創作世界

□旅団「サファリ」の日常
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2016/12/27 【12:10】【23:00】追加
2017/11/25 【14:00】追加
2018/10/16 【15:00】追加、【14:00】調整






▼12:10 【酒場】


真昼の酒場。 時間帯のせいか酒場の客は意外と少ない。

4人席のテーブルに1人、飲んだくれの中年の男性や、
店の端で2人愚痴り合っている男性がちらほらと見える中、

異彩を放っていたのはカウンター席に座る童顔の女性だった。

カウンター席に座るその後姿はそれほど背も高く見えず、
マスターと会話しているその表情は幼い。

緩やかに跳ねたクリーム色のセミロングの揺らした彼女の背に、
中年の男性が目を付け、声を投げる。


「おいおいぃ、そこの嬢ちゃん」
「へ? あたし?」


振り返ったのは学生とでも通じるほどの幼気の残る少女。
声は高く、合唱では上のパートを任されていたであろうことが想像できる。

自分に指をさして疑問符を浮かべる少女、エディに
中年の男性は「おう、嬢ちゃんだ」と頷いた。

男性の周辺には酒瓶がそれなりに転がっていて、
男性の顔も赤く、酔っていることは明白だ。


「ここは未成年の来る場所じゃねぇぞぉ」
「未成年じゃないですぅー! 20超えてる大人なんですぅー!」
「面白いジョークだなぁ。 嬢ちゃん学校でも抜け出して来たのかァ?」


彼女と男性の軽口に、カウンター越しのマスターが
はらはらとした様子で2人を眺めている。

エディはむっ、とした表情を浮かべた後、徐に詠唱した。

2秒としないうちに男性が座る椅子に踏まれた床に緑色の魔術陣が現れる。

刹那、 突如として男性の上の服が
パァンッ!!と軽快な音と共に弾け飛んだ。

硬直数秒、直後に男性から伸びるのは野太い悲鳴。


「ギャーーーーッ!!」
「にしっ、酔いは覚めた?」


カウンター席に脚を組んで座っていたエディは、
悪戯が成功した子供のような良い表情を浮かべていて。

カウンター席から飛び降り、数歩男性へと近づいた後
空の椅子の上に、蹴るように片足を乗せた。


「エディ・ノクターンは にじゅーいち です!!」


不満そうに鬼気迫るエディに、男性は困惑したように疑問符を浮かべる。

カウンター越し、様子を眺めていたマスターは呆れた表情を浮かべながら、
「誰が掃除すると思ってるんですか・・」とポツリ呟いた。


「エディ・ノクタ・・・あああ!? 嬢ちゃん『あの』エディか!!」
「あのエディですーぅ。 いくら相手が女だからって、
 舐めてると痛い目見るのはそっちだよ、おっちゃん」


椅子から足を下ろし、男性へと片目を瞑りウインクしてみせるエディ。

童顔らしい童顔な彼女は低身長である。

そしてそれがコンプレックスではある、が
彼女は『風の魔術師』と呼ばれるほどの腕の持ち主だ。


「恐れ入ったぜ・・ 嬢ちゃん、悪かったな。
 何か一杯飲むかい、奢ってやるよ」
「ほんと? んーじゃメロンジュースにしとこっかな」
「なんだァ? はは、ガキじゃねぇか」

「うるさぁい! その髪切り落としてハゲにしてやるぅ!!」
「おぉぉぉおおいやめろぉ!!?」
「誰が掃除すると思ってんですか!!」





エディ・ノクターン
  風魔術を専門とする根っからの魔術師、
  旅団員でありながら『風の魔術師』という異名を持つ。
  風魔術という点だけなら十二使よりも強い、低身長童顔の21歳。
  割と常に学生と間違えられている。 高校生に間違えられたらまだ良い方









