創作世界

□佇む夜桜の美しきこと
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旅団十二使であり腐れ縁であるメーゼと共に、
彼がフリジエに到着したのは今日の昼過ぎのことであった。

東方に位置する桜の街。

「今がちょうど満開時期だそうから一度寄りたかったの」

私情満々な理由と共に、含み笑いをした彼女は藍色の瞳を細めた。

街一面に広がる淡い桃色、頬を撫でていく春風
共に吹雪く花弁は幻想的なもので。

ひらり落ちていく桜の花びらと共に、彼の鮮やかな青紫色の髪が揺れていた。


「はー、こりゃ見事だわ」
「ディスはフリジエ来たことないの?」
「や、多分3回目・・ただこの時期に来たのは初めてだな」


辺りを見回すようにくるくると動く首に、
隣に立つ彼女は「落ち着かないわねぇ」と小さく笑った。


「メーゼ、支部行くの?」
「ん、到着報告はしておきたいから」
「あー、なら俺も行くかぁ・・その後って用あったっけ」
「こっちの方は何も」

「じゃー俺、報告した後は街歩いてくるかねー
 ついでに宿も取ってくるわ」
「あ、私の分もよろしく」
「はいはい」







2人は腐れ縁である。

良く言えば幼馴染なのだろう、出身が同じで卒業校も一緒、
しまいには高校卒業まで同じクラス、時に同じ班、隣の席。

そしてお互いが同じようなことを呟いた。
「幼馴染より腐れ縁の方がしっくり来る」

彼らは腐れ縁である。

23年超、そろそろ24年となる彼らの関係は良い。

戦闘に駆り出せば息が合う戦士達であり、
日常では持ちつ持たれつに過ごしている。

友情にしては行き過ぎた関係でありながら、
彼らはお互いに恋愛感情を全く抱いていない。

それが2人の関係であった。



「・・・っと、後はどこだぁ・・・?」


青紫色の髪、後頭部と手でがしがしとかいた後、
彼は眉尻を下げ、溜息をつきながら辺りを見渡す。

旅団支部でメーゼと別れて数時間、宿を取った後
フリジエの桜を堪能し、店に数か所寄り、彼は旅団支部へと戻ってきた。

支部で受付を担当している人物にメーゼの所在を聞くと、
「桜を見に、先程出て行かれた」と返ってきたのだ。

桜を見るのに良い場所と言えば、大分場所は限られてくるが
陽はそれなりに沈み、暗がりの街中で1人の人物を探すのは難しい。

良くも悪くも目立つ奴だし、すぐ見つかると思ったんだけどなぁ。
とは言ってもわざわざ通話掛けるほどのことでもないし。

街中の桜の木はそれぞれ人工の光を浴び、
昼間とはまた違った姿の桜があちこちに佇んでいる。

光当てられた桜舞う街に響く、
微かな水の流れる音につられるように、彼は再度歩き出した。


ディスは桜の街フリジエの中央を分断するように
流れている川へと向かっていった。

遠巻きながらに川を挟むように並び立つ桜はなかなか圧巻であり、
下からスポットライトで照らされた様子はまさしく「夜桜」で。

川の音は近く、建物の陰から出て対岸に渡る橋を見た。
それと同時に探していた人物の姿が橋の上に立っている。


「(あ、)」


盛り上がった橋の中央に凛と立ち、幾多もの夜桜を見上げている藍色。
海色を思わせる長い髪は、春風に靡き揺れている。

整った顔立ちにどこか憂いを帯びたような横顔、
その彼女の周囲に舞う桜の花びら。

まるで写真の1枚を切り取ったかのようなその数秒、

彼は、呆けた表情でその場に立っていた。

視線に勘付いたのか、彼女が顎を引きディスの姿を捉えた。
微かに浮かべられた笑みと、胸元で控えめに向けられた手の平。

その彼女の様子を認識し、ディスははっとしたような表情を浮かべた。
それと同時に手の平で自らの口元を抑え、視線を一瞬地にずらす。

数秒後に彼は口元から手を離し、メーゼの居る橋へと近づいた。

橋を半分ほど渡り、そこから彼女が見ていた場所に見上げる。
川に挟まれた夜桜の隙間から見える暗い藍色の空。

明かりが多いからか、あまり星は多くないようだが、
2つか3つほどの星がここからでも認識できる。


「一瞬変な挙動してたわね」
「あー、見てた? ちょっと驚いてて」
「何に?」
「見惚れてたって」

「・・・」
「無反応やめろよ、嘘は言ってねーよ」
「・・ありがとう。 私なんて見飽きるくらい見慣れてるでしょう?」
「冗談」


藍色の目を細めて呆れたように薄く笑むメーゼに対し、
彼は赤紫色の瞳を彼女へと向け歯を見せて笑う。


「わざわざ探しに来たの?」
「まぁ探してたっちゃー・・探してたな」
「用事?」

「そんな大したもんじゃないんだけど。
 まぁまぁ良い時間だし、これから飯でもどうよって誘いに来ただけ」
「あら、いいわね」





佇む夜桜の美しきこと





(言われてみりゃ『夜桜』だった。 ・・合うもんなんだな)


(難しい顔してるわね)
(あー・・・んー・・ちょっと後悔してる)
(?)
(あれ撮りたかったなって。 身内贔屓無しに綺麗だったし・・
 ほんと・・もう・・メーゼ卑怯だな・・)

(・・・ふ、その様子見てるとなんだか勝った気分するわね)
(当人だから気楽だなぁおい)
(貴方が言う綺麗はまだ目の前に居るじゃない?)
(・・・そ、うだけど、いや違う! そうじゃない!!)






タイトルを見、「夜の桜」よりもメーゼが真っ先に頭に浮かんだ人は
『夜桜』メーゼが記憶に強くインプットされすぎだと思います。
イラストでお届けできないのが非常に残念


メーゼ・グアルティエ
  十二使の一角を担う『夜桜』 彼女は単純に綺麗である。
  パーツがいろいろ整ってる。 父親は美形な方だった。

ディス・ネイバー
  『夜桜』メーゼの腐れ縁、今作の主軸。 髪色が青紫で、目が赤紫。
  いくら見慣れてるとは言っても綺麗なもんには綺麗と感じるよ

桜の街 フリジエ
  東方に存在する街。 わりと年中桜だが、見頃はやはりこの季節。





 

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