創作世界

□聖職者は夢を見るか
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『樹花』ミザキ・セレジェイラ

一部の人物からは愛称の「ミーザ」で呼ばれ、
42歳と年齢もさることながら、十二使の中では比較的古参な方である。

男女とも取れる容姿と服装をし、女性のような喋りをするが
紛うことなく彼は男であり、そしてオネエである。

世の中の基本属性は火・水・氷・雷・地・風・聖・暗の8種類だが
彼はその8属性に当てはまらない、『樹』属性の持ち主。

錬金術士も兼用しており、属性の特性と武器である杖も含め、
十二使のサポートに回ることが多いが、属性の汎用性は高く彼は純粋に強い。



『真栄』セラ・セイクリッド

聖職者の衣装を身にまとい、一般世間で信仰される女神を信仰し
巡礼のためあらゆる街を行く聖職者。

十二使の中では比較的新人であり、回復魔術を得意とする。

黒紫の長髪は白黒の聖職者衣装によく合っており
そして耳は人間とは異なり尖っている。
彼女はいわゆるエルフである。

今回シルワの森調査のサポートに抜擢されたが、
シルワの森の一番近隣にある街、ロトは彼女の出身街だ。



会議を終え、街に戻るなり、飛空艇に乗り別の街に移動するなり
十二使は各々が行動していたが、セラは旅団本部の自室に戻っていた。

ベッド、クローゼット、テーブル、椅子と家具のある部屋に
本棚の前で本の並び替えをしていたセラに通信が入る。

コールが鳴り、内ポケットに入れていた
通信機器を取り出して発信の相手を確認する。

発信主はどうやら会議にタブレット参加していたミザキらしい。
珍しい、と思いつつも通信を取り「はい」と短く返事をする。


「”セラ? こんにちは、会議お疲れ様”」
「お疲れ様です。 任務、ご一緒になりましたね」
「”そうね。 だからよろしくね、のつもりで掛けたのだけど”」
「?」

「”本当に任務の同行相方がアタシで良かったのかしら、なんて”」
「・・・と言いますと?」
「”だって貴女、アタシを避けてるみたいだから”」


通信越し、機械を通したミザキの声に
セラの表情は変わらず、無言でじっと聞いていた。


「”『仕事だから』で我慢するのも分かるけれど、アタシはあまり
 そういうの好まないから。 だから、良かったのかなって そんだけよ”」


少し諭すような声に、セラは少し目を閉じる。
数秒してゆっくり開いた視界、彼女は小さく口を開く


「・・・ミザキ様」
「”何かしら?”」
「まずは、避けてると感じられたことにお詫び申し上げますわ。
 実際・・避けていたのだと思います」
「”・・えぇ”」

「そしてその上で、ミザキ様がお嫌いではないことも申し上げますわ」
「”・・・あぁぁ、良かった! 嫌われていたからじゃないのね!?”」
「寧ろ人としては素敵な方とすら感じています」


通信、機械越しでも分かるミザキの盛大な安堵に
セラは再度瞼を閉じて軽く息を吐いた。

自分の何気ない行動は、これほどまでに彼に不安を掛けていたのかと。

反省と同時に、視線を手元に戻す。


「私情なので話したことはありませんでしたが・・
 避けていたことにも、理由があるんですの」
「”理由?”」
「・・・ここから先は、旅団長しか知らない話です。
 今回の任務に関わることでもあるので、全て言いますわ」


セラは自室の本棚から離れ、椅子を引いて座る。


「今回の任務で討伐対象になっている巨大植物ですが
 あれの第一被害者はわたくしの古い友人ですの」
「”・・・!? そう、なの?”」

「えぇ。 最初の被害は2年ほど前です
 わたくしが十二使になるより前のことですわ。
 当時はまだ・・あの植物も小さかった、」


聖職者としての仕事が板についてきたところだった。

巡礼のための移動費削減と、旅団に届く悩み消化のため
旅団入団して、飛空艇移動や馬車移動や、時差にも身体が慣れてきた頃。

時間が空いたので故郷のロトに戻った時、彼は
「なーんで帰るって連絡入れないかなぁ」と言いながら笑顔で出迎えた。

久々の故郷、両親や近所に住んでいる人
教会にも挨拶をしに歩き回った数日間。

机に伏せていた友人、ミケリオは唐突に起き上がって、
「そういえば特戦科出身だからセラ戦えるのか」
と呟かれた言葉に疑問符を浮かべた。

森の中央付近で育つ木の実を取りに行きたいのだが
1人で森の中央までの往復は大変だから、という話だった。

快諾した。 古い友人の頼みなら、自分でいいなら。

森の中心部に行くために、相応の準備をして朝早くに向かった。

昼頃に道から少し外れた森の中心部に到着したものの
不思議なことに木が数本倒れていて、
倒れた木と木の中心には見たこともない植物が生えていた。

なかなかに奇妙な光景だった。

周りの木が数本倒れているのが不自然とは言え、
その時はまだ、そこらの草と変わらない大きさだった

新種かと思い手を伸ばしてしまった彼も、
「危ない」と察知できなかった彼女も責められない。

植物に触れるか否かのその瞬間、地面から蔓が伸び
ミケリオの伸ばしていた右の手首に蔓が巻き付いた。

手首に巻き付いた蔓は植物から引き離すように彼を引っ張る。
杖を構えて魔術詠唱しようとしたセラに、彼は「逃げろ」と叫ぶ

たった3文字、言い終えたかどうかも怪しいか
植物から太い蔓が伸び、無情にも彼の身体を貫いた。



「・・心臓、でした。 即死・・と思われたのですが」
「”・・・生きているの?”」
「生きている・・・いえ、正確には死んでいます。 彼は確かに死にました
 でも翌日、中心部を遠巻きから見た時、彼は動いていた」
「”・・なら生きてるんじゃない・・?”」

「動けば生きているという話でもありませんわ。
 ゾンビは死んでいて心臓もないのに動くでしょう?」
「”あら、ホント・・ となると・・うーん、どういうこと?”」
「わたくしにも詳しいことは分からないのですが・・・
 彼の心臓は、巨大植物によって構築されていると思われます」
「”・・・・”」

「・・・わたくしがミザキ様を避けていたのも、これが理由です。
 植物は、樹は・・その瞬間が鮮明に映し出されるのです」
「”・・成程ね。 生まれつきの属性が仇になっちゃったのねぇ・・・
 その友人さんは、彼は助け出せる見込みはあるの?”」

「分かりません。 一度心臓を貫かれてるので助からないでしょう
 ただ『生かされて』いるだけかもしれない。
 ・・・でも可能性は0ではないと、そうしたら、もしかしたら、
 ミザキ様なら上手くやってくれるかもしれないと、旅団長が」

「”やぁねぇ、旅団長ったらそんなこと言ったの?”」
「えぇ」
「”随分と買いかぶられたわねぇ。 あくまで属性が『樹』なだけで
 植物魔物に詳しいってわけではないんだけど・・”」


機械越しにでも分かる、ミザキの困ったように笑う気配がする。

その笑いから嫌な感じはせず、
今にでも「参ったわね」とでも言いそうな雰囲気だ。


「”まぁ、でも 善処はするわ。 セラも、サポートよろしくね”」
「・・はい。 よろしくお願いいたしますわ、ミザキ様」





 
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