創作世界

□唯一である君に唯一の品を
1ページ/1ページ






腰に差している剣とは別に、何やらか両端に筒状の物が付いた、
装飾が立派な細長い棒を手に携えて、ダークブロンドの髪を揺らした彼は
大通りに面したある建物の扉を押して開けた。

アルヴェイト王国、王都ラクナーベル

大通りに面した3階建ての建物の中に入ると、
室内に居た人物が2人、彼へと振り向いた。

彼の存在を認識した受付カウンターの手前に居た
オレンジ色の髪の少女が、「あ」と短く声を上げる。


「お帰りなさい、クロウさん」
「お帰りなさいませ。 フィアナさんの入団手続き、正式に受理されました」
「そうか、ありがとう」


クロウと呼ばれた男性は旅団支部1階を見渡す。
人気はないようで、設置されたテーブルスペースにも人が居る様子はない。


「クロウさん、手に持ってるの・・」
「あぁ」


フィアナの声に彼は手に持っていた物を一目見て、
クロウはテーブルスペースに指を向けた後、カウンターから離れ歩き出した。

疑問符を浮かべながら彼の後を付いていくフィアナ。

上に続く階段の手前ほどで立ち止まったクロウが、
彼女へと振り返り「入団祝い」と一言、手に持っていた物を渡した。

瞬きを繰り返しながら受け取る。
頭上に1つの疑問符が浮かんだ。


「入団、お祝い。 ・・これなんですか?」
「側面、少し叩いてみろ」
「叩く・・・」


しっかりした装飾の付いた細い部分を手に持ち、
両端に筒状の物がついているのをじっと見つめる。

右手で筒状右側の側面を軽く叩く。
タンッと軽快な叩かれた音、 その直後に側面が聞き慣れぬ音を出した。

驚いて側面叩いた右腕を引っ込めるフィアナ。

筒状で平たかったはずの側面は穴が開き、その穴から飛び出したそれは、
二段階で曲線を描き、飛び出した細長い装飾はフィアナを囲うように。


「あ、この形状・・・弓ですか?」
「正解。 反対も広げろ」
「はい」


細い部分は、弓を構える際に握り持つ部分だったらしい。
彼の言葉通りにフィアナは反対側の筒側面も軽く叩く。

こちらもまた二段階にわたり、筒から弓部分が飛び出してくる。
ピンッとしっかり張られた弦を見ながら、フィアナは弓を構えた。

人並みの身長である彼女に対し、弓は少々大きいようにも感じる。

にも関わらず、彼女は扱いづらそうな表情は浮かべていない。


「・・異様な程しっくり来ますね」
「あぁ、それなら良かった」

「オマケに伸縮できるタイプで・・それに結構丈夫そう、」
「早々壊れやしないさ。 そのように作らせたからな」
「・・・ 作らせ、た?」


あまり聞き馴染みの無い、聞き流せそうにない単語に
フィアナは弓を持ったまま彼へと顔を上げる。

クロウは彼女のその反応を見、少しだけ笑みを見せた。


「この世のどこを探しても同じ品は2つと無い一点物だぞ」
「・・!?」
「ふ、 その表情を見るのは2回目だな」


面白そうに口元を抑え、笑みを浮かべるクロウ。
彼女は弓を手に持ったまま、動揺の色を見せた。


「そ、んな 立派なもの受け取れないです・・!」
「そう言うだろうと思い、一応指導者としての言葉も考えてあるが」
「・・・き、 聞きます」


弓を抱くように口を噤むフィアナを見て1つ短く頷いた。
「さて、」と言葉を切り出し、彼女を数秒見つめる。


「指導の際こそ『試す』という名分で、いくつかの武器や弓を使わせたが
 本来ならば武器は極力同じ物を、馴染み慣らした物を使うべきだ」
「聞き覚えはあります、 いろんな武器を使うのは今だけだ、って」