▼14:00 【レーシュテア高等学院付近 平原】


制服姿の男女数名と、付き添いのプラチナブロンドの髪の女性が
武器を手に持ち囲んだ魔物を攻撃をしている。


「ちゃんと周り見てー! 距離感誤らないようにー!!」


剣を2本手に携え、生徒達へと向けて声をあげる旅団員エルフリーデ。

魔物は既に後ろ足と腹部を刃で斬られているようで、少々弱っている。

薙刀を持った生徒が「俺が行く!」と声をあげると、
魔物との距離を一気に詰め、魔物の胴体へと刃を振り下ろした。

体の半分ほどを斬りつけられた魔物は鈍い声を出して地へと伏せる。
斬られた傷からは赤い血液と、少々生々しい魔物の内臓が。

魔物にトドメを刺した生徒は魔物の脇に立って、1つ大きく息を吐き出す。
エルフリーデは剣を鞘に収めて「お疲れ」と声を掛けた。


「うん、連携も良い感じにまとまってるよ。
 魔術支援もう少し自分のコントロールを信じて放ってもいいかもよ」
「う、頑張ります・・」
「わー、エルさんから褒め言葉だー」

「トドメも勢いあってよかった・・あれ、エアレーどうした?」
「うえー・・・」


トドメを受け持ったブルーの髪をした男子生徒が
少し気分の悪そうな表情をしていることにエルフリーデが気付き顔色を伺う。

エルフィにエアレーと呼ばれた生徒は、
魔物から目を逸らしながら、鈍い表情を浮かべていた。


「トドメ受け持ったのはいいんだけど、こーいう魔物って
 斬った時の内臓飛び出るじゃないすかー・・気持ち悪くてー・・」
「あ、あぁー・・・たまに居るよね、戦闘員だけど内臓とか血ダメな人・・」

「こーいう時どうやって退治したらいーんだろ・・」
「うーん、そうだなぁ・・・燃やすとか?」
「も、燃やす? 燃やすんですか?」


疑問符を浮かべる生徒達を見ながら、
エルフィは悪戯っ子のように笑みを浮かべた。


「相手によっちゃー美味しく見えるかもよ?」
「まさかの焼肉」
「なんつー発想!」

「でも問題は解消されてるし、どうしても慣れないなら
 手段としてはアリじゃないかなぁ。 火事にまで発展しなきゃ全然」
「うーん、火魔術かぁ・・後半年で単位取れっかなぁ」





エルフリーデ
  旅団員『双重』の名を持つレーシュテア卒業生。
  地元も近いため、OGとして生徒達の訓練に付き添うことも多い。
  ただ本人の戦闘スタイルは1対多向き。 対人許可証持ち。

エアレー
  レーシュテア高等学院の特戦科3年生。 薙刀。
  戦闘員なのに血とか内臓がダメで先が思いやられる()









