創作世界

□2週間と買い出しの夜
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陽も落ち、街中での明かりが街頭頼りになり始めるその時間。

旅団員を主な対象とした旅団の提供する宿の廊下にて。
並んだ扉が2つ、ほとんど同じタイミングで開かれた。

片方の扉からはオレンジ色の長い髪を揺らした若い女性が、
もう片方からはダークブロンドの髪に左耳にリングピアスを付けた男性が。

扉が同時に開いたことを互いに察知し、出てきた相手を認識した。


「あら、クロウさん」
「・・フィアナか」


パタンと扉を閉め、扉付近のロック部分に旅団員証を当てる。
軽やかな小さい機械音が鳴った後、旅団員証を各々懐や鞄にしまった。

フィアナは2週間ほど前に旅団に入ったばかりで、
戦闘力の件もあり彼、クロウカシスと共に行動を続けている。


「この時間にどうかしたのか? 外は大分暗いが」
「あはは、キッチンお借りして晩御飯作ろうとしてたんですけど、
 材料が足りてなかったの思い出しちゃって」
「あぁ、成程。 買い出しか」
「その通り」


くすくすと笑うフィアナの姿を見ながら、宿の廊下を歩いて行くクロウ。
その彼の後ろを着いていくように彼女も歩き出す。


「そういうクロウさんは・・?」
「食いに行こうとしていたところだが」
「あら、外食」
「夕食は基本外だな」

「行く当てがあるんですか?」
「いや? 街中なら歩けば見つかる」
「そんな行き当たりばったりな」


口元を抑え小さく笑みを浮かべるフィアナ。
2人は宿の入口へ向かい、2階から1階への階段を下りた。


「あ、 クロウさんさえよければご馳走しましょうか?」
「・・フィアナが?」
「はい。 料理なら多少自信があるんですけれど・・どうでしょう?」

「・・・」
「考え込んでらっしゃる」


思わぬ申し出だったのか、クロウは黙り少し悩んだ表情を浮かべる。
その様子を、彼の一歩後ろから眺めているフィアナの笑みは穏やかだ。


「・・手間にならんか?」
「全然! あ、流石にちょっと材料買わないと足りないんですけど、」
「それならお言葉に甘えさせてもらおうか。 何が足りない?」
「・・あ、え、 付いてきてくれる、んですか 買い出し、」

「夕飯探すのに外に出るのが材料揃える用事に変わっただけだろう」
「・・・んん、 そんな大荷物になるわけではないですし・・
 付き合わせちゃうのはちょっと申し訳ないような」
「・・・あのな、」


宿の玄関前で足を止め、息を吐き出すクロウに
フィアナもつられて足を止める。

玄関付近に受付をしている人が2人に「外出ですか?」と声を掛けると、
クロウは「買出しに行く」と短く答えた。

いってらっしゃいませ、と見送る受付を背に宿の外へと出ていくクロウ。
フィアナも受付へと会釈をし、彼の後を追った。

陽はその姿を隠し、街頭の明かりが街中を淡く照らしている。


「夜に女が1人、外を出歩くのは流石に感心しない」
「・・・ ふふ、」
「・・なんだ?」
「あぁ、いえ、 すみません、優しいなと思って」

「・・お前はまた妙なことを・・・何故そうなる、」
「うーん、何故も何も」
「当然のことをしてるまでだろう」
「ご自分の優しさを全くご理解されてないところも好きなんですけれどね」


目を細めて笑みを浮かべるフィアナ。
その声を聞き、彼は微かに複雑そうな表情を見せる。


「自分が貼れるだけの予防線を、って言ってるようなものだから」
「・・・まぁ、当然だろう」
「『誰かの当然』は『誰かの意外』ですよね」
「お前な、」


複雑そうな表情を浮かべ振り返るクロウを見上げ、
彼女は温和な笑顔を浮かべた。

夜とは言え街頭の光は明るく、彼女の顔を認識するのはそう難しくない。

翡翠色の目が、真っ直ぐ彼を捉えていた。


「そういえば・・今日のメニュー、もう決まっているんですけれど
 苦手だとか食べれないものだとかあります?」
「・・敬遠しがちなものはあるが、すぐに思いつくようなものは無いな」
「なら平気かな、 あ、店こっちから寄っていいですか?」
「ん」





2週間と買い出しの夜



(・・・美味い)
(あ、よかった。 お口にあったのなら何よりです)
(作るのが好きなのか?)
(好きなんです。 周りに料理教えてくれる人が沢山居て)

(成程。 これほど美味いのなら他のも食ってみたくなるな)
(・・・ ふふ、ありがとうございます。
 また次の機会にでも、リクエスト聞きましょうか?)
(手間でないならば頼もうか)
(はい)






フィアナ旅団参加から2週間経ったくらいの2人。
2人の初対面から1ヶ月半ほど。


フィアナ・エグリシア
  母が料理得意な人。 遺伝もあって彼女も料理上手。
  更には旅団参加前は喫茶店務めで、
  店長からもレシピ教えてもらったりしていた様子

クロウカシス・アーグルム
  全く料理できないというわけではないが、
  晩御飯一式揃えるほどの腕があるわけでもない。
  夕飯は8割方外食だし、昼も半分くらいの確率で外食してる。





 

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