「何故そのように皆が言うかと問われれば、
 答えは使い手にはそれぞれクセがあるからだ」
「くせ・・」
「体格や身の丈、姿勢や骨格等の要素から来る扱いやすさ、
 いわゆる武器との相性という奴だな」


クロウの説明を聞きながらフィアナが頷く。


「フィアナは戦闘初心者で、1ヶ月前に初めて
 まともに武器を手にしたと思うのだが」
「はい」
「同じ武器種なのに扱いやすい物とそうでない物があっただろう」
「ありました。 結構はっきりと、」

「それがクセだ。 長く戦う者ほど、慣れを覚えクセが強くなる。
 が、戦闘初心者だからと言って無いかと言われればそれは違う。
 何せ元々は体格等から来る要素の総計だからな」


クロウはそこまで口にすると、
コートの内側に入れていたらしい拳銃を取り出した。

フィアナは武器に疎く、その拳銃がどういった物かを理解できないでいるが、
彼の持つ拳銃はある程度流通してるような、銃士なら珍しくもない銃だ。

クロウは手に拳銃を握ったままいくつか角度を見せた後、壁に銃口を向ける。


「本来であれば、当人が使いやすい武器を選び、
 それを長く使うことで武器を身体に慣らす」
「はい」


壁に銃口を向けたまま静止。
無言と静寂数秒、彼は拳銃を構えるのをやめて腕を引いた


「・・が、お前はまだ戦闘指導を受けて1ヶ月の身。
 自らに合う武器を探しつつ、戦い慣らすのも酷だろうと。
 それならばフィアナに合わせた武器を使わせる方が手っ取り早い上に、
 慣らすのもそう困難は無いだろうと。 勝手にクセを分析して発注した」

「・・・世の一点物、ってだけじゃなく・・わ、私専用?」
「そうなるな。 ・・相当良い出来だ、手放すには惜しいと思うが?」


少しだけ意地悪そうな笑みを見せたクロウに、
彼女が小さく「う、」と言葉を詰まらせる。


「・・武器の一点物発注って、どれくらいするんです・・?」
「そういうのを聞くのは野暮だろう。 聞かない方が良い」
「・・・口では言えない値段と受け取らせて頂きましたが・・・?」
「ご想像に」


彼女はクロウの表情を見ながら、少々困ったように眉を寄せる。
その後、翡翠色の瞳は手に持っていた弓をじっと見つめた。


「・・本当に、貰ってしまっていいんですか・・?」
「寧ろ受け取られないと困るな」
「・・・あの、 なら、すみません。
 有難く、受け取らせて頂きます・・ ありがとうございます」

「あぁ。 ・・ただ特徴を述べてオーダーした物なだけに、
 細かい調整は実際にお前が扱わなければ分からんのだが」
「あ、はい?」

「試しに数日ほど扱い、改善点があれば調整しに行く予定だが構わないか?」
「勿論。 寧ろそこまでして貰ってもいいんですかね・・?」
「一点物なんだ、当人に合うまでは未完成も同義さ」





唯一である君に唯一の品を



(弓、ありがとうございます)
(あぁ)
(当初、私が貴方に伝えたように・・その用途で使わせていただきますね)
(・・・あぁ)


(お前ならば、その意志は揺らがないだろうと)
(だからこそ、戦闘初心者だった1人の少女にここまで割いた)
(そうさせる何かを、彼女は持っていると気付いたのは きっと)






フィアナを弓を得るの巻


クロウカシス・アーグルム
  十二使『氷軌』 戦闘初心者であるフィアナの基本及び魔術指導は彼が行っていた
  弓は専門外であるゆえに、基本中の基本しか知らないため
  メーゼの友人という弓使いに丸投げしてた。

フィアナ・エグリシア
  旅団参加初日の弓使い19歳。 いくら指導者が十二使だったとはいえ、
  指導1ヶ月で旅団に正式加入は最早異例の域。
  最低限の弓の扱いだけでなく、最低限の魔術まで覚えた。 早すぎ。





 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