創作世界

□隣人の彼も苦悩した
1ページ/1ページ






生まれた時から傍に居て、物心が付いた時には「当然」だった。
幼馴染であり、腐れ縁であって、 彼女が唯一で一番だった。

幼さこそあれど誰が見ても容姿端麗で、周りより一段階大人びた雰囲気と
苦手な物が見つからないほどあらゆる面に秀でていた彼女は
どこに行ったってちょっとした「特別」だ。


俺は追いつきたかった、のかもしれない。

幼馴染で、腐れ縁で、 幼い時からすぐ傍に居た彼女を、
心のどこかではライバルのようにも意識していた

多分男の意地だとかプライドだとかそんなんだけれど。

負けたくない、 ずっと共に居たメーゼに引き離されたくない。

追いついている、追いつけていると感じていたのは、
レーシュテア高等学院入ってすぐの方までだった。

特戦科で同学年の子らがようやく基礎を覚え始め、
授業がそこそこ本格化してきた辺りだっただろうか。

練習量は然程変わらないはずなのに、月日が追うごとに手強さを感じていた。
押され負けることが増えていっていた。

引き離されてる、 正直、焦りも感じていた頃だった。

体壊さない程度に練習時間は伸ばしてみたけれど まぁ、なんだ。
そんなものがどうでもよくなる日が来るなんて当時は知らなかったわけで。


引き離されていくのを感じながら、
明らかに違いを見せたのは高校の2年生の夏。

忘れもしないあの日、 夜も更けた頃に入ってきた通信と、
機器越しに耳にした、明らかに様子の可笑しい声色と息切れ。

特戦科授業でも、メーゼがここまで息を切らしたことはなかったし、
元々冷静な奴だったから、「何かあった」と確信を得るのに時間は掛からず。

体育授業でくらいしか出さないような速度で教員寮に飛び込んで、
凄い簡潔に現状を伝えて、彼女を探しに学院を出た

目にしたのは、 街道から少し外れた場所で、
信じられないほどの重傷を負い、武器を片手に倒れているメーゼの姿

駆け寄って声を掛けて、軽く肩を叩く。
手の平にべたりとぬるついた血の感触は、確かに肝が冷えた。

彼女は微かに意識を保っていたらしく、
俺を俺と認識した瞬間、安堵したような表情を見せた。

その後にすぐ気失ったけど。


あれほど弱々しいメーゼを見るのは、あの事件直後が最初で最後だろう。
どこか不安そうに、俺を引き止める姿には正直驚いたりもした。

長年側にいて初めて見た一面だったし、
オマケにまともに眠れない日が続くと来た。

大人びた雰囲気のメーゼが、眠る時だけ年相応の顔を見せる。

肩に付くか付かないかのような、
垂れた海色のような髪に手を伸ばして耳に掛けてやった。

・・・あんだけ強くて、日常でもあんま隙無いくせに、
人って眠るとこんなにも無防備なんだなぁ。

・・本人が聞いたらなんて反応すっかな。


さて、 1人ではまともに眠れなくなった、という障害が残ったものの
怪我は完治してメーゼが特戦科に完全復帰したわけだが。

その日、特戦科2年生の女子生徒が、
3年生の特戦科トップ男子を数秒で伸すという出来事が起きる。

事件前まで「良い戦い」をする組み合わせだったはずで。
数秒で戦闘が終わるなんて、まして2年女子が3年男子に勝つとは。

その場に居合わせていた俺も流石に驚いた。
驚きと同時に、襲ってきた感情はまさかの「納得」

あぁ、これは。 ・・追いつけないわけだわ

ようは片鱗だったわけだ。


メーゼが特戦科授業を受ける頻度が減った。

あまりに急成長しすぎて、授業内容のほぼほぼ全てが
彼女に合わないものとなってしまった。

それだけじゃない。 教員達も充分強いはずなのに、
教員誰一人としてメーゼには勝てない。

授業に出ず、学院も誰よりも強く、
「ちょっとした特別」だったメーゼは「誰が見ても特別」な存在に。

度の過ぎた特別は、時に敬遠の対象だ。

どことなく、メーゼが誰かと喋っている場面を見るのが減った気がする。


彼女に対しての不安はずっと残っていた。

俺がメーゼより弱いってのは事実だし、
俺が居てどうにかなるもんならメーゼ1人でなんとかなるだろって。

ただそれでも自分の素知らぬところで、
腐れ縁が、幼馴染が襲撃を受けた恐怖ってのは不安にもなる。

本人は案外事件には気にしていないようだが。
まぁあんだけリミッター外れりゃ次回は返り討ちにもできそうだけど。

多分本人より周りが気にしてるっていうのが現状。


明らかに特別となったメーゼの周りは、人が減ったように思った。

何をされているわけでもない、陰口が聞こえているわけでもない。
それでも。 彼女の周りが、少し静かになったのを感じていた。

・・・特別だって、避けるもんでもないだろ。
いくら特別と言えど孤立するものじゃない。

人と仲良くなるのが得意だっただけに、
メーゼとの橋渡しも特に苦戦せず成立した。

戦闘力こそ目覚ましく変われど、彼女の根は変わっていない。

橋渡しが上手く行ったおかげか、
「メーゼ全然変わってないじゃん」と思わせられたか。

彼女の周りに居た人達が、少しずつ戻ってきた



引き離されている、 遠い、と思いながら
手を引いていたのは自分だったのかもしれない。

孤立しかけて、それをどうにかしようとも思わなかった彼女を
人の輪に来るように仕向けたのは確かに俺だった。

先を歩む者の手を引けるだなんて、自分がどんだけ恵まれた場所に居たことか

実力差が今更ひっくり返ったりはしない。
多分一生彼女のあの戦闘力には追いつけない。

でも隣だ。

手を伸ばせば届く距離に居るし、触れることだってできる、許されている。

最早どこに行ったって「特別」扱いされるメーゼ。
その誰よりも一番近い場所に自分が居ることが俺のちょっとした自慢だ。



「・・メーゼってさ」
「ん」
「綺麗だよな」
「よく言われる」

「俺に?」
「あんたにも」
「『も』かぁ〜 まぁ知ってた」

「眠ってい?」
「どーぞ。 あ、勝手に本借りるぜ?」
「どうぞ」



隣人の彼も苦悩した



(俺が腐れ縁じゃなかったら、)
(いや、そもそもメーゼに腐れ縁みたいな存在が居なかったら、)

(お前は今頃、どうしてんだろうな)

(お前にも「特別」が居るのは知ってる)
(そん中に俺が含まれてるのも知ってる、けど)
(一番は、 なんて)
(・・・なんて答えるんだろ)







ディス・ネイバー
  メーゼの腐れ縁。 彼女としても彼は唯一だし一番だが、
  彼女の周りにはディスよりも強い奴らが彼女を囲んでいる。

メーゼ・グアルティエ
  ディスの腐れ縁。 彼としては彼女が唯一だし一番。
  彼の差し出す手ならば、彼女はきっと大人しく握ることだろう。





 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