの、店で武器の見比べ等をし、陽は落ちていった。

少し遅めの晩ご飯を済ませ、アニティナでの泊まる場所を
各々確保していた2人は、店で少しの会話と共に別れ、その日を終えた。


翌朝、クラスメイトである友人宅に泊まっていたメルドは制服を身に纏い、
朝ご飯を終えて一息着くなり早々と旅団支部へと向かう。

朝市として並ぶ露店が賑わっているのか、
人々のざわめきが少し遠くから耳に届く。

石畳の道を駆け足で。
メルドはアニティナ旅団支部の扉を開けた。

カランカランと扉上部に付けられた鐘の音。

カウンター越しに居る、昨日とは違う受付の男性が
「はい、いらっしゃいませ」とメルドの方へと振り返った。

まだ朝だからか人は見当たらない。


「お、おはようございます」
「おはようございます。 何かご用事ですか?」
「すみません、あの メーゼさんを探しているんですけど・・」
「あぁ、君がメルド君?」


受付の男性の問いに、自らの名が出てきたことに驚いたメルドが
目をぱちくりとさせながら数度頷いた。


「メーゼ様なら上階の執務室に居られるよ」
「執務室」


自分には程遠い単語に繰り返して呟く。

・・忙しそうだろうか、
呼び出していいものかと悩むメルドに、受付の男性が声を掛けた。


「昼からメーゼ様と別の街行くんだってね。 何か用事できた?」
「あ、大した用事じゃないんですけど」
「うん」

「アニティナに居る間に、直接手合わせしてもらいたいな、と
 思って・・いたんですけど・・・メーゼさん、忙しそうですかね・・?」
「あー、成程。 流石に都合までは聞かされないからなぁ」


苦笑いの受付に、メルドが唸る。

この1、2ヶ月ほど 数回メーゼと共に大陸移動をしてきたが
彼女の忙しさは並大抵のものではない。

一応眠ってはいるそうだが、その睡眠時間は決して長くはなく
メルドが目覚めた時には彼女は既に出かけた後なんてことはザラである。


「直接お聞きしてきたらどうかな?
 執務室の扉、ノックして名乗れば開けてくれると思うから」
「うーん・・そうします。 ありがとうございます」
「どういたしまして」


受付の男性にお辞儀をして、それを見た受付が笑いながら小さく頭を下げる。

メルドは受付カウンターから離れ、
支部1階の奥に設置された階段を上っていった。

響く自らの軽快な足音を聞きながら2階へ。

旅団員になる手続きの際に使用したテーブル、ソファの横を通り過ぎ、
奥の壁に執務室、と書かれたプレートの下がった扉の前へ。

少し遠慮がちに、扉へのノックを2度。


「メルドですけど、 メーゼさん・・?」
「鍵開いているわよ」


扉越しに返ってきた言葉に、メルドはおずおずと扉を押す。

すん、と鼻に漂ってきた落ち着いた香り。
室内は黒茶の本棚や、茶色の床、壁等が落ち着いた色で統一されている。

まさに執務室・・そう言いたくなるような雰囲気だ。

室内の奥では窓側に設置された執務机に向かい
椅子に座っているメーゼが、万年筆を片手に何かを書き込んでいる様子だ。

室内に入り、ゆっくりと扉を閉める。


「どうかした?」
「あの、今忙しいですか?」
「特別ってほどでは」

「アニティナ発つ前に、コロシアムで手合わせしておきたいな、と」
「朝からよく動くわねぇ」


半分呆れたように笑った気配のするメーゼは、
未だに顔を上げておらず、メルドの姿を視認していない。

執務室にカリカリと、何かを書いている音だけが響く。

彼女からそれ以上の返事は来ず、メルドが小さく頬を掻く。


「・・・え、 と」
「ちょっと待ってて、この書類だけ終わらせちゃうから」
「・・あっ、 いいんですか!?」
「聞いておいて何を。 一応こっちは、
 基本的に貴方の要望には付き合うつもりでいるのよ」


書類から目線を上げ、メルドの姿を視界に収める。

彼女の藍色の瞳は、いつもどおりで
メルドはぱあっと顔を明るくさせた。


「あっ、じゃぁ俺コロシアムの手続きしてきます!」
「ん」

「・・・あっ、 か、 貸し切りじゃなくていいんです、よ ね?」
「通常で構わないわ。 やり方は分かる?」
「な、何度か見てたから 大丈夫、だと 思うんですけど・・・?」
「・・まぁ受付も居るし。 行ってらっしゃい」







