創作世界

□彼は意味と理由を知った
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「この組織って今そんな世界的に動いてたっけ」


天蓋付きのクイーンサイズにも及ぶベッドの上で、
膝から下だけ下ろして仰向けになり、疑念を一言呟いた白髪の青年。

彼の髪をかき分ける種族特有の長い耳。
金色の瞳は真上にある黒の天蓋へと向けられている。

うつ伏せていたためか声量はあまり出ていない。

数分前、彼はベッドの上に置いてあった掛け布団の上から寝転がったが
「綿が死ぬから掛け布団の上に寝そべるな」との咎めに、
足元の掛け布団だけたくし上げては同じ場所に改めて寝転がった。

彼の独り言から少しして部屋の端で本が閉じられる音がする。


「何故じゃ?」


彼が一切動く気配が無いため、その声の主の姿は視認されない。

部屋の端に並んだ本棚の脇、机に向かっていた若い容姿をした女性。
長い髪を高く括り上げた彼女は少しだけ胴体を背後にあるベッドへと向けた。


「なんか・・報告聞いてっと、計画から外れたとこっていうか
 全体的に魔物の様子可笑しいっぽいから」
「相変わらずお主はそういうところは鋭いの」


笑みを含んだような返答に寝転がっていた男性、
アインは数秒考えた表情を浮かべては、肘を付いてベッドから起き上がった。

上半身だけ身体を起こし、女性が居る方へと視線を向ける。


「どゆこと?」
「この世はの、封印された世界なのじゃ」
「?」
「時が経てば古びていく。 条理であり真理じゃ」


結構な距離があるにも関わらず対話の距離を狭めようとしない2人。
瞼を伏せてゆっくりと語る女性へ、瞬きを繰り返す。

アインは一瞬だけ明後日の方向を見てから、
ベッドの端に座るように起き上がると、女性に「姫」と呼びかけた。


「なんじゃ?」
「何の話かサッパリ分かんない」


片手を小さく上げて、待ったの意思表示をするアイン。
姫と呼ばれた女性は少し瞬きを繰り返した後、唇に笑みを浮かべる。


「ふ。 お主は分からんでもよい」
「えぇ、なんでだよ」


気になったことは明らかにしないと気が済まない節がある彼は、
彼女の返答に納得が行かないと微かに眉を寄せて不服そうに口を尖らせた。

姫は少し大きく息を吐いては、考えるように手を顎に当てた。


「答えるのであれば、そうじゃな・・運命は人を選んでいる」
「・・・運命は?」
「そしてもう1つ、枷は自然的ではない」


姫曰く「答える」であったらしいが、考えれば考えるほど不思議な発言だ。

何故魔物の行動が可笑しくて、世界なんて壮大な話にまで飛ぶんだ。
いや、確かに世界的に魔物が変なのは事実ではあるけれど。

何故魔物の行動が可笑しくて、運命と枷なんて話に飛ぶんだ。
結局うちの組織は加担してない、って解釈でいいのかこれは。

しばらく無言で姫の言葉を脳内で繰り返したアインは、
かろうじて捻り出した返答を1つぶつけてみることにした。


「えー、つまり・・俺には一切関わりがないってーこと?」
「寧ろ関わるべきではない。
 授けられた者とそうでない者の差は酷く大きいものじゃ」
「・・授けられた、」

「ほれ、ヒントはやった。 後はお主らで考えるがいい」
「核心は丸投げかよ」







口元に笑みを浮かべたまま、手を前後に振り
「考えるだけなら別の場所へ行くがよい」と半ば追い出すように、
姫にそう言われたアインは、考え込んだ様子で廊下を1人歩いていた。


「運命は人を選んでる、」


それでその後に彼女が続けた言葉が、枷は自然的ではない。
姫が答えた内容を反復させ脳裏に巡らせてはいるものの意味が掴めない。

不思議な物言いはいつものことだけど、やけに含みのある話し方だったな。
にしても彼女から運命という単語が出て来るのは少し驚いた。

どことなく、彼女はそういう単語を言う印象を与えない人だ。


「あら、アイン?」
「ん」


呼び止められる女声に顔を上げれば、曲がり角から顔を出したばかりだろう
疑問符を浮かべる深緑色のセミロングを揺らした女性。

同組織に属するメンバーの1人、アリナがそこに立っていた。
少しだけ驚いたような表情をしている。


「珍しい、考えた表情してるわね」
「んー、なんか 姫から変なこと言われて、教えられて?」
「変なこと?」


現状を素直に吐けばアリナは首を傾げた。
あ、これは聞いてくれそうだな。 食いついた。

「お主らで考えろ」とも言っていたし、
他の人物に回答を仰いでも問題は無いのだろう。

そしてアインは姫の部屋で会話した一連のやり取りを聞かせた。

魔物の可笑しいことを伝えれば、ろくに外に出ない姫も気付いていた様子で。
不思議な言い回しを二言か三言をしていたことも。

話を聞き終えたアリナが一拍の合間を開けて、尋ねるように回答を出した。


「・・世界異変?」
「・・・!」
「あ」


その一言に驚いたように、全てに納得が行ったかのように
彼の金眼が見開かれていく。


「そういう・・ことか、」





彼は意味と理由を知った



(腑に落ちた?)
(落ちた・・ そりゃ姫が気にかけるわけだ・・)


(・・素で聞き返しちゃったわ)
(ふ、 気にする必要も無い。 勘付いたとして大差無い)
(そうね、知っているわ)
(・・・彼はなかなか良い腕をしているが、所詮人だな)






世界異変は1000年以上前の話。


アイン・フェルツェールング
  男性ダークエルフ。 好奇心と呼ぶには微妙だし、
  知識欲と呼ぶにも微妙。 彼自身は淡白な方である。


  アイン達の組織に居座る謎の女性。 人間ではあるらしい。
  若々しい容姿とは裏腹に、知識や経験則等は容姿年齢不相応である。

アリナ・サリン
  女性堕天使。 姫とは関わる機会が無いため話した頻度も少ない。
  最近ある程度料理できる設定が追加された。





 

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