創作世界

□枷が形となって見えた瞬間
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「”普通科1年ミキ・クロシェット 至急、学院長室まで来てください
 繰り返します。 普通科1年ミキ・クロシェット・・・”」


ガタンッ と思わず椅子を蹴飛ばすような勢いで席から立ち上がる

私の机の側に立っていたレーナは、「あれまぁ」みたいな表情で、
放送の鳴ったスピーカーを見上げていた。

教室中のほとんどの視線が、私に向けられていた。


「・・・・」
「ミキ、ご乱心?」
「・・・ご乱心っていうか盛大に呆れてる・・・」


自分の机に両手を付いたまま、立ち上がったまま俯く私に
レーナが「あっはは」と笑いながら、私の背を優しく叩いた。


「行っておいでよ。 案外急用なのかもよ?」
「そうする・・・」







レーシュテア高等学院と言えば、高校の中では有名な方の学校だ。

特に特戦科生徒の戦闘力は世界に誇るレベルで、高校卒業した後に
すぐ旅団や騎士団といった戦闘職へ就く者も少なくない。

勿論それは旅団にも騎士団にも、
許容される戦闘力があるから成せることだが。

別の学校から練習試合を申し込まれることも多く、
8月の闘技大会、高校生部門での優勝は6割方うちの学院生徒だそう。

残念ながら私は特戦科ではなく、放送で呼ばれた通り普通科なのだけど
レーシュテア高等学院に来たのは、仕事場がこの学院が近かっただけで
それ以外の理由はこれと言ってない。

若い人向けのラジオで、MCを務めていること以外は
普通の学生、だと思う。

ただ、少し もう1点。
割りと学院の関係者なら周知の事実が1点。

レーシュテア高等学院、リクリー学院長と
私、ミキ・クロシェットは 紛れも無い親子だ。

流石に学院長であり、親である人から、
校内での呼び出しは物凄く目立つから控えてと言った矢先のこれだ。

授業合間の休憩時間で賑わう廊下を歩きながら盛大な溜息。

学院内を渡り歩き、学院長室の前で再度小さく息を吐く。
ノックを2回。


「ミキ・クロシェットです」
「あぁ、お入り」


この間聞いたばかりの声を耳にし、ゆっくりと扉を押す。

赤い絨毯、綺麗な壁や絵画に作業机。 椅子に座る学院長。

ここまでは前も見た景色なのでよかったのだが、
机の前に白い翼の若い女性と、黒い翼の若い男性が揃って私を見ていた。

その上、学院長の前にある作業机の上には
見覚えのない透明の球体が置かれている。

・・・え、なにこれ。

思わず出ていきそうになるのを、ぐっと堪え
学院長室の扉を閉めて、室内を一歩進んだ。

全体的に黒い、種族悪魔らしい男性がじっと私を見ている。

ベルトチェーンが擦れたのか、
男性が軽い動作を行うと、チャリ、という音が鳴った。

黒い髪、服も全体的に黒い。
腰には鞘に剣が入った状態でささっている。

・・・なんだろう、この空気。
居心地が悪くて少し頬を掻くと、男性が学院長の方へと目線を向けた。


「リク、こいつか?」
「あぁ」


頷く学院長に疑問符。
今のはどう見ても私を指された。

長い金色の髪を揺らして、続くように学院長へと
視線を向ける女性は、小さく口を開いた。


「学院長、彼女には・・・?」
「残念ながら何も。 俺が口にするには余計かと思ってね」


学院長、 ・・・お父さんは、少し困ったように眉を寄せた。

お父さんの返答に、女性は「そうですか」と呟いて目を伏せる。
天使らしき女性は小さく、悪魔らしき男性に向かって頷いた。

女性が室内を数歩、私と対面するように向かいに立つ。

現状が飲めず硬直している私に、
女性は胸元に右手を添え、軽くお辞儀をした。


「お初にお目に掛かります、ミキ・クロシェット様
 この学院卒業生の、ルーエ・ディ・ティエルと申します」
「あ、初めまして・・えっと・・ルーエが名前?」
「はい。 愛称のルゥで名が通っていますので、どちらでも呼びやすい方で」


