創作世界

□普通科卒業生の武器選び
1ページ/1ページ






タブレット操作、通話を終えて一息付くなり
「付いてこい」と言われ、彼の後を追い旅団支部の建物から出て行く。

大通りから少し道を外れて、王都内北西の方へ。

どこに向かってるのだろう、と思いながら歩いていると
飛空挺発着場の前に辿り着いた。

発着場入口にもたれ、腕を組んでいた長い蒼髪の美人な女性が
クロウさんに気が付いて顔を上げる。


「あら、珍しいわね。 クロウが女の子連れ」


まるで海を連想させるような蒼に、思わず小さく目を見開く。

声を掛けたその女性の前でクロウさんが足を止めたから、
目的は彼女だったのだろう。

通話していた相手も彼女だったかもしれない。

誰だろう、と思いながら少し首を傾げる。 凄く綺麗な人だ、


「久々に縁を感じた」
「その言葉を聞くのは2回目ね?」
「急に呼び出して悪かったな」
「別に謝られるほどの距離じゃないわ。
 ちょうど近くに居たのが運良かった」


組んだ腕を解いた女性が「はい」と一言、
ズボンのポケットから取り出した鍵を空中に投げた。

クロウさんが右手でその鍵を受け止める。


「どうも」
「あの……彼女は?」


片手に鍵を持ったクロウさんに、対面の女性のことを聞いてみる。

クロウさんは女性と一度顔を見合わせた後、私に視線を向けた。


「12人居る旅団幹部のうちの1人だ」
「りょ、旅団幹部の御方……!」

「貴方もでしょう」
「!?」
「…………」


女性の予想外の言葉に、思わず彼を見上げる。
クロウさんは少し眉を寄せた微妙な表情で。

……えっ、 この女性が幹部で、
「貴方も」って言ってるってことは え。

困惑する私の様子を見て、
女性はしまったと言いたげな表情を浮かべてた。


「……伏せてたのね」
「お前な……」
「てっきり明かしてるのかと思って」
「お前は十二使をなんだと思ってるんだ」


呆れた様子で盛大に溜め息を付くクロウさん。

女性は少しだけ申し訳ない様子で、
笑いながら小さく「ごめん」と呟いていた。

……く、クロウさんが旅団幹部。
私はとんでもない人にあれこれ言ってしまったみたい、だ。

小さく頬を掻く私を見て、女性が口元に笑みを浮かべる。


「十二使『夜桜』のメーゼよ。 一応クロウの同僚に当たるわ」
「初めまして。 フィアナ・エグリシアと申します」


メーゼと名乗った女性の後に、自己紹介と共に浅くお辞儀。
女性は「ん」と短く声をあげた後、私とクロウさんを交互に見た。


「武器見に来たの?」
「そうだな。 彼女が」
「……特戦科じゃない?」
「その通り。 武器の適正、属性すら分からん」
「一番最初からか。 ふむ……」


メーゼさんは腕を組み、顎に手を当てて私をじっと見つめた。
少しだけ首を傾げる。

数秒ほど見つめられた後、彼女は私の左手を取って
手の甲をじっと見つめた。

な、何をやってらっしゃるんだろう。


「……どう思う?」
「……普通に伸びるんじゃない? かなり推測だけど」
「あぁ、やはりそうか」
「??」

「普通に戦えるようになるって解釈でいいわ。 喜んでいいわよ」


小さな笑みと共に、私の左手の離して。

軽く息を吐き出したメーゼさんの様子を横目に、
先程彼女に取られていた、自分の左手を見つめた。

……人の手を見ただけで、今後強くなるかなんて、分かるもんなんですか…?


