創作世界

□最強は其々に存在する
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サファリ旅団、本部 その一室である会議室。
黒く大きな円状のテーブルに等間隔に置かれている椅子が13個。

椅子にはそれぞれ人が座っている、ものの半分以上はホログラムで表示され
実際その席に座っている人物は13人のうち5名ほどである。

会議は中盤、各々の報告が半分を終え、
折り返し地点に入ったところだった。


「そういえばメーゼ。 君が戦闘になったという報告があったが」


会議室、最奥の席に座る男性が口を開いた。

旅団の長であるハイノ・エルンスト。
明るい茶色の髪は天然なのか軽くパーマが掛かっている。

年は40くらいか、顎からは髭が器用に数cm伸び、
テーブルの上には彼の私物らしい中折ハットが置かれていた。

彼から向けられた視線は、メーゼと呼ばれた
ホログラムで表示された蒼い長髪の女性の元へ。


「”・・とりあえず報告書送るわ”」


口を開いた彼女の声は女性にしては少し低い。
ホログラムで表示されたメーゼの目線はどこか手元に。

微かな操作音が響く中、会議室の円状テーブルの真ん中に
ズラリと表示される字が記入されたホログラムの画面が表示される。


「”3日前よ。 旅団長の指示で向かった城で組織の人物と交戦。
 白髪の亜人男性だったわ。 年は30・・くらいかしら。
 耳が横に伸びてたから、種族はエルフかしら”」

「”え?”」
「”・・・は?”」
「ちょっと、 白髪男性のエルフ種族って・・」


会議室に、各々驚いたような声が湧く。
ざわついたような会議室の雰囲気に、メーゼが疑問符を飛ばす。

メーゼの隣に座っていたダークブロンドの髪の男性、
クロウカシスが彼女へと視線を投げた。


「・・そいつの名前は訊いたか?」
「”訊いたけどはぐらかされたの”」
「他は?」
「”武器は大剣だった、紺色の剣身。
 容姿は・・・そうね、右頬に赤い・・・印があったわ”」

「・・・」
「”十二使の誰かを知ってる様子だった”」


誰かの、息を呑んだ音が、会議室に響く。

不穏な静寂に包まれる会議室、
旅団長の近くに座っていたノヴァがハイノへと顔を向ける。


「・・・旅団長、」
「そうか、彼が・・・彼が動き出すのは久しぶりだね、」
「”っアレが相手なら止められないじゃない!?
 だって、アイツは・・!!”」
「”ナイア、落ち着いて。 士気にも関わるでしょう?”」


悲痛な女性の声に、男性を感じさせる声が宥める。

肩下辺りまで髪を伸ばして、苦笑いのような表情を浮かべるミザキに
長い金髪を三つ編みにした女性はぐっと堪えるような表情で口を噤んだ。

どちらの表情も「良い」とは言い難い。
そうでなくとも無表情や目を伏せた様子の人物が大半である。


「『夜桜』メーゼ。 君は僕の依頼内容を完遂できたのかい?」
「”最奥にあると予想されていた装置でしょう?
 ちゃんと指示通りに壊したわ。 完遂よ”」
「・・・そうか。 まずは礼を言おう、ありがとう」

「”どういたしまして。 それで?”」
「?」
「”説明。 順を追って話してもらえる?
 まだ身の回りが落ち着いてなくて、組織の資料読み切れてないの”」


呆れ混じりに浅く息を吐き出したメーゼは、軽く肩を上げた様子だった。

彼女は元々騎士団の部隊長であり、十二使への異動からまだ日が浅い。
この会議でようやく2、3ヶ月と言ったところか。

2ヶ月の間はほとんど支部への挨拶回りや、
仕事処理等の案件でバタついていたという。


「”スイリ、パス”」
「え、僕?」
「”多分お前が一番解説上手い”」
「うーん、褒められてる? まぁいいや」


スイリと呼ばれた男性は苦笑いを浮かべた。

青緑色の髪を揺らした中性っぽい顔立ち。
白いマフラーは首に浮き出た使印を隠すものだと彼は先日呟いていた。


「こほん、 君が相対したのはアイン・フェルツェールング。
 組織の幹部クラスに属し、組織トップの戦闘能力を誇るダークエルフだ」
「”・・・組織トップ、 道理で、”」
「戦闘能力では・・亜人最強クラスだと推測されてるよ。
 ・・・残念ながら、彼の最終的な数値は未だに計測できなくてね」

「”ということは一応彼と戦闘した人は居るのね?”」
「過去にね。 1年前、『北風』が殺されたよ」
「”! ・・・だからか、”」


メーゼがホログラム越しでも微かに険しい表情をしたのが分かる。
スイリは目を伏せた後、ゆっくりと続ける。


「『北風』ノルテ・ティフォーネは強かった。
 強者揃いである十二使、そのメンバーでも彼は強い部類だった。
 ・・・腕の立つ旅団員も、何十人かが彼に殺られている
 正直な話、『手に負えない』部類、かな」