微笑んで顔を上げたルゥに、小さく頷く。
ルゥは「それでこちらが」と、男性へと手を向けた


「ネオルカ・ジーヴェだ。 今日はお前に用が合って呼び出した」
「用・・・ですか? 私に?」
「あぁ。 ルーエ」
「はい」


ネオルカに声を掛けられたルゥは、学院長の机の上にあった
ネックレスらしき物が入った
薄いオレンジの透明の球体を左手に持ち、私へと見せた。


「これを。 ミキ様に預かっていただきたいんです」
「・・・なんですか、これ」
「ネックレスです。 ・・ぱっと見は」
「ぱっと見は」


ネオルカとお父さんに少しだけ視線を向けたルゥ。
お父さんの頷きと、それに続くようにネオルカと瞼を伏せた。

球体を手に持ったまま、少しだけ息を吐くルゥ


「ミキ様は、世界異変のことはご存知ですか?」
「あ、歴史でやった。 確か1000年近く前の・・?」
「はい。 このネックレスは、当時勇者が使っていた剣です」

「・・・なんて?」
「当時、勇者が使っていた剣が このネックレスなんです」


思わず聞き返した私に、ルゥは同じ説明を繰り返した。

・・・ネックレスが剣。
ていうか、なんでそんな物がここに。

困惑の解けない状況で、薄いオレンジの球体に入った
ネックレスをまじまじと見つめた。

・・・よく見れば、確かに十字架の部分が剣っぽい形してる


「・・何故、それを私に?」
「ミキ様は自分の属性をご存知ですか?」
「え。 や、私普通科だし・・属性計ったことが・・・」

「リク、この部屋に測定器は?」
「こうなるんじゃないかと思って拝借してきたよ」


作業机の引き出しの中から、箱状の物に1面だけ空いた物を取り出すお父さん
今年4月、特戦科の新入生が使っていたのを何度か見たことがある。

というかなんで属性の話にまで。

困惑する私をよそに、授業開始のチャイムが響き、思わず顔を上げる。

お父さんから測定器を受け取ったネオルカは、
チャイムの音を気にしない様子で、私の前に測定器を構えた。


「何はともあれ手置けよ。 何のために呼び出し放送まで掛けたと?」
「すみません、何分ややこしい話ですので少しお時間取らせます」


申し訳無さそうに少し眉を寄せるルゥが、なんだか雰囲気切なくて。

「あ、いえ・・」と短い否定の後、ネオルカが持つ測定器に手を置いた。

測定器、一面だけ開いた箱状の中に置いた自らの手は
何色かの光の線が現れて、属性の読み取りを行っている。

10数秒した頃、測定終了の音と共に測定結果がホログラムで表示された。

・・・画面を見て、思わず二度見した。

レーダーチャートで表示された八角形、属性8種。
その中で一際ぶっち切った聖属性。

レーダーチャートのすぐ横にある解説には『派生属性有り』の字


「は、派生属性?」
「属性は8種類と言うが、厳密には8種類じゃない」


測定器に手を置いたまま、解説に疑問符を浮かべる私に
測定器を持ったままのネオルカが口を開いた。

画面から顔を上げて彼の表情を伺う。

ネオルカは私のことは見ておらず、
ぶっち切った聖属性のレーダーチャートを見ていた。


「基本的にお前も知るような8属性が主流だが、
 稀にそれ以外の属性を持って生まれてくる奴が居る」
「私やネオルカも同じです。 聖属性派生の『光属性』
 暗属性派生の『闇属性』 ・・・聞いたことがないでしょう?」


私の一歩後ろが追加解説。
振り向いた先に居たルゥが、薄く小さく笑みを見せた

・・・その笑みには、何も言えずに。

何も言わずに、ルゥの言葉に頷いた


「俺らの派生属性は、この世でも特に珍しい属性だ。
 今この世界で、光属性と闇属性を持つ奴は他には居ない」
「・・・断言しちゃうんだ」
「・・『そういう属性』なんです。 それがこの世の法則ですから」


