創作世界

□海色による初の邂逅
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鞘から剣を抜き出した状態で、海色の長い髪を揺らしながら
城内を走る女性の姿があった。

古びて使われなくなった城の中は結構埃臭い。

蜘蛛の巣が張られた白い壁、
時々割れた壺の破片などが白い床に散らばっている。

城内には当然のように魔物が住んでいたが、風のように走り去っていく
彼女の通った道に居た全ての魔物は床に突っ伏していた。

剣が振られ斬りつけられる魔物は、ほとんどが即死であるか致命傷を負い、
腕が振られ発動するいくつもの魔術は、魔物の動きを的確に封じる。

蒼い長髪を揺らした彼女は、藍色の瞳で辺りを注意深く見ていた。


メーゼ・グアルティエ
サファリ旅団、十二使『夜桜』の名を授かった彼女は現在任務中である。

十二使へ直接下される任務というのはそう珍しくない。

それは旅団員の手には負えなかった魔物であったり、
旅団員に任すには荷の重い、凶悪団体の組織壊滅であったり

旅団員の知らぬ敵対組織に属する者の足止め、
国1つが混乱に陥るような計画の阻止が粗方である。

そして彼女への任務は、今回は後者であり
旅団敵対組織の絡む依頼は、今回が初めてである

メーゼは周囲を警戒しつつ、
城内のT字路に差し掛かり右へ曲がろうとした。


「・・!!」


突如として身体に走り渡る殺気、魔術の発動がされている感覚。

前へ進もうとした足を無理矢理止め、その場を飛び退く。

ブーツと床が擦れた音がして2秒としないうちに、
その場に青みがかった黒い剣身が振り落とされる。

勢い良く振り落とされた大剣は、その場の城内の床を抉り返した。
大剣を持つ人物は黒いコートと、対照的な白い髪を見た。

顔を上げた男性は、大剣のグリップを黒い手袋越しに握ったまま
金眼の瞳をメーゼへと向ける。

男性の右頬には赤い印のようなものが描かれており、
彼の耳はエルフ族のもので横に伸びていた。


「おっと・・流石に幹部クラスはそうは行かねーな」
「・・・随分な挨拶ね。 常識兼ね備えてから来てもらえる?」
「っは、なんで敵にまで常識適用させなきゃなんねーんだよ十二使サン?」


彼は床に突き刺した大剣を引き抜くと、
小さく息を吐き出してメーゼを見つめた。

対してメーゼも、鞘から抜きっぱなしの長剣を片手に構え
相手の様子をじっと見据える。

数秒ほどして、彼女が小さく息を呑む。


「(・・・読めない)」
「あ、珍し。 『見えない』タイプだ」


メーゼの心の中の感想と、男の口から出てきた発言はほぼ同時だった。
彼から投げ掛けられた言葉にメーゼは表情を変えないまま。


「『ただ強いだけ』の奴はすれ違っただけでも分かんのにさ。
 ある一定を超えると、そんだけじゃ強さって認識できなくなんの」
「・・・何が言いたいの?」
「んーや、なんも。 不思議だよな、ってただの世間話」


男は悪びれない雰囲気で、小さく口元に笑みを浮かべる。
歳は30くらいだろうか。

男の肌は日焼けというものを知らないようで、
メーゼより肌が白いのではないかと疑うほどに。


「お前、名前は?」
「・・・『夜桜』」
「あー、『夜桜』ってーと最近入ったっつー・・・なるほどなぁ」


男の発す言葉にメーゼが少し眉を寄せる。

十二使というものは機密ではなかったのだろうか。
筒抜けのようだが管理システムはどうなっているのやら。


「てーか俺、異名じゃなくて名前を訊いたんだけどな?」
「名乗らなくても調べられるのでしょう?」
「情報源がありゃーね」
「どこ?」

「あのさぁ、確かに発言も行動も重み感じさせる奴じゃねぇけど、
 敵に情報ペラペラ喋るほど軽くもねぇよ?」
「でしょうね。 ・・あんた、名前は?」

「さぁね。 先輩十二使さんに訊いてみたら?」
「はぐらかすわね」
「お互い様じゃん?」


溜息混じりに息を吐き出すメーゼに、
男は口元にニッと笑みを浮かべる。

男は大剣を床に向けたまま、片腕を広げる。


「さぁて、十二使『夜桜』 お前には目的の品がある。
 しかしその目標に辿り着くには俺が邪魔だ。
 つまりお前は到達するために壁を一つ通り抜けなければならない」
「・・・・」