アニティナの北東に位置するコロシアムへと向かい、
受付で使用報告を済ませた彼はコロシアムの中へと立ち入った。

観客席へ通じる通路ではなく、試合場へ向かう廊下を小走りで。

開けた場所に出たかと思いきや、
がらんとしたほとんど人の座っていない観客席。

中心の試合場では貸し切りじゃないからか、
数名ほどが素振りだの魔術だの、各々が練習しているようだった。

静けさ舞うコロシアム。

この静けさが嘘のように、旅団開催の闘技大会は人で溢れ返るのだ。

辺りを軽く見渡し、貸出されている武器庫へと向かっていく。
武器庫は引き戸であり、扉を開けた時に鼻に付く鉄の匂い。

扉を開けたまま、武器庫に入り目当ての物を探す。


「木刀、木刀・・・」


ぶつぶつと数度唱えながら、武器を見渡した後
木刀の入ったケースを見つけ、木刀を一本取り出した。

鉄で作られている実剣に比べると相当軽い。
・・・この軽さの木刀で、あの攻撃の重さと来たら。

手合わせした際のメーゼとの戦闘を思い出して少し首を傾げる。


「見つかった?」
「うわっ」


突如背後から掛けられた声に驚いて肩が跳ねる。

振り向いた先に居たのは長く蒼い髪を揺らしたメーゼで、
彼女は「失礼ね」と言いながら呆れたように溜息を付いた。


「注意力散漫」
「はいっ、すみません!」
「何か考えてたの?」


継続するような呆れの表情はそのまま、
溜息からの笑みにメルドは瞬きを繰り返す。

話しながら差し出された右手は木刀を手渡せの合図だったようで、
彼はメーゼに持っていた木刀を渡した。


「や、なんか、ここ来たらいろいろ思い出しちゃって」
「うん」
「思い切ってメーゼさんに弟子入り志願して・・・
 一度断られたのに、俺よく食い下がったなぁって」


木刀を片手に武器庫から出ていこうとするメーゼを後を追い、
彼女の後ろではは、と笑いを溢す。

志願したあの日から、まだ3ヶ月も経っていないのだ。


「弟子は取らない主義だってのは言ったけど、理由知ってたっけ?」
「え、 や、知らないですね」
「そっか」


発言を短く切ったメーゼは、周りを見渡した後
人の少ないスペースの方へと歩いていく。

メルドはその後を小走りで追いかけた。
背が高いからか、意外と彼女の歩くペースは早い。


「私の弟子になりたいなんて、どうせろくな奴じゃないって」
「・・・ろくな奴じゃない」
「元々人に教えられるような戦い方じゃないし、
 基本型を教わるならば私よりも適任な人物が確実に居るもの」


片手に弄ばれる木刀は宙をひゅんひゅんっと掻き回していく。
周りに人の居ない場所で、メーゼは軽く身体を動かす。


「・・食い下がった俺が言うのもなんですけど、
 なんで俺は弟子にさせてくれたんです?」
「そりゃあんた・・この流れで行くと1つでしょ。
 メルドがまともだったからじゃない?」


ふ、と向けられた笑みはいつも通り。
彼女の藍色の瞳はどこか透き通ってるようにも見える。

さぁ、やろっか と告げたメーゼの声に、
メルドは慌てて準備に取り掛かった。







メルド・ラボラトーレ
  メーゼに弟子入りしたレーシュテア1年。 作中でも触れたが、
  メルドは一度メーゼへの弟子入りを断られている。
  なかなかキャラの掘り下げができずに困ってる。 ガチで

メーゼ・グアルティエ
  メルド+7cmの高身長。 元部隊長の肩書がある十二使『夜桜』
  正直キャラの掘り下げに関しては個人的には割りと充分すぎるほど
  ただ掘り下げすぎて、彼女絡みで書きたいシーンは常に上昇傾向である。

コロシアム
  アニティナの北東に一するでっかいコロシアム。
  一応使用の際に手続きが居る。 貸し切ることも可能ではある。





 
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