▼15:00 【遊技場】


空を移動する飛空艇だが、発展した技術のおかげか揺れは然程ない。

飛空艇の中は宿泊室やキッチンと言った日常的に使う場所から、
防音ルームから遊技場まで存在する。

遊技場の奥に行き進んだ場所にダーツのスペースもあった。
赤いサイドテールを揺らしては、盤の中心周辺にバスッと刺さるダーツの矢。

最後の矢を手に取ろうとした瞬間ぱちぱち、と小さく拍手の音を拾った。
拍手の元に視線を向けると淡い緑色の髪をした中性的な顔立ちの男性が居た。


「上手いね」
「・・どうも」


見知った顔だった。
スイリから贈られた拍手にユラは小さく息を吐く。


「何か用ですか」
「特に何も。 暇だったから探しに来ちゃった」
「・・・暇な時間とかあるんだ」

「あるよ、本来は。 僕が情報屋兼業していて多忙なだけで、
 本業自体は繁忙期でもない限り意外とゆったりしてるしね」
「へぇ・・・」


彼女は興味のなさそうな薄い返事をしながら、最後の矢を手に取った。

淡々としていて反応が薄い時も頻繁にあるが、彼女は会話や微細な情報を
しっかり記憶するタイプであることをここ最近知った。

情報屋向きなんだけどなぁ。 眉を落とす。


「僕もやってみようかな」
「・・・ダーツ初体験?」
「うーん、初めてってほどではないけど数えるほどだよ。
 だから刺さりはするけど安定しないんだよね」


そう言いながら彼はユラの隣の台に移動した。
矢は元々近くの台にまとめて置いてある。

ユラはその様子を然程気にせず最後の矢を投げた。
トスッと刺さり、それが盤のド真ん中から若干ズレた場所であるのを確認。

彼はそれを見た後に矢を手に取り、盤に向けて矢を投げた。
盤には刺さっているものの真ん中からは離れている。


「思ったより下手ですね」
「直球だね」


ストレートな物言いのユラに苦笑いしつつダーツ2本目を手に取る。


「ダーツなんてコントロールの世界だからスイリは上手いもんだと思ってた」
「魔術なら自信あるんだけど・・指先のコントロールが下手なのかな」


スイリは2本目をシュッと投げたものの、
また真ん中からは離れたところに刺さる。

それも1本目とは真逆の端である。


「・・・まぁ数回しか経験ない上で当たるだけ上等だと思いますけど」
「・・おっと、ユラから褒め言葉聞けるのは意外だったな・・」
「刺されたいですか」
「ダーツの腕が良い前提でそのユラの声の調子だと、
 本気か冗談か聞き分けつかないよ?」





ユラ・レクイン
  高校卒業後に旅団に属した18歳の悪魔種族。
  スイリが情報屋なので手伝いはしてるけど情報屋ではない。
  ダーツは元々魔術コントロールのために始めたものだけど趣味になった。

スイリ・ミゼル
  十二使『知聖』の悪魔種族27歳・・・戸籍上の年齢は。
  某件を調べていたユラと出会って時折行動を共にしている。
  ユラの着眼点や記憶力は情報屋向きだなぁと思っている。









▼23:00 【帝都レーヒル 宿場】


宿場の一室、ベッドの脇に2人揃って座る影。

長いオレンジ色の髪を下ろし、本を手に持ち読んでいるフィアナ。
その右隣にダークブロンドの髪をしているクロウもまた、本を読んでいた。

読むのに集中しているのか室内での会話はほとんどなく静かである。

静寂の中、「ふふ、」と漏れる彼女の笑い声に、
クロウが読書を中断し「どうした?」と声を掛けた。


「あぁ、すみません。 ここのやり取りが面白くてつい」
「・・・ふ、 あぁ、これは面白かったな」


開き放しの本、台詞の箇所に指先を当てて、小さく笑い合う。

一頻り笑い合うと、先程と同じように各々の本を読み始めた。
まぁ読書会なんてそんなもんだ、滅多に喋らないだろう。



 →23:20


少し時間が経ったか、フィアナは膝の上に開いた本を置き、
うつらうつらとしている様子だった。

瞼は完全に閉じられており、かくり、 かくり、と
不定期に揺れる頭に、クロウが側で様子を伺っていた。


「・・・」


静寂、 彼は上着の内ポケットからしおりを取り出すと
フィアナの膝の上で開かれていた本のページにしおりを挟んだ。

その後、クロウは腕を伸ばして彼女の肩に触れ
自分の身体に凭れ掛かるように抱き寄せた。

フィアナの頭は彼の肩へ。
起きる気配のないすぅ、という寝息に、彼が微かに表情を和らげる。

彼は手に持っていた本の続きを読み始めた。

宿場の一室、 日付が変わる前の夜更けのことであった。





フィアナ・エグリシア
  弓使い旅団員の19歳。 割と昔から本を読むのは好きだった。
  最近の読書本はクロウから借りているせいか、彼の趣味が少し分かる。
  ちょっとダークなものが多いけど面白くて借りるのやめられない。

クロウカシス・アーグルム
  十二使『氷軌』の剣士27歳。 彼も彼とて相当な読書家なのだが、
  実家に書斎が存在するほど、本に囲まれて育った。 速読持ち。
  父方が読書家だった、親譲りである。 極稀にフィアナから借りている。




 
 

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