創作世界

□垣間見せる信頼
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高校2年生としての生活も残り半分に差し掛かり、
高校での寮生活としても折り返し地点に差し掛かったところだったか。

大きな事件はあったものの、当の本人であるメーゼは・・・
まぁ、少々特殊な形にはなったが、
ある程度は差し支えなく日常を過ごしている、ように見えた。

強いて言うならば、昼休みの時間に昼寝の付き添いをすることが増えたか。
付き添いっつっても眠ってるメーゼの傍に居るだけなんだけど。

あの時彼女の口から初めて聞いた「行かないで」が凄くか細くて、
引き止められたあの瞬間の切実な表情が印象的だった。

珍しかったのが第一に、放っておけなかったのが第二に。
断れなかったというのも本音で。

昼寝していいかと問うメーゼに付き合い、昼休みは高確率で保健室の一角。
1人では眠れない様子、だった。

昼寝の頻度が増えたのは勿論、前よりも眠りが深くなった気がする。

仮眠程度の眠りが浅いのは知っているが、それよりも。
まるで深夜数時間を眠ってるような眠りの深さのような印象も与える。


「(難儀だなぁ・・ どうにかなんないんかな)」


机の上で頬杖を付き、廊下でクラスメイトと話すメーゼの姿を見つめる。


「最近さぁー、メーゼの寝顔って見ないよね」


はたり、と自らの耳が背後近くから聞こえてきた会話を拾う。
クラスメイトの女子だった。


「あ、思った。 たまに突っ伏して寝てる姿がさ、
 メーゼ可愛いなーって見てたんだけどねー、最近無いよね」
「寧ろ最近それすら無くない?」
「無い! ほんとに無い!」

「ていうか元々眠り浅い子だけどさ、最近は寝顔を見る前に起きるよね」


近くで行われたやり取りを、たまたま耳が拾っただけの会話だった。

だが疑問を抱かせるには充分だったように思う。


「(・・・まさかな)」


授業が始まる直前、先生がやってきたのを見たのか。
メーゼは話してたクラスメイトと共に教室に戻ってきた。







「もしかしてだけどさ、夜寝てない?」


寮舎の一角、自販機とソファとテーブルが設置された休憩所。

消灯時間は過ぎており、廊下の電気は落ちていたものの、
こういった休憩所等の一角はまだ明かりがついている。

自販機で買ったばかりのジュースを片手に、
隣の席に座っていた、本を読んでいるメーゼにそう投げかけた。

彼女は瞬き数度繰り返し、少しだけ口元を緩めて「気付いた?」と。


「・・・一睡も?」
「寝てないの」


予想はしたものの、平然と返されて言葉を詰まらせる。

「流石に少しは寝てるよ」くらいの反応を期待していた自分は、
空いていた手を額に当てて瞼を伏せた。


「なん、だ、 お前、馬っ鹿・・・」
「ごめんって。 言うかどうかは迷ったんだけど」


少し申し訳なさそうに眉尻を下げ、手元の本へと視線を落とす藍色の瞳。
高校に入る前より少し短くなった蒼い髪が揺れるのを見た。


「・・睡眠って、なんつーの、生理現象じゃん」
「うん」
「俺が知る限りメーゼは今2時間も寝てないわけだけど、眠気平気なの?」

「眠気が全く無い・・・と言えば嘘だけど、前よりずっと耐えれるんだ。
 意識のコントロールができる、っていうのかな」


想像しづらい発言に、復唱しながら疑問符を飛ばす。
メーゼは本を読むのを中断し、少し顔を上げた。


「夜とか、眠い時にベッド入った時とかさ。
 気付いたら眠っていたり、意識を手放したりって人として自然じゃない?」
「あー、引きずり込まれる奴」
「それが無くなった。 正確には起きていたい、眠りたいと思った時、
 自分の意思に準じてできるようになったの」

