創作世界

□特別な日の翌日も特別の内
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今月最終日である5月31日。

右サイドが長めに伸びた暗めの金髪を揺らし、
旅団支部2階、執務室の扉をノックする十二使の姿が見られた。

左肩に鞄、左耳にリングピアスを付けた男性は、
返事のない執務室に疑問符を浮かべた後、
扉を開けようとしたが鍵が掛かっていた。

少し驚いた表情をした彼は、上着の内ポケットから
十二使証を取り出し、扉横にある機械に証を翳す。

機械音の受諾と共に鍵が開き、扉を開けて室内を見回す。

人の気配がしない静かな執務室。

奥の出窓に掛けられたカーテンの隙間から
差し込む日差しが室内を照らしている。


「・・・外したか」


小さく息を吐き出したクロウカシスは執務室から出た後、扉を閉め、
再度十二使証を翳して鍵を閉め、細めの通路を歩き戻っていった。


旅団支部の階段を下り、1階の人気が無いことを確認してから
依頼書の整理をしているらしい受付の女性に声を掛ける。


「少しいいか?」
「あ、お疲れ様です。 はい、なんでしょう?」
「メーゼは居ないのか? この街に滞在しているはずなのだが」

「メーゼ様なら先程依頼をまとめて受注して魔物討伐に・・
 数時間ほどで戻ってくると思うのですけれど」
「・・・そうか、ありがとう」


礼を述べたクロウに、頷いて作業に戻る受付の女性。
彼は腰に手を当て、やはり外したな、と息を吐いた。

先程下りたばかりの階段を上り、比較的細い廊下を歩く。

二度目の執務室にはノック無しに鍵を開け、
執務室に入ってから扉を閉めた。

まぁまぁ奥行きのある執務室を数歩、2つほどある執務机の前に立つ。

使用している形跡のある左側の執務机。

椅子には彼女の物であるらしいコートが掛けられており、
椅子が押し込まれた机の下には、彼女の物らしき大きめの鞄。

机の右端には依頼関係の書類が、
十二使サインの無いまま何枚か重ねられている。

恐らく彼女が出掛けた後に受付の者が置いたのだろう。

クロウは半透明の袋でラッピングされたクッキーと、
包装された箱を鞄から取り出し、書類の隣に置いた。

包装された箱の上に、手の平にも満たない
折り畳まれたメッセージカードを載せる。

彼はそのまま執務室を出、鍵を掛けて街へ向かった。
1時間ほどして、彼は連れと共に飛空艇に乗り込み街を発つ。







「あら、珍しい こんなところに」


日付は少し遡り3日前の5月28日に戻る。

街中、チョコレート専門店から出てきたクロウの姿を視界に捉えた
20前後の若い女性は驚いたようにクロウを見つめていた。

一般旅団員、しかも2ヶ月前に入ったばかりの戦闘初心者でありながら、
十二使であるクロウと行動を共にするフィアナは小さく首を傾げた。

桃色の混じったオレンジ色の長い髪が揺れる。


「チョコレートですか?」
「あぁ、メーゼの誕生日が近いからな。 彼女にやろうかと」
「あら、そうなんですか? いつなんだろう」

「明後日、30日」
「予想以上に近い」


透き通るほどの緑色の瞳を細めて、小さく笑うフィアナ。


「メーゼさん、チョコレート好むんですね。 ちょっと意外です」
「アイツは思ったより甘党だな。
 コーヒーやカフェオレよりもココアを好むタイプ」

「ふふ、分かりやすい。 お世話になったし、私も何か渡そうかな・・
 メーゼさんって、クッキーとか食べます?」
「普通に食うと思うが」
「ふむ・・チョコクッキーとかだったら好みも合うかな」

「・・あぁ、当日渡せる保証は無いがいいか?」
「あ、了解です。 やっぱりメーゼさん、忙しいんですか?」
「少なくとも俺よりは」
「・・・身体壊しません?」







討伐依頼の報告を終え、十二使証を翳してから執務室を開ける。

陽が大分傾いたのか、オレンジ色の夕日が微かに差し込むだけの部屋は薄暗く、
この部屋で作業をするにはまた別の灯りが必要だろう。

室内入ってすぐの電気ボタンを押すと部屋が明るくなる。

扉を閉めて執務机に向かうと出掛ける前には無かったものが置かれていた。

依頼絡みの追加書類が数枚、
そして菓子らしき包装箱とクッキーの入った袋が1つずつ。

包装された箱の上には折り畳まれたメッセージカードがあり、
彼女はそれを手にとって、メッセージカードを開く。

送り主の名すら書かれていない3行ほどの短いメッセージ。

彼女は口元に笑みを浮かべた後、メッセージカードを机の上に置いた。
海を思わせるような蒼い髪を揺らして、コートが掛かった椅子に座る

鞄の中からタブレットを取り出し、慣れた手つきで操作。

画面にある程度目を通した後、彼女は上着の内ポケットから
イヤホンと通信機器を取り出した。

イヤホンを耳に付け、通信機器である人物へ。

コールが数度、そう時間が掛からないうちにコールは途切れ
機械越しにお目当ての人物の「ん」という短い声が耳に届いた。


「クロウ?」
「”あぁ、どうした?”」
「プレゼント、ありがと」

「”あぁ。 それはいいのだが”」
「?」
「”来年は希望の物事前に言ってくれないか”」
「あら、精々悩んでちょうだい。 欲しい物くらい自分で買うわ」


機械越しに浅く吐き出された溜息に、小さく笑う。
何が貰えるか分からない、というのも楽しみの1つなのに。


「フィアナがくれたのもそれ絡み?」
「”そうだが”」
「・・私フィアナに誕生日言ったっけ」
「”俺が言った”」

「あぁ、道理で。 お礼言っておいてね」
「”メーゼがクッキーの礼を言っている”」
「”ふふ、どういたしまして”」

「・・居たんだ」
「”移動中だからな”」
「成程」


通信機器片手に、包装された箱のリボンを解く。
包装紙を外した後、上辺の箱を開くとふと香るチョコレートの匂い

成程、分かっていらっしゃる。


「それにしてもクロウ・・・貴方ね、送り主の名くらい書きなさいな」
「”フィアナの分が無ければシラ切れたんだがな”」
「字面で分かるに決まってるでしょう」





特別な日の翌日も特別の内



┏━━━━━━

┃お前はなんでもできるから贈る物に迷う。
┃フィアナがお前にとクッキーを作ったから預かった
┃ 1日遅れだが誕生日おめでとう

┗━━━━








クロウカシス・アーグルム
  十二使の一角を担う『氷軌』 十二使の中ではメーゼの次に
  新人かと思われたが少なくとも次ではなくなった。

フィアナ・エグリシア
  クロウと行動を共にする新人旅団員。 そろそろ1人で
  行動して大丈夫かな? っていう相談をしている時期。 料理上手

メーゼ・グアルティエ
  なんだかんだ十二使では総合的に一番強い割に一番新人の『夜桜』
  彼女も人の子である。 誕生日は5月30日

十二使証
  よくよく考えたら機密と受付しか入れないっつー執務室に、
  鍵穴に鍵入れて部屋開けるんは無いなと思ったらこうなった。

タブレット
  もうちょい別の呼び方無いかなって思ってるけどこれが一番近い。
  メーゼが調べていたのはクロウの予定と所在地。
  同じ街に滞在していたら直接会いに行くつもりだった





 

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