切なげに笑ったルゥに続くように彼も少しだけ目を伏せた。

・・・世界に、ただ1人。

この世の全ての人とは異なった属性を持つって どんな気分だろう

ホログラムの『派生属性有り』の字に、ネオルカが指先を伸ばす。
画面が切り替わり、今度は派生属性の解説文が現れた。


「・・・・時が経つ」
「・・?」


ぼそりと呟いたネオルカの、黒い髪が揺れて頬に掛かった。

切り替わったホログラムの画面には「聖属性派生 十字属性」の文字
十字属性の解説に、「1000年ほど前の勇者の」の一文

一瞬だけ、時が止まったような気がした


「・・・え」
「リク・・お前の父親は言っていないようだが、
 お前は勇者の血縁でもある。 お前の魂も当時の勇者のものだ」

「勇者の血縁であり、魂の持ち主である人物が、
 『十字』を携えこの世に生まれた。
 ・・この剣を預けるには充分すぎる理由です」


ルゥは手に持っていた、薄オレンジの透明の球体を胸元まで持ち上げた。


「え ちょっと。 な、に言って」
「効力が切れそうなんだよ」


ルゥでもない、ネオルカでもない、
黙って私達の会話を聞いていたお父さんが、口を開く。

2人も作業机に座ったままのお父さんへと目を向ける。


「世界異変は食い止めたんじゃない。 封印されただけだ。
 1000年も経てば封印も効力を切らしていく」

「・・・1000年、封印が保っただけでも
 信じられない奇跡みたいなことなんです。
 だって、あの世界異変を封じたのは たった1人の人間だった」

「この世界は居心地が良いだけに、この世界で過ごす者も多い。
 それゆえに他界の人口は減り、人が住む場所以外は
 ほぼ魔物の巣窟となってしまった」


各々の表情が、現実を。
表情が、言葉が、凄く重い。

視界に映る薄オレンジ色の球体、
中央に浮かぶように入っている十字架を一目見た後、瞼を瞑った


「今すぐ戦え、って 特戦科に行ってくれとまでは言いません。
 ・・ただ、どうか預かっていてください
 それを持つべきは、扱えない私達ではありません」

「自分の枷がどれほどの重圧か・・・痛いほど分かるぜ、俺も似たような身だ
 だがな、拒んだところで結果は最悪しか残らねーんだよ」
「・・・・・」


ゆっくりと瞼を開いて、十字架を視界に収める。


「今回、お前を呼び出した要件はたったこの1つだけだ。
 難しいことは言わない。 受け取れ、ミキ・クロシェット」





枷が形となって見えた瞬間



(その時、私は。 無意識に、けど確かに。)
(ネオルカが告げたその言葉に頷いたらしい)

(そして、私は。 無意識に、けど確かに。)
(自分の身を、『枷』を。 受け入れていた)






5月〜6月辺り。 LD組の導入編。


ミキ・クロシェット
 レーシュテア高等学院、普通科1年生の学生ラジオMC。
 勇者の血を引き、十字属性と勇者の魂の持ち主。 ぱっと見チート

レーナ・メスィドール
 ミキとは小学生からの付き合い。 学院普通科1年生。
 ミキと同じ学院に進学するとは思わず、知った時は爆笑した。

レーシュテア高等学院
 ルーエの卒業校であり、ミキ・レーナの通う学校。 寮制度有り。
 レーシュテアの特戦科は相当強い。

リクリー・クロシェット
 レーシュテアの学院長。 ミキとは血の繋がった紛れも無い親子。
 勇者の血縁はミキ母ではなくリクリー。 ネオルカは彼を「リク」と呼ぶ

ルーエ・ディ・ティエル
 レーシュテア特戦科を卒業した、世界にたった1人の光属性の持ち主
 うちの子で容姿性格共に、一番天使らしいと思う。 愛称はルゥ

ネオルカ・ジーヴェ
 ルーエ同様、世界に1人しか居ない闇属性の持ち主。
 そして悪魔の六剣の使い手。 ある組織の事務。 強いのに。

世界異変と当時の勇者
 元々この世界は人間だけの世界だったのだが、時空が歪み魔物が溢れた。
 元凶だった「異変そのもの」を封印したのが当時の勇者。
 しかしそれを境に、亜人や天使悪魔も行き来するようになり、
 討伐し切れずに残った魔物も常駐するようになった。

派生属性
 火、水、地、風、雷、氷を中心に、聖、暗の8つが基本的な属性。
 しかし稀に特化すぎて別属性になることがある。
 ミキ、ルゥは聖属性派生、ネオルカが暗属性派生。





 

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