創作世界

□片想い少女と色付く世界
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そこは真っ白な世界だった

目を開いた時に視界いっぱいに飛び込んで来た白、
雪国も相当な白銀の世界だと思ったけれどここはそれ以上だ。

広げた両手はこの真っ白な世界には違和感を覚えるほどの肌色。
自分の長いオレンジ色の髪も、青緑色の上着も見覚えのある色だ

真っ白な世界はどこかの街のようで、
真っ白な人が、いつもの日常を過ごすように歩いていた。

手を軽く握ったり開いたりを繰り返す
感覚は・・ある。 意識もハッキリしてる、

辺りを見渡してから足を前に差し出す。
この世界から、漸く一歩を踏み出した。


フィアナ・エグリシア
今年4月に旅団に参加した19歳の少女である。

高校で授業の一環として戦闘を習う特戦科ではなく、
戦闘外の通常授業を受ける普通科の卒業生だ。

特戦科を卒業せずに旅団員になるというのは、相当な異例である。

本来は高校で3年間特戦科に通い、戦闘を習って
戦闘力の基準を満たして漸く正式な旅団員の許可が降りる。

それに対し普通科卒業だった彼女は多少の制限があったものの、
戦闘習い始め、たった1ヶ月で旅団に加入したのだ。



「ごめんなさい、少しお時間いいですか?」


噴水の近くのベンチに座っていた中学生くらいの少年に声を掛ける。

肌も髪も目も服も、何もかも真っ白の少年は
ゆっくりと顔を上げて「何?」と答えた。


「変なことを聞くようだったらすみません
 この世界は建物も人も、皆真っ白なんですか?」
「・・そうだよ、これが普通。 あなたも、白いよ」


少年の返事に、悩んだ表情を浮かべた彼女は「そっか」と。


「もう1ついいですか? この街の名前は?」
「ルベクト」
「・・アルヴェイト王国なんですか?」
「そうだよ」


フィアナは驚いたように瞬きを繰り返す。
その後に「ありがとうございます」と付け加えて笑みを浮かべた。

彼女の人柄が表れるような優しい笑みに、
少年は無言で頷いて、少し目を逸らした。

ベンチから離れて辺りを見渡す。

水路の街ルベクト。
アルヴェイト王国、王都ラクナーベルの北に位置する街である。

フィアナの故郷ともそう遠くないため、
彼女は何度かルベクトに来たことがある。


「(実在の街、 なら例え夢の中であっても、
 知ってる人が居てもよさそうだけれど・・)」


知っているはずの街は、あまりにも真っ白で様変わりしすぎていて。
全く知らない街に居るみたいだ。

彼女はオレンジ色の髪を揺らして、ルベクトの街を歩き出した。

町並み、屋敷、喫茶店、あちこち歩き回って
頭上で飛空艇が飛んで行くのを見た。

裏路地に足を向けると建物で影になった部分の壁に
白い落書きがされているのに気付く。


[この白い世界から抜け出したいあなたへ]


石か何かで書いたような削れた落書き。
ハートマークで囲まれた中に書かれた字。

思い当たりのある呼びかけに、辺りを見渡す。

裏路地をもう少し進んでいくと、先程と似たような落書きがあった。


[あなたが一番会いたい人の元へ]


