創作世界

□聖職者は夢を見るか
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この世界には世界規模の組織がある。
どこの国にも支部を作り、街人達の助けとなる主要組織。

大体が世界中を旅したい人物で構成された旅団『サファリ』


――執務室の回転椅子に座る黒い短髪の彼はタブレットを操作した
  その矢先、室内の宙に文字列と画像が映り並ぶ。


長と団員、支部の受付しか居ないと思われたこの組織には
幹部という立ち位置になる「十二使」が存在する


――黒と白の聖職者の衣装に身を包み、黒紫の髪を揺らした若い女性は
  旅団本部、屋敷内の廊下を歩き、ある一室への扉を開けた。


「申し訳ございません。 到着が遅れましたわ」
「今揃ったとこよ。 少し遠いけど向かいの席が空いているわ、セラ」


扉の側に座っていた海を思わせるような蒼い髪の女性が
今先程、会議室に入ってきた聖職者衣装の女性へと声を掛けた。

会議室、黒い大きな円状の机 蒼髪の女性が指した、
誰も座っていない席へ向かった彼女は椅子に腰を下ろす。

円状の机に13名、そのうちの半分以上はホログラムの画面。

一番奥の席に座る顎に数cmのヒゲを伸ばした
40過ぎくらいの男性は、組んでいた手を解き、
かぶっていた中折れハットを机の上に置いた。


「さぁ、始めようか」


定例会議、開幕。







旅団の十二使とは。

世界規模の組織でありながらたった12人しかない
旅団の幹部達であり、そして機密である。

世界規模の組織ともなると、多方面の情報をいくつも所持している。
悪用、流出が行われないようにあらゆる面に秀でていなければならない

その中でも最も重要なのは「戦闘力」である。

一見、魔物退治や街人の悩みを解決する平和で良識な組織だが
世の中には世界のバランスを乱そうとする組織が存在する。

そして「彼ら」は決して表舞台には出てこない。

人気のないところで綿密に、確実に、用意周到に準備を整える。
そしてそれは、「一般の旅団員」には歯が立たないレベルだ

旅団十二使の仕事とは、そうした物の対策、対処。
世界に散らばる「異変」を共有し、可能ならばそれを未然に防ぐことである。


「・・・で、アルヴェイト王国での報告は以上です」
「”やっぱり騎士団が居るだけあって、
 アルヴェイトはあんまり変な話出てこないわねぇ”」

「私の先輩達と私の部下が指揮してるからね」
「”あぁ、そっか メーゼは部隊長上がりだったわね”」


微かに男性さを感じさせる、ホログラム越しに掛けられた言葉に
メーゼと呼ばれた蒼い長髪の女性は、口角を上げて大人びた笑みを浮かべる。

会議室奥に座っていた旅団長は報告を聞きながら「ふむ」と頷いた。


「とはいえ主要都市だからね。 このまま様子を伺っておこうか
 グラシアは・・・例の森付近だったかな?」
「”一昨日までロトに滞在を。
 その際に大きな変化があったので報告するよ”」


赤い髪を長く伸ばしたグラシアと呼ばれた男性が、
ホログラム越しに口を開く。

彼の目線が少し外れた後、会議室の中に、
そして各地の十二使の居る部屋に大きな画面が表示される。

文字の並ぶ画面、報告書へと全員が顔を上げた。


「”例の森、シルワで行方不明者が相次ぐという報告があったが
 旅団員が何人か調査に向かったがそのまま行方不明となっていた。
 しかし先週、調査に向かった人が初めて帰還した”」


グラシアの言葉に何人か「おぉ」や、少し驚いたような表情を浮かべる。


「”調査報告によると、森の中心部に巨大な植物があったらしい”」
「・・巨大植物?」
「・・・・」

「”更に報告によると、植物は『生きて』おり
 調査に同行していた旅団員が蔓に捕まり、囚われたそうだ。
 その旅団員は未だに帰還せず、行方不明の原因は明らかに『これ』かと”」


その後、報告書の画面が変わり ピントのぶれた森の写真が表示された。

手前に木、森の中心部らしき場所は一帯木が消えており
本来木のあるべき場所には、森には似つかわしくない巨大植物が
蔓を伸ばして鎮座している様子が、ピントがぶれていながらも分かる。


「”うげ、なんかエグそ・・・”」
「・・素直に生身の生物を養分にしてると見るのがいいわね、これは」
「そう言った植物魔物の話は過去でもよく聞くよ。
 酷い話だと森に住んでいた生き物、魔物が全滅したなんて話もある」


十二使の軽い会話を眺めていた旅団長・・・
ハイノ・エルンストは「『樹花』」と呼んだ。

会話が無くなり、静かになった会議室へ
ホログラムで表示された長めに髪が伸びた人物が
微かに男性さを感じさせる声で口を開く。


「”お呼びかしら? 旅団長”」
「できれば君にシルワの森の再調査、及び巨大植物の退治を依頼したい」
「”えぇ、構わないわ。 お受けするわよ”」

「そして『真栄』」
「はい」


会議室に来た際、セラと呼ばれた聖職者の衣装に
身を包んだ女性が、旅団長の呼びかけに返答する。


「君はシルワの森の近辺・・・ロトが故郷だったね。
 よければ『樹花』の案内兼、サポートを君に頼みたい」
「仰せの通りに。 承りましたわ」


胸に手を当てて、座ったまま小さく頭を下げたセラに旅団長は頷く。


「・・・まー、流石にいきなりノヴァは投入しないわよね」
「私? 私が出たら最悪焼け野原になるわよ」
「”ミーザ、セラ。 必要な物があるならば調達するが”」
「”あらぁ、クロウいいの? そうねぇ、何が必要かしら・・・”」

「中規模の火魔術推奨、したいけど。 ミーザは相性最悪かしら」
「”そんなのアタシの術まで燃え尽きるじゃない”」
「わたくしはスイリ様に頼みたいことがありますわ」
「はいはい、僕?」

「先程話に上がった『過去にあった巨大植物』の資料を頂きたいのですわ。
 似た生物であるなら参考になるかもしれません」
「あぁ、そうだね 了解。 その系統の資料はどこに仕舞ってたかな・・
 データでもいいかな? セラ」
「構いませんわ。 ミザキ様にも同じ情報を投げてくださいますか?」
「ん、了解」





 
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