創作世界

□十二使『夜桜』の生い立ち
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至って普通の家、至って普通の両親の元。

チートだ人間じゃないだ散々言われてきたが、
正直な話、自分でも何故そんな普通の家族、普通の家から
こんな奴ができたんだろうと疑問に思う。

今のは決して自分を卑下にした発言ではないが、
いくら私でも流石にこれくらいの思考は許されるだろう

至って普通の場所に生まれたと自分では思っているが、
未だに村出身の村育ちだと言うと驚かれる。 そんなに意外か。

生まれがそうであるように、出身の村も殺伐とした場所ではなく、
自分の身を守らなければ明日はない、なんて そんな場所じゃなくて
いや、寧ろ殺伐の欠片もないようなそんな村。

けれど物心付いた時には身近な場所に武器という存在があった


それも大して殺伐とした理由ではなく、
村に住む年寄りの男性が家にコレクションしていただけ。

当時は家に沢山の武器を置いてる変わり者のおじいちゃんという認識で
よく遊びに行ったり、軽率に武器を見に行ったものだが
今はうっすら記憶に残る当時の自分を引っ掴んで謝らせたい。

同じ村に住む年寄りのおじいさんは、
アルヴェイト国の元騎士団部隊長だったという。

事実を知った時、既に物事の意味を理解できる歳
本人を前に素で「は?」と言ってしまったのは良い思い出だ。

その後、私は縁があり騎士団部隊長となり過去の栄華、歴史や彼の活躍を知り、
本人への認識を改めて、所持する武器の量に納得するのと同時に
小さい頃からの癖とはいえ、敬称は外せないと確信した。

何故あんな村にゆったり暮らしていたのか不思議だ。
今となっては気持ち自体は分からなくもないのだけれど


そのおじいさんの影響もあり、真っ先にとやり始めたのが
同じ村出身で腐れ縁のディスとの戦闘ごっこだ。

やり始めた当初の方こそ可愛らしい遊び範囲だったけれど、
5歳、8歳、10歳、12歳 と年月が過ぎていくごとに
確実に「戦闘ごっこ」の内容は別物になって行った。

部隊長を担った魔術師とはいえ、村には戦闘のプロが居るわけで
当然ちょっかいという名の指導が入る。

プロの指導があれば、そりゃいくら子供とはいえ上達もするだろう

よくよく考えたら彼の存在が、
私の戦闘能力の限界値を早めてしまったのでは?

そうじゃなきゃいくら縁があったとはいえ、
高校卒業数ヶ月で騎士団部隊長なんてやってられないわ。


中学生活も後半に差し掛かる頃には、
私とディスの2人で魔物の出る街道を歩くことが出来たし、

高校に入る頃には、周りの特戦科志望の戦闘経験のない生徒達とは
一目瞭然、歴然の差が生まれていた。

流石にプロから教わっただけあって、
先生方曰く戦闘スタイルは非の打ち所がないらしく。

ぶっちぎりで1年トップだった私とディスは高校生活、最初の1ヶ月を
剣士志望の同い年に振り方や構え方、受身なども教えていた。

この時の自分は普通だと思っていた。

この時点でも相当可笑しいかんな、とディスに横から言われた時は
「アンタも人のこと言えないんじゃない」と鼻で笑ったもんだ。

そういえばディスとほぼ互角だったのは高校入るまでだった気がする。


じんわりと、着実に。

高校生、男女の差でディスが優勢になるかと思いきや
約7、8年目となる本気の手合わせは、私が押すことの方が増えた。

「メーゼそんな強かったっけ」って苦笑いをするディスに
自分の手を見つめて疑問符を浮かべた。

ディスが弱くなってるわけじゃない、寧ろ前より手強くすら感じる。
それなのに戦闘中、「あれ?」と思うことが増えた。
何に対しての疑問だったのか。 自分への疑問符だったのか。