スイリの説明に、メーゼは静かに耳を傾けている。
聞いている彼女の表情はどこか悩ましげで、なんとも言いづらそうな様子。


「旅団ともあろう組織が、って 思うかい? メーゼ」


説明を切り上げ、彼女にスイリが問う。
メーゼは目を伏せた後、ゆっくりと首を横に振った。

開かれた藍色の瞳は未だに悩みの色が抜けず、
視線は彼女の手元に向けられており、しばらく目が合う気配はない。


「”・・いいえ。 彼が相手ならその判断も仕方がないわ”」


そう答えた彼女は再度目を伏せ、考え込むように手を口元に寄せる。
スイリは説明を終えたようで、浅く息を吐き出していた。

悩む表情のメーゼに、「『夜桜』」とハイノが声を掛ける。


「”ん”」
「彼と戦ってみて、 ・・曖昧な質問になるが、どうだった?」
「”底が見えないタイプね。 能力値の上限が読めない”」
「・・見えない、」

「”クロウやティグレに対しても『見えない』とは思ったわ。
 ただ彼は・・・見えない、 深さが違う、と言って伝わるかしら”」
「・・・つまりメーゼか」
「”ん?”」


ぽそりと独り言のように紡がれたクロウの言葉に、
メーゼが反応する。 が、それ以上の返答はなく。


「勝てる見込みはありそうなのかい?」
「”見えない相手に、見込みを訊くのはナンセンスじゃない?
 相手の強さが分からない、イコール測れないんだもの”」
「・・・」
「”大方『北風』もそれで死んだのでしょう?”」


平然と口を開くメーゼに、会議室の空気が変わる。
切り裂くように紡がれた発言は、彼女以外の全員が知っている。


「”大体想像は付くわ、アレが相手だものね。
 互いの底を探ってるうちに『北風』が先に暴かれたんでしょう”」


告げられていく彼女の発言に、誰も声を発さない。
想像、推測で口を開くメーゼの言葉は「事実」なのだ。


「”だから私の返答はこう。 私の手に負えるのかと問われると分からない。
 初戦だったし、互いに全力ではなかった。 現状は勝ちも負けも半々。
 ・・・マイナスなことは言いたくないんだけどね”」


苦く笑うように、小さく眉を寄せた彼女は
十二使の能力値測定で、亜人や魔武器使い達を全て差し置いて

周りを遥かに上回った、十二使の「最強」候補だ。





最強は其々に存在する



(様子見の間なら多分渡り合えるわ)
(アレをノーマークで放っておくわけにも行かないものね)

(前例があるのに、自分が人間であるにも関わらず)
(それでも彼女は戦おうとする)
(彼女に送り出す言葉を放った人物は、誰一人とて居なかった)






アイメゼ初戦後の会議。
初戦、会議、報告書、日記で4部作になった。


メーゼ・グアルティエ
  3日前にアインと交戦した新人十二使『夜桜』 今回タブレット参加。
  彼女の強さは相当で、対魔よりも対人向きであると自覚している。
  「自分と同じ姿形をしている人の動きを読みやすいのは当然でしょう?」

ハイノ・エルンスト
  当時41かそこらの旅団長。 定例会議は基本的に本部出席。
  凄く頭はキレるのだが、戦闘能力は良くも悪くも一般的、並であるため
  メーゼが言う「読めない」「見えない」という感覚は一切分からない。

アイン・フェルツェールング
  今回の話題。 敵対組織最強のダークエルフ。
  『北風』と旅団員数十名を殺害。 ほんとなんなんコイツ。
  ここ1年ほど鳴りを潜めていたようで、姿を目撃されていなかった。

ノルテ・ティフォーネ
  1年ほど前にアインに殺害された『北風』
  十二使の中でも強い方だった。 二刀流の風氷使い。

クロウカシス・アーグルム
  今回メーゼの隣に座ってた『氷軌』 本部出席。
  見えない読めないの世界は理解している。
  「深い」という比喩を用いられて、真っ先にピンと来たのはメーゼ

ノヴァ・フェルド
  十二使『凛獄』 本部出席、ハイノの近くに座っていた。
  十二使の中では結構古参だったりする。

ナイアレヴィ・ルヴァス
  十二使『閃雷』、タブレット参加。 アインに殺害されたという
  『北風』ノルテの恋人だった。 因みにメーゼとの仲は良くはない。
  メーゼにもアインにもいろいろ思うところはある。

ミザキ・セレジェイラ
  十二使『樹花』、タブレット参加。 樹属性。
  声を上げたナイアを優しく宥めたオネエである。

スイリ・ミゼル
  十二使『知聖』、尚会議は本部出席。 アインの解説してた。
  解説役投げられたのは、情報屋で要点まとめるのが上手いから。

ヴァン・サングイス
  今回名前出せなかった。 異名思案中、タブレット参加。
  「解説なら多分お前が一番上手い」ってスイリに解説ぶん投げた奴

ティグレ・プロイビート
  十二使『拳剛』 名前は出たけど今回喋ってない。
  「見えない」と言われていたが、彼とメーゼは闘技大会で交戦済みである





 
 

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