「メーゼ、この後は仕事か?」
「ううん、ルベクトの家寄るつもり。 クロウはしばらく王都?」
「恐らくそうなるな」
「なら私、もう少し別のとこ回るわ」

「そうか。 鍵はどうすればいい?」
「普通に返しておいて。 貸し出しだって言ってあるから」
「承知した。 後でな」
「ん」


ひらりと手を振り、大通りに続く通路を歩いていく
メーゼさんの後姿を見送る。

「行くか」と呟いて、発着場へと歩き出す
クロウさんの後ろを慌てて追った。


「それ、なんの鍵なんですか?」
「飛空挺発着場の武器庫」
「……発着場に武器庫」
「ほぼほぼ彼女の専用武器庫と化してるがな」


専用武器庫。 ……なんか、私とは別次元の話が。

クロウさんの後を追い、発着している飛空挺の前を通り過ぎ、
発着場の奥にあるシャッターの閉まった倉庫の前に到着。

しゃがんで、借りた鍵でシャッターを開けて。
その後、立ち上がって倉庫の壁に付いている取っ手を上げた。

取っ手を上げた際に、ガコンッという音。
倉庫のシャッターが、ゆっくりと開いていく。

クロウさんが半分開いたシャッターの下を潜り、倉庫の電気を付けた。


「……わ、」


倉庫内、一面武器の現場に思わず感嘆の声。
壁や机の上、武器立ての中に数え切れないほどの武器防具の量。

学院にあった武器庫の数倍はありそうな空間、物珍しさに辺りを見渡す。


「後衛と言っても種類がある」


話しながら倉庫の左奥に歩き出したクロウさんに顔を向ける。
武器立ての中に入れられた武器を手に取る彼に近づく。


「攻撃、回復、支援。 何が得意で何が苦手かによりタイプは変わるが、
 後衛の武器は自然と銃や弓などの飛び道具が多くなる」
「飛び道具……」

「事前に言っておくが銃も弓も、傷つけるためだけの武器ではない。
 魔術のコントロールを補正するために、銃を使う場合もある」


クロウさんはそう言って、コートの内側にあったらしい
黒い銃を取り出して私に見せた。

彼の武器はベルトに挟まれている剣だけかと思ったがそうでもないらしい。
本当に私何も知らないんだな、と思いながら頷いた。


「私みたいな初心者は、どういう基準で武器を選べばいいんでしょう?」
「……まぁ属性との相性や、向き不向きあるからな。
 候補の武器を一度、一通り全部扱ってみるのも手だが」
「ぜ、全部?」





普通科卒業生の武器選び



(まさか普通科卒業した後に武器を選ぶことなるとは……)
(お前のようなパターンを見たのは俺も初めてだ)
(……そんなに居ないものなんですか?)
(戦闘職に就くつもりではなくとも、
 少しでも戦う気があれば、誰しもが特戦科へ行く)

(あ、ならやっぱり私気付くの4年遅かったんだ)
(……フィアナは属性、聖か水のような雰囲気するな)
(雰囲気。 でも聖属性は回復得意な人なんですよね?)
(そうだな。 回復魔術は基本的に聖属性であることが多い)







フィアナ・エグリシア
  まさか旅団幹部の人に恋しただなんて驚いて言葉すら出なかった。
  王都の西にあるツァイト出身。 王都までは馬車利用か、
  王都まで行く旅団員の人に付いて行ってる。

クロウカシス・アーグルム
  メーゼのせいで十二使バレした『氷軌』
  魔術補正で銃を持ち歩いてるが、魔術コントロールは得意な方
  正直な話、あまり人に戦い方を教えたことが無いので不安。

メーゼ・グアルティエ
  うっかりクロウが十二使であることをバラしてしまった『夜桜』
  2年半前にクロウに「縁を感じた」と言わせたのが彼女。
  王都の飛空挺発着場の武器庫はほぼほぼ彼女専用。

アルヴェイド王国、王都ラクナーベル
  旅団支部でのクロウ呼び出しから、発着場武器庫まで
  クロウとフィアナが現在進行形で歩いてる街。

水路の街 ルベクト
  王都の北にある国内の水路の街。 街のド真ん中に大きい川が流れており
  街の至るところに水路があることから。 メーゼは騎士団入団する前の
  2ヶ月ほど、ルベクトに住んでいた。 彼女の家はその名残。





 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