今になって思うけど高校に入る直前まで、女子である私が
男子であるディスと互角だった時点で気付くべきだったのか。


確実に何かが変わった高校2年。

最近の趣味であった夜間散歩に、と
学院最寄街であるアニティナに向かったある日の夜。

私は明らかに魔物ではない、何者かから襲撃を受ける。

魔物の出る街道を歩くから、と言い武器を持ち歩いてたのが救いだった。

いくら散歩してて目が慣れてたからといい、
昼間と違って視界がはっきりとしない夜間の戦闘。

体格からして両方とも成人男性、
暗視ゴーグルも付けている黒い衣服の剣士2人組。

戦闘してて相当やりにくさを感じたから、下調べされてると察する。
最初から私をピンポイントで狙っていたような、そんな雰囲気だ

明らかに戦況は不利。 下調べされてるせいでなかなか当たらない刃
痛む切り傷、 流石にまずいと思った

・・何分くらい経っただろう

出血のし過ぎだったか、バランスを崩したのかは覚えてないけれど
がくんと自分の膝が折れて、地に片膝を付いた。

流石に成人男性2人相手ともなると体力の消耗が激しい。
肩で息を繰り返し、少し虚ろな視界で剣士2人組を見上げる

2人は小さく頷き合ったかと思いきや、闇へと消え去った。

・・・今のは一体、

考える暇もなく、直後ぐらりと眩む視界に
地に手を付き意識失いそうになったのをどうにか留める。

この後は持ち歩いていた通話機器でディスに連絡入れて、
学校側で処置してもらうことになるが、まぁこの話はいいだろう。


証拠品も残らず、私の身辺に妙な動きが見えたわけでもなく、
旅団にも依頼が行ったらしいがこれといった情報は得られず。

つまり相手はプロだったわけだ。
足跡が付かないくらい、用意周到に。

襲撃のあった夜のことを思い出して、肩が震えた。
それに気付いたかは定かではないけれど、それからというもの
2年生の間はほとんどディスが付きっ切りでずっと傍に居た。

ついでにその腐れ縁から1人の夜間外出禁止令が出されたのも話しておこう。

「もし行くならぜーったい俺連れてけ!!」と
胸倉掴んでキレ気味な表情で言われたら流石に黙って頷くしかない。
っていうか普通、腐れ縁とはいえ女子の胸倉を掴むかな。


まぁそれはさておき。 身の回りや周りの対応も
随分と変わったものだが、それ以外にも変わったことが。

感覚。

襲撃後、完治した状態で誰かと手合わせを願うと
3年の特戦科トップが名乗り出てくれた。

学年混合の試合形式でも何度か相手をした手強い相手だ。

手合わせ開始5秒後、
襲撃前まで、ほぼ同速度だった先輩の動きが遅いと感じた。

それだけじゃ済まず、動作1つ1つが妙に目に付く。
動作の直前に行う仕草、武器を振るタイミング、攻撃への勢い、力加減。

「先輩。 申し訳ないけど 隙だらけです」

本人にそう伝えた3秒後、仰向けで地に倒れる先輩の
心臓があるだろう胸に、私は木刀を向けていた。

何が起こったか分からなかったかのように目を白黒させる先輩に
私は大きめの溜め息を吐いて、木刀を先輩の胸から離す。

周りの生徒、いや 生徒に限らず教師まで 全員が、唖然としていた。

2年トップだった私と3年トップだったこの先輩は、
参考になる良い試合をするのだと評判だったらしい。


つまり自分が感じた疑問は片鱗だったわけだ。

結局私を襲撃した2人組の所在や組織、狙いも全く掴めず。
ただ「恐ろしい才能の生徒が居るから脅かさない今のうちに殺しておこう」
という算段だったんだろう、 と今なら推測できる。

