創作世界

□その好奇心、恐れ知らず
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レーシュテア高等学院。

特戦科なら誰もが知り、戦闘職希望であるなら誰もが入りたいと願う
特戦科のエリート校らしい。

毎年夏恒例の旅団主催、闘技大会では
高校生部門での優勝はレーシュテアの生徒が常連らしく
過去の記録から優勝の4割くらいはレーシュテアの特戦科生徒らしい。


特戦科入学から2ヶ月が経過した頃。

学年で1位とまでは行かずとも、1年生上位争いの常連として
「エルフリーデ」の名が挙がった頃だった。

その日は全学年の合同授業だった。

先生、たまに先輩からの受け身の取り方や剣を振り方を教えてもらううちに
直接戦わずとも、「この人強そうだな」というのが
なんとなく感じ取れるようになった。

実際、私がそう感じた彼らは強かった。

その中で1人、合同授業でのトーナメント戦や
1年への指導が行われている中

校舎へと続く階段に、足を組んで本を読んでいた先輩の姿。

特戦科の授業を受けているとは思えないような態度。
太陽の日差しに当てられた蒼髪は海のように思えた。

本を読んでいるとはいえ、腰には彼女の武器らしい剣が携わっている。

戦闘ド初心者ながら勘付く。
そしてこう思ったんだ

『今まで見た中で彼女が1番危ない』

近くに居た3年らしい先輩を捕まえて聞いた。


「あの人、授業参加しないんですか?」


自分の向けた指先の先に居る、本を読んでいる先輩の姿を見て
その3年の先輩は「あー・・」と呟いて、苦く笑うように眉を寄せた。


「彼女は『特別』なんだよ」


先輩はそう諭すように私に聞かせた。
「へぇ・・」なんて理解したのかしてないのか曖昧な返事。

彼女が『特別』と呼ばれるのはド初心者でも分かるんですよ、先輩。

だって戦った姿も見てないのに、話したこともないのに
近づいたこともないのに、それでも強いと勘付くって相当でしょ?

小さく息を吐いた。

・・見てみたい

素直な欲求だ。

生徒の誰もが勝てず、指導者である教師よりも強い
私が見たことのない領域、世界、その強さを。

気がついたら階段へと足が動いていた。

手前まで来て、階段に座る凛とした彼女へと声を掛ける。

「センパイ」とだけ呼んで、返ってきた反応は
本から目線を外し、私を視界に収めるという動作だった。

海みたいだと思った髪は肩に付くくらいの長さで
前髪は左側でヘアピン2つほどで留められている。


「センパイは戦わないんです?」
「授業は出ないことにしてるの。 面白くないから」
「それほど相手が弱いの?」


真っ直ぐ見つめて投げた質問に、彼女の口元がふ、と緩む。

小さく浮かべられた笑みは、あまりの綺麗さと、
彼女の強さの再確認したみたいで少しぞっとした。

それでも好奇心は止まらない。


「センパイの戦う姿を見てみたいんだけど
 どうしたら見れます?」


見上げての問いかけに、彼女は藍色の目でじっと私を見つめた。
・・なんかこんな色の鉱石だったか見たことあるな。

センパイはゆっくりと口を開く。


「・・1年ね? 名前は?」
「エルフリーデだけど。 あ、愛称はエルとかエルフィで通ってる」
「ならエルフィね。 私の戦闘が見たいようだけど」
「見れるなら是非とも」

「・・・」
「・・・」
「・・来週まで待ちなさい。 呼んであげるわ」


どういう意味の発言かは理解できなかったけれど、
とりあえず許可は頂けたと思っていいらしい。

私は頷いた。

直後に同級生と先生に呼び出されて、
中学の頃とは比べ物にならないだだっ広い校庭を走っていった。


後に聞いた。 彼女の名はメーゼというらしい。

特戦科3学年、メーゼ・グアルティエ

筆記テストでも普通科とトップ争いができるほどの学力を兼ね備え、
実技科目個人・近距離・魔術共に学年1位。

3年のトップということは、全校生徒1位も同意義だがそれだけでは済まず、
教師や指導者を数えても彼女に敵う人は居ない。

そんな彼女の戦闘力はどれほどかと言うと、
アルヴェイトの騎士団部隊長や、有名な旅団員と渡り合えるらしい。

「なんでそんなに強いんだろ」

何気なくそう呟いた私の言葉を聞いた3年生の先輩は
私の独り言には何も答えず、隣で苦く笑うだけだった。







合同授業、及び彼女との会話から10日ほど経った頃。

これから特戦科授業が始まる5分前、って時に
メーゼって人が腰に剣を携えたまま、ツカツカと早足で近づいてきて。

私の腕を掴むなり、そのまま歩き出した。

え。 困惑する私を前に、彼女はずんずんと歩いて
引っ張られるように歩かされている私は校庭の人集りから離れていく。


「ちょ、授業っ」
「先生には貴女を借りるって伝えてきたわ」


私の戸惑い込みの発言に、解決策ともなんとも言えない返事。

掴まれた腕は離されたが、彼女は「付いてくるように」とでも言いたげで
学院の門の方向へと足早に歩いて行った。

小さく頬を掻いて先輩の後を追う。


「前回言いそびれたのだけど、貴女結構良い性格してるわね」
「・・それ褒めてんの?」
「少なくとも悪意のある発言ではないわ」


高校生とは思えぬ大人びた笑みが目に映った。

彼女の後を着いて行くと、おじさんと呼んでいいのか悩む年齢層の
見知らぬ男性が門の前に立っていた。

腰には少し大きめの剣を携えている。

男性は先輩と私の姿に気付くと顔を上げて
「おぉ」と人当たりの良さそうな笑顔


「観戦者連れてくるのは珍しいな。 2人目じゃないか?」
「面白そうだったから。 血迷ったかなとも思ったんだけどね」
「前にも言ったが、お前さんは割りと感覚人間だな」
「『見る目がある』って言ってくれない?」