辺りを見渡して、他に落書きがないかを調べたが
どうやらこの2つだけらしい。

・・・一番、会いたい人、

彼女は顔を上げるなり、小走りである場所へ向かった。


フィアナには好きな人が居る。

彼女の性格、人柄から行くと珍しいと感じるであろう「一目惚れ」であり
そして彼女の初恋であり、既に告白済みという恋愛にしては珍しい形だろう。

人間でありながら旅団の十二使を務めるクロウカシス・アーグルム。
彼はフィアナの恩人のような人物であり、彼女の師のような人である。


ルベクトの街中を抜け、魔物の出る街道を抜けて
フィアナは王都ラクナーベルの北門に辿り着いた。

王都の北門の方は住宅街で、王都らしい賑やかさは感じない。

北門から左側を見上げれば、アルヴェイト城がそびえ立っているのが分かる

何度か見たことのあるはずのアルヴェイト城も、
真っ白だと威厳が消えているように思う。

初めて見たみたい、 少し眉を寄せて小さく笑った。

すれ違う真っ白な人、真っ白なこの状況にもなんとなく慣れてしまった。

早足で住宅街の道を抜けて、王都の大通りへ。

真っ白な大通り
3階建ての見覚えのある建物を探し出して建物の扉を押す。

カランカラン、と扉に設置された小さな鐘の音が鳴り、
建物の中へと顔を覗かせる。

奥のカウンターには受付の人の姿があり、
「いらっしゃいませ」と私に声を掛けた。

サファリ旅団、ラクナーベル支部。
そして彼に告白した場所でもある。

カウンター越しに受付の人に会釈を行い1階を見渡す。
その後2階、3階と同じように見渡したが目的の人物の姿は無かった。

階段を下りて、大通りから外れて向かったのは
王都の南東に位置する訓練場。

戦闘初心者だった私が、彼に戦闘を教えてもらったのもここだ。

彼の姿を探したけれど見つからずに。
・・・よくよく考えれば、彼は訓練場には1人では滅多に来ない。

しばらく悩んで、王都正門へと向かうべく来た道を戻っていった。

正門から王都に入ると噴水のある広場がすぐ目の前にある。

自分のターニングポイントとも言える場所。
彼と初めて会った場所、

真っ白な道、真っ白な木、真っ白な建物
真っ白な大通りを小走りで走っていく。

大通り中央の植えられていた木が消え、開けた場所へ。


「あ、」


声が、零れた。

中央の広場を眺めるように立つ、見覚えのある後ろ姿
ここに来て初めて色の付いた人、

ダークブロンドの髪と、茶色の半袖コート、

心臓がトクン、と音を鳴らす。

ゆっくりと歩き出して、彼に近づく。
一歩、一歩。

声が届くくらい、近づいて その名を呼んだ


「クロウさん」


私の声を聞いた彼は、振り返って、

ダークブロンドの髪とよく似た色の瞳を細めて、優しげに笑った。

その瞬間、世界が色づいた。
空が、雲が、人が、建物が、一瞬にして。

それと入れ替わるように視界が真っ白になった。

あ、この感覚は
意識が 遠のく、







ふ、と開いた瞼は心なしか重かった。

どうやら私は机の上で腕を組んで、その上に頭を乗せて眠っていたらしい
肩には自分では身につけないであろう、茶色のコートが被せられている

ゆっくりと机から起き上がり、コートが落ちないように手で羽織り直す

辺りを見渡すと飛空艇で借りた部屋らしい。


「あぁ、目が覚めたか」


背後から聞こえた言葉に少しびっくりして振り返る。

ローテーブルとセットになっているソファに腰掛けていたらしい
彼は手に持っていた本にしおりを挟んだ後、本をパタンと閉じた。

ソファから立ち上がったクロウさんはいつものコートを着ておらず。
彼は私の近くにある椅子を引いて座った。


「全く、前にも言ったがお前は割りと寝落ちる奴だな」
「・・私、どれくらい寝てました?」
「俺が知る限りでは20分だな」


本のしおりが挟まれた箇所は、言うほど読み進められた様子ではない。
例えば、そう 彼の読むペースで20分くらいの、

・・起きるまで待っててくれたんだ、

少し早くなる心臓に、目を細めて小さく笑う。


「夢を、見てました」
「夢?」
「はい」


肩に掛けられたコートを少し手繰り寄せる。

瞼を閉じた時、あの白い世界が一瞬で色づいた瞬間が思い浮かぶ。
あの白い世界で1人、色付いていた貴方は 確かに綺麗だった。

疑問符を浮かべるように、私を見つめてるクロウさん
ダークブロンドの髪色に似た瞳が、私を、

嗚呼、


「やっぱり、クロウさんのこと好きです」



片想い少女と色付く世界





(・・・・そうか)
(もう、相変わらず表情微妙そうです)
(あのな・・、・・・いや、 何も無い)
(ふふ、『好きにしろと言ったから』?)

(まぁ、それもあるし ・・・)
(?)
(・・いや、これは伏せておこう。 どうもお前と居ると喋りが過ぎる)
(あら、そうなんですか?)






ニコタの同一プロット企画に参加しましたー('ω')
未来軸を書きたかったけれど、耐えて時間軸現在を超意識しました()


フィアナ・エグリシア
  今回の主人公。 19歳、旅団員、弓使い
  片想い中そしてカミングアウト済。 彼女は何より洞察力が強い
  告白の言葉は「私、クロウさんのこと 好きみたいです」

クロウカシス・アーグルム
  彼女の想われ人。 26歳、旅団十二使、剣士
  フィアナの好意は知っている。 そんで割と真面目に悩んでいるし
  ぶっちゃけフィアナに好意が向きそうな予感はしてる。





 

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