創作世界

□彼はそれを「先見」と呼ぶ
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旅団長とその幹部である十二使、他極々一部の人物以外
誰にも知られないというサファリ旅団、その本部。

長と十二使の定例会議が終わった後の旅団本部の廊下、
男性は赤い長髪を揺らしながら、早足で歩いていた。

ブーツで踏まれた床から、カツカツと音が響く。

曲がり角で姿を見せた、海を思わせるような靡く蒼い髪。
目的の人物の後ろ姿を見つけ、彼の足音の間隔は短くなった。


「メーゼ」
「ん」


振り返り際、海の波が上がったように髪が揺れる。

メーゼと呼ばれた綺麗な顔立ちをした女性は、
赤髪の長髪の男性、グラシアを見上げ「何?」とだけ口にした。

彼女に追いついたグラシアが足を止める。


「君に礼を言っておこうと思ってね」
「・・あんたが? なんだ、妙に気味悪いわね・・・」
「全く失礼だね。 君といいクロウといい少しは包みなさい、美しくない」

「・・ならこれクロウも言ったんじゃない? 『言う相手は選んでる』」
「僕ならいいとでも?」
「彼も私もそのつもりよ」


口元に小さく笑みを浮かべたメーゼに、
グラシアは額に手の平を当てて、深く溜息を付いた。

彼に対面して立っているメーゼも、
先程名の挙がったクロウカシスも一般的に言う悪いような人物ではない。

それは彼も重々承知している。
それを理解した上でのこの深い溜息だ。


「何の礼って?」
「あぁ、そうだった。 今日の僕の報告内容のことでね」
「堕天使と戦闘になったって話?」
「そう。 ・・報告では言わなかったけれど、彼女とは元幼馴染でね」


肩を上げながら話した彼に、メーゼの表情が消えた。
噤んだ唇、グラシアから続く言葉を待つ。


「再会したのは実に25年ぶりだったかな」
「・・よくその幼馴染だと分かったわね」
「彼女と対面した時、ふっと思い出したような・・そんな感覚だったな」

「まともに戦えたの?」
「君の言葉のおかげでね。 だからその礼を」


口元に笑みを浮かべる。
ふと目を瞑って、今思い出すのはあの情景。

いろんな場所で、いろんな綺麗な景色を、人を、物を、いくつも見たけれど

それでも今思い出せるのは、あの城の最奥と
セミロングの緑髪を揺らした、濁った白い翼を2枚持つ彼女の姿だけだ。


「確かに彼女は僕の幼馴染だった。
 でも僕は、 ・・あのような歪んだ瞳を持った人は知らない」


廊下に設置された窓ガラスの方へと、彼は数歩歩いて行った。

まだ日中、大空の高いとこに位置する太陽は
窓の外から見える湖と森を全体的に明るく照らしていたが
窓からは日差しは入り込まず、廊下は日中にしては少し暗い。


「相手は堕天使だったけれど、 強かったよ」
「そう。 その相手の翼1枚斬り落とす貴方も相当よ」
「君ほどではないさ」


口元に笑みを浮かべるグラシアの顔をメーゼがじっと見つめる。
赤い長髪とビー玉のような水色の目が、彼女の藍色の瞳に映る

メーゼは無表情で彼を見つめ、微かに眉を寄せた。


「まぁ・・そうね、 ・・・聞きたい?」
「なんだい、その意味ありげな合間は」


突然脈絡の無い言葉を発したメーゼに
グラシアは怪訝そうな表情を彼女に向ける。


「堕天使の・・アリナだっけ?」
「合ってるよ」
「彼女はグラシアのことを認識した?」
「忘れてる様子だったけどね」

「戦闘では貴方は迷いなく攻撃できたの?」
「割り切りが早かったもので。 敵としての彼女の姿を僕は知らないからね」


グラシアの回答後、止んだ質問に2人が無言で見つめる。
メーゼは小さく息を吐き出した。

ゆっくりと、彼女と唇から言葉が紡がれる。


「・・相手が幼馴染であることに気付いて、その上で割り切り付けて。
 敵である幼馴染に、それでも容赦なく戦えるのは貴方の良いところだわ」


瞼を伏せて述べられる、女性にしては低い彼女らしい声。

その後、彼女はグラシアを見上げた。
顔を上げた際に蒼い髪が揺れる、


「その上で告げてあげるわ、グラシア・クウェイント
 切り落としたその感情、失くした後で後悔しないように」


はっきりとした声色、
彼女の藍色の瞳はいつになく真っ直ぐだった。


「・・君は全てを知ったように口を利く、」
「・・・対人戦闘に強いと、他人とは見方が違うってのはよく聞く話ね。
 私にはそう見えたってだけの話よ。 ・・独り言、気にしないで」


赤髪を長く伸ばしたグラシアの背後を通り過ぎて、メーゼは廊下を歩いて行く。
この道だと彼女は自室に戻るところだったのだろう。

メーゼの後ろ姿、波が立つような海色を眺めて彼は溜息1つ。


「・・後悔、か」


彼女の述べた言葉の真意は、読めなかった。





彼はそれを「先見」と呼ぶ




(彼女の発言は大体当たることを、彼は知っている)






アリナ戦後、定例会議後のグラシアと呼び止められたメーゼ。


グラシア・クウェイント
  十二使『八駆』 先日アリナと約25年ぶりの再会を果たした。
  しかし彼女は敵組織に所属しており、グラシアのことも覚えていなかった
  彼の中の「幼馴染のアリナ」と「敵のアリナ」は同一人物であり別人である。
  美しいものが好き。 彼女が堕ちる前のオレンジ色の瞳が綺麗だった

メーゼ・グアルティエ
  割りと最近十二使入りした『夜桜』 誰が見ても美人な上に、
  ほとんどのパーツが整っているため、美しいもの好きのグラシアに
  眼の色、表情、横顔、至る所が美しいと褒められた。
  しかし開幕のやり取りのように、発言内容だけは唯一褒められない。

アリナ・サリン
  アインや姫が属する組織の一員である堕天使。
  堕ちた影響で、真っ白の翼は濁り、オレンジ色の目は赤く歪んだ色に
  ついでにその影響か、幼い頃の記憶が無いに等しい。
  先日グラシアと戦闘になり、右翼を斬り落とされている。

クロウカシス・アーグルム
  メーゼと並んで「もう少し包みなさい」と言われる十二使『氷軌』
  ぽつりと呟かれる微かな毒舌感は少々素直すぎた証拠。





 

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