「・・どなたさま?」
「おっと、こいつは失礼」


疑問符を浮かべると、男性は胸元に手を当てて浅くお辞儀をした。


「先程メーゼから話は聞いたぜ、新入生エルフリーデ
 ようこそ、レーシュテア高等学院へ。
 アルヴェイト王国シェヴァリエ騎士団
 第9部隊長のランドル・プルーデンスという。 よろしく頼むぜ」

「・・・き、騎士団部隊長ぅ・・!?」
「たまに授業で部隊長クラスの人は来るでしょ」
「センパイ! 部隊長が来るほどまだ1年生育ってないんだけど!」
「くっく、結構愉快な嬢ちゃんだな」


ランドルと名乗った部隊長はクツクツと笑いを堪えるように、
・・堪えきれてないんですけど。

笑いながら彼は街道の方へと指を差した


「さ、とりあえずは行くか。 君もメインはそっちだろ?」
「え、 た、多分?」

「これからも関わるだろうからエルフィも覚えていなさい。
 私の特戦科授業は騎士団部隊長とのマンツーマンなの」
「!? なんつー贅沢な・・」
「はっは、あの強さ誇るメーゼに俺が教えられることはもうねぇよ」
「部隊長にそれ言わせるって センパイ、アンタ」

「エルフィ、敬称も敬語も苦手そうね。 喋りやすい話し方でいいわよ」
「おう、そうしとけ。 俺も堅苦しいのは好かん」
「えー・・じゃー敬語はやめるわ。 呼び捨てでも平気? メーゼ」
「あぁ、そっちの方がしっくり来るわね。 問題無いわ」







学院から最寄り街、戦神の街アニティナまで来ると
2人は迷うこと無くコロシアムの方へと向かった

威勢のいい声で、出店による客引きが行われている。


「貸し切り1時間だけだが構わないか?」
「勿論」
「・・貸し切るのか」


ぼそ、と呟いた言葉に2人は振り返って
2人とも似たような動作でくす、と笑った。

コロシアムに入るなり、メーゼとランドルさんの2人に
観客席へ行くようにとのお達し。

頷いて観客席に向かった。

観客席は私除いて人っ子一人居なくて、だだっ広い試合場の中心には
メーゼとランドルさんが剣を抜いた状態で話していた。

2人は軽い会話を終えた後、距離を取るために少し離れる。

あ、始まる。

遠目ながら、身体にビリッと稲妻が走ったような感覚だった。


なんというか、こう、言葉に困るような、そんな戦いだった。
相手が騎士団部隊長であるのにそれと渡り合うメーゼ

目が追いつかない、 息を呑んでしまう

闘技大会の世界部門を見てるようだ。
片側が高校生だなんて誰が信じよう?

驚愕で心臓が止まるんじゃないかと思った
頭可笑しくなるんじゃないかなとも思った

響き渡る剣と剣のぶつかり合う激しい音が、
場内に、身体に、痛いほど響く。

嗚呼、

これが彼女の世界。

私が見たがっていた領域、世界、強さ。

少し震えた。
笑っていた。

好奇心は人を殺すなんて、どこかで聞いたことがある

死んでない、生きている、感じてる、満たされてる
見たがっていたものが目の前に存在してる、映っている


貸し切り終了5分前になった時、
戦闘を終えて一息ついた後のメーゼが私の元に来た


「怖くなかった?」


意味ありげな言葉に、私は心の底から笑ったのだ


「全然! 良いもの見れた!」


安堵したような笑みは、彼女らしくない『歳相応』に見えた





その好奇心、恐れ知らず




(ちらっと見えたんだけどさ)
(うん)
(メーゼ、戦ってる最中 ちょっと笑ってた)
(ん・・持て余してる分だけ発散楽しいの)






6年位前の6月頃の話。 メーゼ高校3年、エルフィ高校1年時
エルフィが初めてメーゼを見た時のお話


エルフリーデ・レヴェリー
  当時高校1年、今回の好奇心枠() プラチナブロンドの髪と紫色の目
  場面の問題で入れ損なった情報だが彼女は現在二刀流。
  最終的には双刃で二刀流できるようになったらいいなと思ってる。

メーゼ・グアルティエ
  当時高校3年、この時点で彼女は既にチート。 部隊長と渡り合える。
  この時は髪が短く肩に付くくらいの長さだった。 ヘアピン装着。

ランドル・プルーデンス
  シェヴァリエ騎士団の第9部隊長。 当時35歳くらい。
  1対1で戦うのはメーゼのみだが、他の生徒にも指導は行っている。





 

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