創作世界

□時空移動、前後
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比較的異例であろう依頼を受け、2日が経った。

その間、特別私が何をしたというわけではないが、
十二使である彼はこの依頼に向けていくつか準備をしていたらしい。

曰く、『行き方』が存在するのだと。
聞いたら適当にはぐらかされたので、何かしらまずい情報なのだろう。

まぁ元々自分が並の旅団員なので、情報を伏せられるのは仕方が無い。
・・・・好奇心は別だが。


その日の昼過ぎ、十二使である彼に連れられ、
人の気配が少なく目立ちにくい森に立ち入った。

肩から鞄を下げ、靡く風に揺れる青緑色の髪と、
象牙色と呼ぶべきか、濃いベージュの上着を羽織った彼の背を追う。

森に入り、ある一定の距離まで歩いたか。
彼は立ち止まって辺りを見渡し、魔物の危険が無いことを確認。

「・・大丈夫かな」と呟いた彼は、小さく黒い石をポケットから取り出して
コインを弾くように、その石を宙に飛ばした。

・・・吸い込まれそうなほどの、黒だった。

重力に従って落ちてきたその黒い石を右手で掴むスイリ。
彼は「さて」と短く呟くと、私へと振り返った。


「じゃ、行こうか」


その言葉と共に、すっと差し出された左手の平。
男性にしては細いだろう綺麗な手が私に向けられている。

それをどうするでもなく、手の平を見つめ疑問符を浮かべた。


「何の手ですか、これは」
「手。 繋いで」
「・・なんで」


謎の申し出に思わず眉を寄せる。 何故。


「ユラ、行き方分かんないでしょ」
「まぁ・・教えられてませんからね」
「場所が場所だけに軽率に教えられないからね。 高いんだよ」
「高いっていうのは 情報料の話です?」

「その通り、高額でね。 ユラに行き方を教えないのは僕の都合だけど
 教えないってことは、僕が君を連れて行くのも同義でしょ」
「それは・・まぁ」

「だとしたら自然と魔力払うのは僕になるわけだ。
 はぐれたいならそれでもいいけれど、身の保証はできないよ」
「・・・分かりましたよ・・」
「すっごく渋々」


スイリが差し出した左手を怪訝そうに眺めながら、
ゆっくりと自らの右手を彼の手に重ねた。

自分の手よりも温かい。


「驚いた、手冷たいね」
「悪いですか」


可笑しそうに笑うスイリを、眉を寄せ怪訝そうに見つめる。
重ねた私の手を軽く握ると、彼は小さく息を繰り返す。

スイリの足元に黒い魔術陣がみるみるうちに広がっていく。

広がっていく魔術陣を眺めながらスイリを横見。
比較的中性的な顔立ち、集中しているのか、その瞼は閉じられていた。

直径10メートルほどになっただろうか。
いくら並の自分でも、濃い魔力が集まっていることは感覚的に分かる、

彼の唇が微かに動く。


「・・神竜への謁見を希望する。 狭間へと導け 『ムーヴェレ』」


力強く吹き荒れた、生暖かい夏風が頬を撫でていった。

瞼を閉じた。







瞼に突き刺さるような眩しい光、だった。

ゆっくりと開いた瞼、優しい風が辺りを舞っている。
右手に違和感を覚えて見ると、握られていた手が解かれるところだった。

少しだけ、頭がぼんやりしている、

移動したのはつい数分前だったはずなのに、
一眠りしたかのような、長い時間が経ったようにも思える。

隣に立つスイリを見つめると少し心配げに微笑んでいる表情が伺えた。


「・・・・」
「具合はどう?」
「・・・時間感覚が、狂った・・」
「まだ時空移動に慣れてないんだろうね。 ・・少し休んでく?」


彼の言葉に少し間を空ける。
理解するまでの時間と、結論と。

浅く息を繰り返した私は首を横に振った。


「動けない、わけではないか ら」


そこまで口にして、続きの言葉が出なくなった。

ぐらりと揺れる上半身に、微かに乱れた呼吸。
明らかに様子の可笑しい顔色と、何時になく虚ろな瞳を見た。


「スイリ、」


驚いたのは自分だったし、具合が悪そうなのはスイリだった。

その場で身体を抱えるように腕を回し、乱れた呼吸を続けている。
焦点が合わないのか、眉を寄せて視線は地面へと落としている。


「・・ごめ、 想定してたより、魔力持ってかれて、
 貧血、みたいなものだから 大丈夫だよ」


眉尻を下げて辛そうに呼吸を繰り返す様子を見、口を噤む。
スイリは襟元の服を少し引っ張り、首の左を指でさした。


「ねぇ、使印 残ってる?」


その問いを聞き、指された首元をじっと眺める。

本来存在すべき、十二使である証の一種。
使印と呼ばれた十字の印。

初対面で彼が十二使だと気付いたのは、白い使印が在ったから なのだが。


「・・あるけど・・・大分薄いですね」
「あぁ、やっぱり。 そんなに使うんだな・・」


はぁ、と浅く息を吐き出すスイリの様子を横目に。

魔力の使いすぎで一時的に具合が悪くなる、
・・・という話は自分も聞いたことがある。

酸素が体内を巡るように、魔力もまた常に体内を巡っているのだ。

いきなり体内の魔力をほとんど使ったことによる、
ようは急激な変化に身体が付いてこれてない状態なわけで。

・・・・魔力の使いすぎで具合悪い人を、
実際に見たのは今日が初めてなわけだが。


「・・・休んでいきますか」
「うーん・・一応、神竜の傍だから 密度は濃いと思うんだけど・・」
「ていうか自分の時間感覚が死んでるんで休みませんか」
「・・ふふ、 あぁ、うん。 そうしようか」


見上げた先は4段ほどの石でできた階段と、
その先に構えた立派すぎるほどの巨大な石造りの遺跡だった。




時空移動、前後



(優しいね)
(なんのことですかね)
(何も。 ・・僕は5分も休めばある程度動けるけれど、ユラは?)
(私も5分くらいで)


(寧ろ禁術とまで呼ばれる時空移動に、2人分の魔力を担って
 『魔力が足りている』っていう現実が一番衝撃なんだよなぁ)






依頼者レーナ、の本題。 まだ導入直後。

ユラ・レクイン
  高卒で一般旅団員。 特異体質持ちの悪魔。
  時空移動の経験はこれが3度目・・かと思われ、る。 設定次第()

スイリ・ミゼル
  旅団十二使の一角を担う『知聖』 因みに彼は大卒。
  ユラと同じく特異体質持ちの悪魔。 時空移動そのものには慣れている





 

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