創作世界

□奏でる海と特等席
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レーシュテア高等学院。

自分が通う学院で、その音を耳にしたのは
学院生活に身体が慣れてきた6月頃の放課後のことだった。

校舎の脇、探険代わりに庭をクラスメイトと歩く。

自分達が歩く庭よりもずっと高い位置から
微かに響いてきた弦楽器の音色は澄んでいた。

隣を歩くクラスルイトに「ねぇ」と声を投げ掛ける。


「なんか楽器の音聞こえない?」
「え? ちょっと待って・・・・・あ、今聞こえた。 エル、耳いいねぇ」
「これなんの音だろ? 弦楽器っぽいんだけど」
「うーん・・・これ・・ヴァイオリン、かな?」


足を止めてヴァイオリンらしい音色へ耳を傾ける。

場所は・・・この場所で聞こえるということは
すぐそばの校舎最上階の第2音楽室だろうか。

その音色は、音楽や楽器に疎い自分にも、なんとなく綺麗だなと感じて、


「ヴァイオリンって難しいんだっけ?」
「弦楽器の中では一番みたいな話聞くけど」
「・・私楽器のことはよく分かんないんだけどさぁ」
「うん」

「この奏者、めっちゃ上手くない?」
「思った思った」







「誰が弾いてるか確かめてくる」
「エル度胸あるよね!」

なんて会話をして見送られ、校舎の階段を軽快に上っていく。
ヴァイオリンの音色は階段を上がるごとに近づいている。

ただ、この音は音楽室の扉越しに聞こえるんじゃなくて
外から聞こえているようだ。

多分音楽室の窓がどこか開いているんだろう

校舎の最上階まで階段を上りきり、
ヴァイオリンの音がする第2音楽室の扉に手を掛けた。

小さくカラ、と引き戸から音が立つ。
戸を半分ほど開けて、音楽室の中を覗いた。

・・・あ、 海色、


「お、噂のエルフィじゃん」


真っ先に視界に入った海色と、ヴァイオリンに混じって聞こえた男の声。

ピアノのすぐ側に立ち、ヴァイオリンを弾く見覚えのある海色のセミロング、
特戦科3年、メーゼは入り口に立つ私に藍色の瞳が向け、微かに微笑んだ。

奏者の向かいには椅子を反対にして座る男子生徒の姿。
・・・メーゼの同級生だっただろうか? が私を見つめている。

入り口の戸を閉めながら、「どーも」と短く挨拶をする


「・・これ、メーゼが弾いてたんだ、」
「そ、たまに腕鳴らししないと鈍るからって。 椅子あるぜ」


彼はそう言って、後ろにある席に指を向けた。
数歩彼女達に寄り、周りを見渡す。

1クラス全員入れる音楽室の割に、
今はメーゼとこの男の先輩の姿しか見えない。


「聴いてるの、センパイだけなんすね」
「そ。 いーっしょ、特等席」


青紫色の髪の男子生徒は、反対に座った椅子の背もたれの上に腕を組むと
自分の腕を枕のようにして頭を下ろした。

その様子に少し笑い、音楽室奥にある机の下から椅子を引き出す。
椅子を片手に、男子生徒の近くに椅子を下ろした。

椅子に座り、特戦科制服を着た男子生徒に目を向ける


「・・・そーいやセンパイ、私の事知ってるんだ」
「んー? メーゼに拉致られたってので3年の間じゃ割りと有名だぜ?」
「人聞き悪いこと言わないでよ」


奏者であるメーゼが呆れたように溜息をつく。

・・・拉致られ・・・?
あぁ、この間の部隊長の手合わせの奴か。

あれは確かに半分くらい拉致だった。


「センパイ、名前は?」
「ん、ディス」

「・・・呼び捨てでも平気?」
「へーき。 お前敬語苦手そーだもんな」
「なんで皆同じこと言うの?」


ケラケラと笑う様子のディスを横目に浅く息を吐く。
先日メーゼにも似通ったことを言われたばかりだ

ピアノを背後にヴァイオリンを弾くメーゼの姿を視界に収める。


「メーゼってなんでもできるよねぇ・・」
「なんでも?」
「なんでも」


含み笑いをしながら、ヴァイオリンを弾き続けるメーゼ。
肩に付くくらいの海色の髪は、いつ見ても見事で。


「戦闘に関しては言わずもがな、部活だって高校から始めた割にはエースだし
 今こーやって難しいとか言われてるヴァイオリン弾いてるしさ」
「うーん、部活は『地』みたいのがあるから・・」
「地?」


ヴァイオリンの演奏、 一曲が終わったのか音は止み、
メーゼはヴァイオリンから弓を離し、浅く息を吐いた。

ディスと2人で拍手をパチパチと送る。


「コレだって、本気で習ってる人の方が上手いと思うわよ」
「でも綺麗じゃん、音色。 音楽疎い私が言うのもなんだけど」
「・・・・」
「素直に褒められとけよ」


私の発言に言葉を返さなかったメーゼ、
追い打ち掛けるようにディスは笑みを浮かべて、彼女を見上げていた。

・・・海は広し、底深し。

彼女の凛とした佇まいを見ながら、
海は、綺麗だと。





奏でる海と特等席



(贔屓目無しにメーゼって綺麗よね、女子の私から見ても)
(今日はよく褒めるわね)
(うーん、なんか再確認してる)
(まぁメーゼは綺麗だわな、身内贔屓無しにしても)

(・・ここ2人ってどういう関係? クラスメイト?)
(クラスメイト兼、腐れ縁って感じかしらね)
(出身も一緒だしな)
(あ、そうなんだ?)






6年前の6月くらい。 多少時期移動するかもしれないけど


エルフリーデ・レヴェリー
  レーシュテアの特戦科1年。 メーゼに拉致られた(語弊)ってので
  3年の中では噂になってるとかなってないとか。 この子耳良さそうよね

メーゼ・グアルティエ
  レーシュテア特戦科3年。 尚校内最強。 部活はバスケとかいかが?
  ヴァイオリンは幼少の頃に兄に教えてもらった。 技術凄い。

ディス・ネイバー
  メーゼと同じく特戦科3年。 最近彼のファミリーネーム決まった。
  いつだって彼女の一番の理解者は彼である。





 

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