結局その算段は、意識を切って眠ることへの恐怖と引き換えに
私の戦闘能力を高めただけだった。

・・・何故、あの時 私を殺さなかったのか。
瀕死で生かしたことに意味はあったのか。
瀕死にして、自然と死ぬのを待ったのだろうか

それともただの一学生だった私を殺せば、
十二使が動かざるを得ないと判断したからだろうか。

疑問は消えきらないものの、その1件で私は
足りない物を突きつけられるのと同時に、戦闘能力が数段階ぶっちぎった。

変わった視界。

その日を境に 私は特戦科2年生トップではなく
学院の特戦科トップに立った。 それも圧倒的な差で。


学院での特戦科授業が一気に暇になったのもその頃だ。

最寄街アニティナにあるコロシアムで、ディスと手合わせした際
感覚と視界が変わったことを周りの誰よりも一番詳しく話した。


「それと最近、対戦相手の能力限界値が見えるようになってきた」
「どういう意味?」
「1年後か数年後か何十年後かは分からないけど、
 最終的にどれくらいの強さになるかっていう そういう限界値」
「将来有望なの捕まえ放題じゃん」

「なんとなくだけど、ディスはもっと伸びるよ」
「へぇ。 そりゃ楽しみだな」
「大剣使いの弱点である大きな隙を無くせばね!」
「っお前ほんと足癖悪いの直せばいいと思う!」


視界が変わった後も、日課となってしまったディスとの手合わせは
戦闘能力に決定的な差が付いても頻度は落ちず。

私に隙を全部指摘されるディスは日に日に手強くなっていったけれど
それでも自分の全力とは程遠いような気がした。


その最中、学院に指導に来ていた騎士団部隊長の人と対面する。

35前後かそこらの男性部隊長は私に挨拶し、一言二言会話をした後
じっと私を見つめて「ふむ」と一言、その後数拍の間と共に成程と呟いた。

「もし暇なようならこの後、コロシアムで俺の相手をしてみないか?」

突然の申し込みに周りが唖然とする。
真横に居たディスは「は」と間抜けな声を出すし、先生も驚いた顔

私は悩んで一拍、一言「いいですよ」と。

人の全力は見れても、自分の全力は視界が変わって以来見たことがない
その自分の全力を知るにはいい機会だと思った。

観戦に行きたいという生徒も多く居たが、
私の希望でディス以外は来ないように配慮してもらった。

襲撃相手が私の戦闘能力を下調べ済みだったのもあり、
誰かに全力を見られるのが嫌だったのだと思う。 本能。


部隊長と私、と観戦者であるディス
たった3人でだだっ広いコロシアムを貸切状態だ。

結果は激戦、 そして流石部隊長、と言っておこう。
勝つまでには至らなかった、相手の方が一枚上手だった。

だがその部隊長からの評価は
「驚いた、ここまで強い高校生は初めて見た」 と苦笑い

ただ1人観戦を許されたディスは
「高校生で騎士団部隊長とほぼ互角とかねーよ」 と真顔だった。

襲撃以降、初めて全力で戦ったこの時に気付いた
自分はまだ今以上に強くなると。

そして同時に勘付いた。
もしかして、私対人戦向き・・?


高校生活も残り半年に差し掛かった頃、
手合わせを申し出た部隊長が学院に来た。

アルヴェイト王国、騎士団部隊長への勧誘だった。
高校卒業後、同じ場所で仕事をしないか、と。

それに至った理由、彼の思考、軽い説明等を聞きながら小さく相槌を打った。
彼の言葉に嘘偽りは感じられず。

彼と同じ仕事、村に居たおじいさんがやっていた仕事
アルヴェイト国とは縁がなかったものの、意外と身近に在った職。

頭の片隅に今後の選択肢が増えた。

騎士団部隊長への返事は「考えておきます」だった
正式な返事は高校を卒業した後かもしれない、とも加えて。

彼は頷いた。

彼ほど理解のある人も早々居なかっただろう。
後に私は、この申し出を受けることになる。





 
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