創作世界

□十二使候補の聖職者
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街の一角に存在する大聖堂。
この世界を創り、見守る女神を唯一神とし信仰する。

聖職者達は大体2つに分けられる。
街に住み街人に教える者と、巡礼しながら教会の無い場所で女神を説く者。


街中、一目で聖職者だと分かる黒と白の衣装を身にまとった女性が、
大聖堂の扉に白く細い指をかけ、扉を押した。

重くゆっくり開かれる扉、
礼拝の時間からは外れているようで人気は少ない。

最奥、スピーチデスクの前に立つ人影を認識した彼女は
礼拝堂の中に立ち入り、手を胸元に当てて頭を下げる。


「祭司様、セラ・セイクリッド ただいま到着いたしました」


お辞儀の際に揺れる黒いベールと黒紫色の長髪。
ベールの隙間から覗かせる耳は横に伸びており、彼女の種族が分かる。


「おぉ、よく来たね」


広く人の居ない礼拝堂の奥から、祭司と思しき男性の声が響く。
顔を上げた先、祭司の向かいに立っていた男性が彼女へと振り返る。

・・・先客。 セラは少し瞬きをした後、
両脇にある長椅子と長椅子の間を通り、スピーチデスクまで近づく。


「到着早々ですまないが、彼が君に話があると」
「わたくしに? そちらの方は・・・」


祭司の目線につられ、男性を見上げる。

左耳にシルバーのリングピアスを着けた彼は、
ダークブロンドの髪を揺らし小さく会釈した。

・・この方、どこかでお見かけしたような。


「クロウカシスという。 大会では世話になった」
「あ、昨年の世界部門出場者様・・・
 改めまして、回復役を努めておりましたセラ・セイクリッドと申します」
「存じている」


セラの浅い会釈に、クロウカシスと名乗った彼は頷く。

この2人は初対面ではない。

昨年、戦神の街アニティナで開催された闘技大会で、
選手とスタッフとして顔を合わせたことがあった。


「物事を順序よく説明できるタチではないので、
 まずは垂直に本題を言わせてもらおう」
「はい」

「サファリ旅団、十二使による推薦及び十二使候補として
 セラ・セイクリッドの名が挙がった」


クロウの発言に沈黙数秒。
瞬きを繰り返したセラは、微かにその唇を動かした。


「じゅう・・に・・えっ、 え?」
「・・流石世界部門回復士、その様子だと十二使の存在は知ってるな」


薄く笑みを浮かべながら「説明の手間が省けて助かる」と続けるクロウ。

十二使と言えば、世界的組織である旅団サファリの幹部だ。

存在そのものを機密とし、旅団員でありながら
十二使の存在を知らないと言う人物はザラに居る。


「それは、つまり・・十二使への勧誘、という解釈で・・?」
「その通り。 無論強制ではない、あくまで推薦と候補だ」


戸惑いが隠せない様子のセラに、クロウは更に言葉を続ける


「旅団幹部ともなれば相応の仕事と責任がある。
 守秘義務もあれば、時に対人戦闘も起きるだろう
 聖職者の対人戦闘はまずいのも理解済みだ、その上で名が挙がっている」

「・・・何故、 わたくしなのでしょうか? 理由をお聞きしたいですわ」
「1つはお前が巡礼聖職者であること。
 旅団員の立ち寄りにくい村や街に足を運び、人と関わる職である」
「・・・」

「2つ目は現十二使の戦闘バランス。
 聖属性こそ居れど、今の十二使には回復専門が居ない」


クロウから告げられていく理由に、セラは頷きながら考え込む様子を見せる。


「それに合わせて3つ目、世界部門で回復役を務めるお前は
 十二使の顔を何人か知っていることだ。
 ただの人間である俺を覚えていたんだ、虎人の大男も記憶にあるだろう?」

「あの世界部門上位常連者という・・・ お待ちください、
 ただの人間だったなら、そもそも世界部門に出場できませんわ」
「く、案外聞き逃さないな」


クロウが口元を軽く抑え、笑みを浮かべる。

人間は種族として何か秀でた点があるわけではなく、
何に関しても種族としては一番並である。

世界部門の出場者で人間といえばほんの一握りだ。


「前回は俺よりも凄いのが居ただろう?」
「・・わたくし 魔術師ながらに、彼女にはぞっといたしましたわ」
「・・・それを感知できるならば結構まともに戦えるタイプだな」


ふむ、と小さく頷き1つ。
顎に触れ、少し悩んだ様子でセラを見つめるクロウ。

彼は浅く息を吐くと、手をおろして再度彼女を見つめた。


「先程祭司にも事情を話し、上の許可も出たと聞いた。 後はお前だけだ」
「・・・・」
「勿論今すぐにとは言わない。 質問があるなら受け付けるし、
 断っても責めはしない。 ・・考えてくれるとありがたい」
「・・・そういたしますわ。 答えは支部に行けばいいのでしょうか?」

「そうだな・・・後2日ほどなら俺が滞在していると思う」
「2日・・」
「その後の予定は未定だが、俺がこの街を離れていても
 連絡を回してもらえるように手配しよう」

「承知いたしました。 できる限り近いうちにお返事いたしますわ」
「あぁ。 他に質問は無いか?」
「・・・すぐに思い当たるのは特にありませんわね、」
「そうか、なら俺はここで失礼させてもらおうか」


クロウは屈み、床に置いていたらしい荷物を肩に掛けると
彼は祭司に向けて1つ頭を下げた。


「連絡回しや場所をお借りして申し訳ない。 助かった」
「はは、いやいや。 最初は驚いたがね、そちらもお仕事頑張っておくれ」
「はい。 ・・・後は、セラ」
「なんでしょう?」

「返事を急ぐと言うが、じっくり悩んでもらって構わない。
 俺も1年保留して受諾した身だ。 待たせておけばいい」


少し意地悪げな笑みを浮かべたクロウに、セラが瞬きを繰り返す。


「そ、そういうわけには参りませんわ・・!」
「はは、 入る、断るだけでなく保留という選択肢も許容される、
 そういう話だ。 気楽に考えてくれ」


彼はそう言い終えると、祭司とセラに背を向け
長椅子で挟まれた通路を歩いていった。

入り口で一度向き直し、再度浅くお辞儀をしてから
聖堂を出て行くクロウの姿を見送る。


「・・・彼、十二使だったんですわね・・」
「私は十二使という存在を今日初めて知ったよ」





十二使候補の聖職者



(わたくしが十二使、 ・・・)
(・・・人を、友人を、救えなかった自分が?)

(彼女の瞳は何を映す)






2年ほど前の春頃の話。


セラ・セイクリッド
  巡礼聖職者。 なんていうか衣装が凄くシスターらしい。 当時23歳
  エルフで聖属性の回復特化な魔術師。 攻撃もできる。
  8月開催の闘技大会では世界部門での回復士を務めている。
  当時はただの一旅団員であった。 彼女は後にこの誘いを受ける

クロウカシス・アーグルム
  旅団十二使『氷軌』 当時24歳、実はセラとあまり年変わらない。
  昨年、闘技大会世界部門に初参戦。 その際にセラと対面している
  この時点でクロウは十二使歴2年。 新参な方である





 

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