「それ、は・・・便利だけど難儀、だな」
「うん、そうね」


視線を少し落とし、頷くメーゼの視線は手元の本ではなかった。
どこかを見つめるように、見据えていて。

・・・意識のコントロール。


「だとしたらさ」
「うん」
「夜寝ない・・・や、その時間帯に限らずにだけど。
 メーゼは眠れないんじゃなくて、眠りたくないわけで」


俺の告げる発言に口を噤んだまま、耳を傾けた状態で。
メーゼの視線は相変わらずどこかを見つめている。


「なんで?」


的外れなことは言っていないと思う。

地雷であるような気もしたけど、まぁ長年の付き合いだ。
許してもらえるような気もする、

逆に話したくなかったとしても、そん時はそう言うだろう。

疑問混じりの問いに、彼女の唇が微かに動く。


「・・・怖くて」


いつ以来かと同じ言葉が返ってきた。


「寝る行為それ自体に恐怖を抱いたんじゃない。
 自分の意識が無い状態、が怖い。 ・・・起きれないもの、」


表情が変わらないまま、そう告げるメーゼに
納得したように「あー・・・」と呟いた。

過程を、知っていた。

原因とした彼女への襲撃を、事後とは言えこの目で見ていた。
気を失った後にとどめを刺されていたら、殺されていたら目覚めなかった。


「・・・俺の前じゃフツーに寝るじゃん。 それはまたなんで」
「・・・・」
「え、なんで黙んの。 おい」

「や、考えていた・・なんでだろう、
 そういえばあれ以降、ディスの前以外で寝たこと無いかも、」
「だとしたら俺の予想より全然寝てないな?」


累計2時間も寝てないんじゃ、って言ったけど1時間も無い状態?
下手したら1日睡眠20分くらいなんじゃ。

・・・えぇ、なんでコイツまともに動けてんだろ。

しばらく悩んだ表情をしていたメーゼが、
唐突にポツリと「あれ、かな」と呟いた。


「?」
「意識代わりを頼める、人」
「・・・」

「・・や、それに加えて腕もある・・?」
「・・・その腕ってのは、戦闘の方?」
「そりゃね」
「高校入ってからメーゼ負かした記憶無いんだけど」

「言うてディス、学年トップクラスじゃない」
「誰がどう見ても揺らがないトップの座に居る奴に言われんのもなぁー」
「ふ、我儘ね」
「なんとでも」


休憩所、カチコチと響く時計と稼働する自販機の音を聞きながら、
右隣に座るメーゼへと向けて手の平を差し出す。


「ん」
「?」
「持ってる本、貸して」


唐突な頼みに彼女は首を傾げ、読みかけと思わしきページに
しおりを挟むと本を俺へと手渡した。


「・・はい」
「どーも。 もう2時間も無いけど、
 日付変わるくらいまでは俺起きてっからさ。 メーゼ寝なよ」


彼女は浅く息を吐き出すと表情を和らげた。
端正な顔立ち、少し細められた藍色の瞳が俺を見上げている。


「・・・ありがと」





垣間見せる信頼



(これは肩と膝、どっちを貸してくれるのかしら?)
(どっちでもいーけど)
(・・・ディスの膝、筋肉あるから硬いのよね)
(悪かったな、我儘かよ)

(冗談よ、 本当だけど。 ・・お言葉に甘えるわ、肩貸してね)
(ん。 おやすみ)


(あれ? メーゼ・・・え、珍しいね、寝てる?)
(珍しーっしょ。 しばらく寝かしてやってて)






メーゼの眠りに関する話

ディス・ネイバー
  当時高校2年生。 メーゼとはクラスメイトで席も近い。
  当時のメーゼの、眠れる唯一の場所であった

メーゼ・グアルティエ
  当時高校2年生の学年トップ。 もう何があっても揺るぎやしないレベル
  意識の途切れが怖いと思うのはこの頃から、今現在も続いている





 

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