創作世界

□十二使戦力把握試合『夜桜』
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戦神の街アニティナの誇る、世界屈指の大きさを誇るコロシアム。

快晴である本日はコロシアムの天井を開けられており、
少し顔を上げれば視線の先は青空だ。

8月の末には旅団主催の闘技大会が行われ、
尋常じゃない賑わいを見せるこの場所。

大会期間外は基本的にシーズンオフで人は少ない方であるが、
この日はいつにも増して人気が無い。

隅々まで見渡しても、試合スペース中央に立つ2名と、
観客席に座る2名しかその姿が見えない。

観客席に座る男性2人と傍にある機材は、コロシアム中央の砂場に立ち、
鞘に入った剣をベルトに挿したまま準備運動をする男女へと向けられている。


「今までで一番凄い試合になるかもね」
「・・まぁ、今回は相手がなぁ」


隣に座る40過ぎの男性は顎の数センチの髭を触りながら呟いた独り言に、
髪や服と全体的に黒い印象を与える青年はため息まじりに返事をした。

青年は持ち出してきた機材の準備をしながら、
試合スペースに立つ2人をスコープ越しに収める。

ダークブロンドの髪をした青年と、海のような蒼い髪を長く伸ばした女性が
準備運動をしながら2人、向かい合っていた。


サファリ旅団にて、幹部扱いである十二使が増えたのは真新しい記憶だ。

旅団長へ与える情報の一環として、
加入したばかりの十二使は戦闘能力計測を行う。

実戦式にするため、十二使同士の試合を行うことが
いつからか常となっていた。

今回十二使として加入してきたのは女性の方だが、
彼女は闘技大会の世界部門で優勝を収めた経験のある相手だ。

新人十二使である蒼い髪の女性・・メーゼを見つめながら、
彼女の相手となった『氷軌』クロウカシスは不意に息を吐き出した。


「まさかまた戦うことになるとはな。
 手合わせ以外でのお前の相手は正直遠慮したいところだった」
「ふ、悪かったわね。 闘技大会で私とぶつかったのが運のツキだと思って」


微かながら楽しげに笑みを浮かべるメーゼに、彼は更に追加で息を吐き出す。

会話から察しての通りこの2人は初めて戦うわけではない。
2年ほど前の闘技大会、この場所で、一度刃を交わしたことがあった。

けろっとしている彼女を見ながら、彼はゆっくりと口を開く。


「・・戦った十二使は他にも居たはずだろう? 何故俺を選んだ」
「気になる?」
「興味と素朴な疑問」


体を動かしていた彼女は上体を起こすと、スッと目を細めクロウを見つめた。

彼よりもメーゼの方が2つか3つ年下であるが、
見据えた瞳は年下であることを感じさせないほど大人びている。

2秒ほどの間、クロウを見つめたメーゼは口を開く。


「戦った十二使の中で、一番貴方が手強いと感じた」
「・・・」
「そして戦った相手の中で、私の全力を知られてもいいと思った人物。
 ようは一番強いと感じて、一番信用したのがクロウだったってだけの話よ」

「意外とまともな理由なんだな・・・」
「グラシアも言っていたけれどしれっと零すわね」


メーゼは呆れたように瞼を伏せ、口元に笑みを浮かべながら、
腰のベルトに挿していた鞘から長い剣身を引き抜く。

その動作を見、彼も鞘から剣を引き抜いた。


「当時より上がっている、との解釈でいいのか?」
「戦ってみれば分かるんじゃない? 本気でいいわよ」
「・・・随分と自信があるな、メーゼ」
「貴方を甘く見た発言ではないわよ?
 ただ久しぶりに沢山動けそうだから、 楽しみで」


抜いた長剣を地に向け、微かながら笑む彼女を見つめながら、
クロウは小さく息を吐き出した。

そして彼は耳に掛けていた無線に手を当て、だだっ広い観客席に
唯一座っている男性2人へと、遠目ながら視線を送る。


「もうそっちの準備はいいのか?」
「”おー、いつでも。 お前らのタイミングでいいぜ”」
「承知した」
「了解よ」


無線からの応答に各々了承の言葉を述べると、目線を合わせると小さく頷く。
距離を取ろうと一歩下がるメーゼへと、クロウが声を掛ける。


「少しいいか」
「ん、何かしら」
「生憎お前ほどすぐに割り切れん。 本気は出すが段階踏ませてくれ」
「いいわ、勿論。 でもはしゃいじゃったらごめんね、先に謝るわ」


彼女の返答に頷くと2人は距離を取り、各々武器を握りしめて。
視線絡ませた後に瞼を伏せる。

ふ、と開かれた瞳。

そして彼らは地から足を離した。





十二使戦力把握試合『夜桜』



(んー、こんなものね。 彼相手にこれ以上は出せないわ)
(・・・! は、 ・・・まだ、出るのか?)
(後二、三段階くらいは出せそうね)
(・・冗談がきついな・・)

(まぁ、本気の貴方を相手したから、 流石に疲れたけれど、はぁ)
(ここまで来るとお前を多少疲労に追い込んだだけ充分な気がするな)
(や、そこまで人間やめてはいないわよ・・)
(どの口が言う)







メーゼ・グアルティエ
  新人十二使『夜桜』 闘技大会でクロウや、他十二使数名とも
  戦った経験があるが、全員に勝って優勝している。

クロウカシス・アーグルム
  就任経過3年の『氷軌』 今回の試合でメーゼに名指しされてる。
  物理と氷魔術については十二使でも上位な方。

ハイノ・エルンスト
  観客席に居たおひげのおじさんの方。 旅団長。
  戦闘能力は十二使と対等になることは無いが頭がバリ回る。

ヴァン・サングイス
  全身的に黒い十二使。 異名思考中。
  学者上がりで、データ解析に長けている





 

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