創作世界

□協力者と偽りの記憶
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「あ、彼ちょうど今朝出発してアニティナ到着予定ですね。
 予定時刻ならそろそろ到着しても・・」


タブレットを操作しながらの受付の返答に彼が頷いた瞬間、
カラランと鈴の音と共に支部入口の茶色の扉が開かれた。

扉の隙間から見せた短髪の男性が室内の様子を伺い、受付へと挨拶をする。


「こんにちはー、ソブラス・ヘリッヌ到着しましたー」
「おっと、噂をしていれば」
「あら、タイムリーね」
「ん?」


受付カウンターを挟み、背が高く髪を長めに伸ばした男性が振り向く。

自分の話をしていたのか? それとも旅団員を待っていたのだろうか。
疑問符を浮かべながらソブラスはカウンターへと近付いた。

カウンターの前に立ち、受付と話し込んでいたらしい男性は
右側を編み込んで、後頭部で括られた薄い水色の髪は右側で流していた。

旅団に関わるということは何かしらの手段で戦闘が可能な人が大半だが、
彼の服を見ただけでは正直戦闘する人には見えなかった。

肩からは鞄を下げていて、そのまま視線を落としふと足元を見ればヒール靴。
元々背が高いらしいのも相まって190cmくらいはあるように見える。

身長170台のソブラスが見上げるほどだ。
彼ほどの高身長と会話する機会が無いため顔を上げたままに慣れない。


「先日エルフリーデさんが、ソブラスさんとお話したと聞きました」
「あ、はい。 お会いしました」
「彼女が話を深刻と受け取め、彼女を通して本部に改めて連絡が行きまして。
 ソブラスさんと共に、記憶に関して調べてくれる人が見つかったと」


すると受付は、先程まで話していたであろう男性へと手を向ける。
彼はソブラスへとニッコリと優しい笑みを浮かべた。


「ミザキ・セレジェイラよ。 記憶に関してのプロフェッショナル・・・
 というわけではないのだけど、旅団員達に起こった
 不思議な現象を調べる仕事をしているわ」


誰が聞いても男性の声で、女性らしい話し方。
ヒールを履いていたのも納得が行った。 成程、オネエさんだったのか。

そしてあまり馴染みがない発言に少し首を傾げた。
配達専用の旅団員が居るように、調査専用の旅団員も居るのだろうか?

何せサファリ旅団は世界規模だ。
一般旅団員の自分が知らない面なんて、いくらでも存在するのかもしれない。


「えっと・・ミザキさんは研究者なんですか?(オネエだ・・)」
「んー、本職は錬金術師かしら? 錬金術師としての観点から、
 旅団の依頼を受けることが多いの。 よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いいたします(背の高いオネエだ・・・)」


オネエのインパクトが強すぎて、
頭から離れないながらもお辞儀をするソブラス。

頭を上げて、ちらっとミザキの表情を伺ったが彼はまたにっこりと微笑んだ。

自己紹介が終わったと言わんばかりに
「さて」と呟き、何か言いたげな様子を見せるミザキ。


「一通りのお話は聞いてるんだけど本人の口から改めて、
 直接経緯を聞いてもいいかしら?」
「勿論です」
「そう、よかった! 受付さん、ちょっと2階スペース借りるわねぇ」

「えぇ、どうぞ。 人払いしておきますね」
「ありがとー! 助かるわぁ」


お願いね、と付け加えるように一言、陽気に受付に手を振りながら
ソブラスの方に視線を戻すと、階段を指して「行きましょうか」と。

ソブラスが頷くのを見ると、ミザキは階段へと歩いていく。
その後をソブラスも追っていった。







アニティナ支部の2階は人気が無くしん、としていた。

階段を上がって壁の左手には魔物や魔術の資料や、
世界の条理に関わるものが本棚一面に敷き詰められている。

室内中央に置かれているテーブルへと向かい、
ミザキはテーブルを挟んだ先のソファに腰を下ろした。

ソブラスも彼の対面になるようにソファへと腰を下ろす。

ミザキは肩に掛けていた鞄からノートを取り出しテーブルの上に広げ、
追加で鞄の中から取り出したペンを右手に握った。


「自分の記憶が違うとソブラスが気付いたのは、去年のことだったわよね?」
「はい。 6月でした」
「ふむふむ」


ノートの一番上の行に1064年と書き込み、
数行を開けて1063年、6月発覚と書き記す。

現状はほぼ数字しか書かれていないが、結構字は綺麗なようだ。


「これは確かに現実で起こった、って確信のある時期は?」
「旅団員登録をした・・59年の11月です。
 これは登録時に世話になった受付さんから確認が取れて」
「ふむ。 4年半くらい前ね」


ミザキは頷きながら1063年から更に数行を空けて、
1059年11月旅団員登録、と書き込んだ後にチェックマークを入れた。


「逆にこの時期が一番記憶が怪しい、っていうのは?」
「高校卒業後は一人暮らしでミューレに部屋を借りてたんですけど・・
 その契約時、は どうやら俺じゃなかったらしくて・・怪しいです」

「卒業後すぐ借りたの?」
「そうですね。 だから3月、とか」
「・・貴方の高卒って何年になるのかしら?」
「・・・えー、 俺今29だから・・・1054年・・かな?」


ミザキは頷きながら更に下の行に、1054年高校卒業↑と書き込んだ。
そこまで書き終えるとペンの動かす手を止め、少し考えた表情をする。


「ん・・・? 今年もう誕生日来てる?」
「そうなんです。 それも結構最近で」
「あら、おめでとう!」

「ありがとうございます。 正しい誕生日かは分かんないんですけどね」
「まぁまぁ、誕生日は誕生日よ!」


けらけらと笑い宥めるミザキに、ソブラスも小さく笑みを浮かべる。

なんだか、今年は自分の誕生日を祝いたいとは思えなかった。

だから周りにも誕生日であることを明かさなかったし、
今年の誕生日に対しての「おめでとう」も今さっきのミザキが初めてだった。

・・複雑なものは複雑だが、祝われるのはあまり嫌な気はしない。
もしかしたらそれは、ミザキの朗らかな性格があってこそ、かもしれないが。


「さて、と! 後は順を追って聞かせてもらおうかしら!
 さぁ! なんでも言ってちょうだい!! 愚痴も任せて!!」
「そ、そう身構えられると逆に話しづらいですね」
「話しづらいかしら!? もっと抑えとくわね・・?」


声量を下げて、覆うようにそっと口元を手で隠すミザキ。

あまり人に話さない内容のため、自分の心持ちの話だったんだが、
彼の反応を見てるとどうでもよくなってきた。 良い意味で。

口元に笑みが溢れた。


「ふ、 や、なんだか違う気がするけどいいや。
 経緯より前から・・・俺の記憶から、話してもいいですか?」





協力者と偽りの記憶



(己の偽を知りながら、それが己の真だと言う)
(なんて滑稽、なんて戯れだろう)

(世界が間違っているんじゃない、俺だけが違うんだ)

(知らないままであることが、こんなに怖いだなんて)






まさかここに接点ができるとは思ってなかったんよ。


ソブラス・ヘリッヌ
  今作のために情報いろいろ決定した。 今後微調整が入るかもしれない。
  旅団に入るまでは東方にある風車の街ミューレで一人暮らししていた。

ミザキ・セレジェイラ
  オネエの錬金術師。 錬金術師ゆえに依頼を受けることもあり、
  露店を出すこともあるため領収書で数字を書く機会は多い。





 

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