創作世界

□時空移動、特異体質
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「過去に飛んだのと……現在に戻ってきたの、合わせて2回です。
 2回も飛んでおいて、身体が全て残っているだなんて『ありえない』」
「……うん」
「……それで、時空移動のことを、調べていて……」


過去に1分戻っただけで腕がなくなる、なんて例もある時空移動だ。
五体満足でいられる方がおかしいのだ。 誰にも、言えるわけがなかった。

しかし相手が十二使であれば、
世界一の情報屋と謳われたスイリ・ミゼルなら。

解答を得られるのではという淡い期待、それに反して言い様のない迫る恐怖。
無意識に浅くなる呼吸に、不安感が押し寄せてくる。

様々な感情が巡り、少しばかり気持ち悪い、

先程広げた腕は足の上に戻しており、再度自らの手を握り締めた。
スイリは神妙そうな表情のまま、瞼を伏せて小さく息を吐く。


「驚いたな。 現代では初めて見た、反動を受けない人」
「…… え。 現代、では?」
「僕以外ではね」
「…………え」


前例があったにしては変な物言い、と思った矢先の、爆弾発言。
あまりにしれっと告がれた言葉に理解が追いつかず、困惑のまま顔を上げる。

神妙そうに思えたスイリの表情は、案外深刻そうには見えなかった。

十二使は、思ったより優しい表情で笑っている。


「君のように、時空移動の一切の反動を受けない人を特異体質と呼ぶ。
 僕も時空移動で反動を受けない、特異体質なんだ」
「……え!? は、」

「自覚者は相当なレアケースだけどね。
 だから僕も、君以外の特異体質者は知らない。 現代ではね」


戸惑うユラの隣で、信じられないような事実をいくつも述べる。
疑心を隠そうともせず、世界一の情報屋に疑問をぶつける。


「そ……んなことが、あるんですか……?」
「さて、それでは何故『僕に集められない情報はない』のでしょう?」
「……!! だから、なの……!?」
「この体質だからこそ為せる業だよ。 説得力があるでしょ?」


現実味が、帯びていく。

納得ができたし、辻褄も合ってしまった。

スイリ・ミゼルというこの若い男が数年前の時点で、
『なんでも知ってる』『世界一の情報屋』と呼ばれたその理由が。

身体の反動がなく、過去も未来も場所も行き来できるのだとしたら、
確かに調べられない情報なんてない。

闇に葬られた真実だって、特異体質であれば、暴ける。
不可能だって可能にする。 予知紛いのことも、できてしまうかもしれない。

スイリは人差し指を唇に寄せて、「勿論」と諭すように声を掛けた。


「特異体質であることは、何があっても絶対に喋らないように。
 悪用されないように、特異体質者が居るという事実は伏せられているから」
「それは、勿論……貴方の、特異体質を知る人は?」
「旅団長と十二使、あとは君だけかな」
「……少ない、」


重要人物にしか伝わっていないそれが、自分にも明かされて。


「君の特異体質を知る人は?」
「誰も。 貴方だけ」
「そっか。 十二使は特例や特殊事情を報告する義務があるから、
 旅団長と十二使にはユラの体質のこと伝えるね」
「構いません」


スイリは机の上に置いていた鞄の中を探り、
タブレットと通信機器を取り出した。

片手でタブレットを操作する十二使を横目に、
拭いきれない不安が湧き上がる。


「……拘束されたり、しないですよね……」
「あのねぇ」


ユラにとっては笑い事ではない話なのだったが、
当の十二使からは呆れたような苦笑いを浮かべられ、
拘束の心配はなさそうだと胸を撫で下ろす。


「ところでユラさ、連絡先を交換しておかない?」
「……はい? ……なんでですか」
「そっちの方が都合がいいから」
「?」

「監視と言えば納得する?」
「!」


表情もなしに、僅かに瞼を伏せて淡々と告げられた。

拘束は、されないが、監視は必要ということか。
幾度かの瞬きを挟んだ後に、唇を結んで、ゆっくりと頷く。

スイリは彼女の様子を見つめると、困ったように眉尻を下げた。


「ごめん、脅しっぽかったね」
「いえ、」
「君の話に矛盾点はないし、悪意も感じられない。
 一先ずは様子見だろうし、ユラに行動制限を課すようなこともしないよ」


タブレットの操作を続けながらスイリは一瞬彼女を見やる。
ユラの緑眼が、複雑そうな色を浮かべていた。


「でも僕達は初対面だから、手放しというわけにもいかない。
 理由はそれだけだから、あまり深く考えないで」
「はぁ…… でも私、十二使の連絡先なんて知ってても……」
「なんでもいいよ、困ったことがあるとか質問があるとか」

「……監視以外で貴方にメリットがあるの?」
「別に監視じゃ……そうだな、僕の連絡先を知ることに、
 対価が必要だと考えるなら仕事を手伝ってもらおうかな」
「仕事」


……よくよく考えなくても、この人の仕事って、
旅団十二使と世界一の情報屋なのでは。

翻ってユラは高校卒業したばかりのいち旅団員である。
そんな大物の仕事なんて手伝えるものなのだろうか。 企業秘密とか。


「それは……私が関わっても大丈夫な奴なんですか?」
「大丈夫なものを渡すよ。 仮に戦闘沙汰になっても僕回復魔術得意だし」

「……スイリ・ミゼルって、悪魔種族だっけ」
「合ってるよ」
「……悪魔に見えないよね……」
「生まれてこの方何十回も言われたことを」





時空移動、特異体質



(確かに悪魔にも回復魔術得意な人は居るけど……
 だってその容姿で、回復得意で……しかも色素薄いし……)
(ユラの種族と特化属性は?)
(悪魔で暗属性ですけど?)
(わ、凄い。 悪魔っぽい)

(……褒めてるんですか?)
(褒めてる。 僕、散々悪魔っぽくないって言われてきたから。
 純粋に悪魔っぽいの羨ましいな)
(……翼見せないまま、悪魔だと言っても信じてもらえないでしょ?)
(見た目が全くそれっぽくないって。 解せないよねぇ)






結局連絡先交換して、そこそこの頻度で行動を共にする。

時間軸は7月頃。 7月前半期かなー? 程度に思案中。
執筆終了から3年近く経ってようやく街が決まった、湖の街ロト


ユラ・レクイン
  創作世界導入の際に大幅に設定チェンジが行われた子。
  元々が情報屋設定だっただけに情報屋向きな性格はしてる。
  個人的にですがなんか彼女の皮肉っぽい敬語書くのが結構楽しい。
  5月に旅団参加、6月に時空移動、7月に今話。 みたいな流れ

スイリ・ミゼル
  十二使の一角を担う『知聖』 世界一の情報屋と呼ばれた武勇伝
  結構時空移動を繰り返しており、実年齢は27歳だが
  過ごした時間は32年……と、実年齢と5年もの差がある。
  なので実年齢+5年がスイリの容姿年齢。

時空移動
  負担以上に反動がなかなかエグい。 時空移動で飛んだ年月時間で
  反動は変わってくるが両腕が持ってかれる、体が動かない等。
  体を全部持ってかれることもあるので、その場合はその名の通り消える。
  勿論禁術と呼ばれるだけに魔力量も凄い持ってかれる。

特異体質
  国家ですら知らない情報。 時空移動での身体的反動を全く受けない。
  能力を持って生まれてくる人達のように、特異体質も能力みたいなもの
  スイリが情報網羅できたのはこの体質で、
  時空移動を繰り返して調べてたから。





 
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