「対して俺はお前の相手だけで済む。 さて、どっちが楽?」
「そう単純な話でもないでしょう?
 あなた方の組織は何かを壊すことを目的としている。 違う?」
「・・・否定はできねぇな」


悩む表情を浮かべた後の返答に、メーゼは小さく頷く。


「組織として『壊す側』にばかり立つ貴方は今は『守る側』
 逆だったならともかく、今は状況が違うんじゃない?」

「・・・ふ、」
「笑ったわね」
「いや? 面白い奴だなぁってさ」


クツクツと可笑しそうに笑みを浮かべる男に、
メーゼは小さく眉を寄せる。

随分と食えない男だな、


「あのさ、俺は組織の目的なんて正直どうでもいいんだよ。
 例え防衛側でも、俺は別に守らなくたって痛くも痒くもないわけ」
「・・それじゃ仕事として成り立たないでしょう」

「勿論。 だからって何もしないとは言ってないぜ?
 阻止しに来た奴と戦い、相手として全力で応える。
 それだけで『防衛』として成り立つだろ」


そう言い終えた直後、男は大剣を持ち直して、メーゼへと剣先を向けた。

メーゼも愛用の長剣を男に向けて構える。
剣を向けた際に、チャキッと音が響く。


「俺の相手せずに済むなんて甘いこと考えられちゃー困るな。
 そう簡単に俺から逃げられるとでも思ったかよ?」
「・・・随分と凶暴な威勢の良い飼い犬ね」
「へぇ、随分と可愛い比喩されたもんだな」

「・・・いいわ、相手してあげる」
「お、良い目だ。 前の十二使より遊びがいありそーかな
 期待外れ、なんて言わせんなよ?」


男がその場で2回ほど、軽いジャンプを繰り返す。
金眼が、鋭く光った。

構えていた大剣を持ったまま床を蹴る。

一瞬にしてメーゼへと距離を詰めてきた男に、
彼女は地面を蹴って高く舞い上がり男の振る大剣を避ける。

男は高く飛んで避けたメーゼの姿を視界に収める。
その直後、高く舞い上がった彼女へと、地面を蹴り高く跳んで大剣を。

宙に居るまま、メーゼは長剣を構える。
男の向けた大剣と混じり、空間に金属音が響いた。

剣を弾き空中で反動が起き、少し距離が離れ床に各々着地した。

メーゼは着地した直後に男へと走り向かう。
男も大剣を構え直し、互いに剣での攻撃が続く。


「女だと思ってたけど意外と動けるな」
「十二使と、戦闘になったことがあるの?」
「昔ね」
「そう」


互いの表情に焦りや動揺はなく、ほとんどが無表情で剣撃を繰り返す。

男が軽々と振る大剣を避け、長剣と大剣が交わり、
突き刺すように差し出した長剣が避けられ、
更に剣同士が交わり金属が壁を反響して響く。


「悪いけど遊んでる暇はないわ」


藍色の瞳が、白髪と金眼を捉える。

一際強く剣の交わる音が響いた瞬間、メーゼはその場から後退する。

刹那、1秒としない後に男の首から下、
大剣を全て覆うように氷が張られていた。

それは氷像、 いいや、氷の中に氷像があるようにも見える。


「・・!」
「答える気のない相手は、構うだけ時間の無駄なんでね。
 首から上が残ってるだけ感謝なさい。 自力で抜けられるでしょう?」

「・・・詠唱いつ言ったよ」
「さぁ? 思い出してみて」


メーゼが目を細め、大人びた笑みを浮かべる。

藍色の瞳は曲がろうとしていた先の道を捉え、
その場から離れ、軽快に走っていった。

揺れる海色の髪と後ろ姿を1人、見送る。



「・・・詠唱無しでこの規模の魔術を発動できるもんなんかねー、
 氷は確定・・・これ風入ってるか?」





海色による初の邂逅



(あれほど底が見えなかった奴はいつ以来だろう。
 クロウよりは深いように見えた、けど・・・あれより深いって、)

(・・・見かけによらず、意外と底は深そうだったなぁアレ。
 種族なんだろ。 エルフではなさげだけど。
 ・・・戦いぶりからして、翼持ってるようにも伺えなかったけどな)






メーゼが初めてアインと会った日。


メーゼ・グアルティエ
  十二使『夜桜』に就任したて。 恐らく就任2、3ヶ月くらい。 23歳
  旅団長から「敵と鉢合う可能性は十二分にある」とは言われてた。

アイン・フェルツェールング
  彼がメインの作品はこれが最初であり、
  メーゼと最初に出会った場面である。 ダークエルフ、多分28か29歳





 

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