創作世界

□Good-bye,Night.
1ページ/1ページ






ふと意識が浮上した。
白く柔らかいベッドに包まったまま、ゆっくりと瞼を開く。

窓から差し込んでるはずの日差しは薄暗く、
まだ陽も昇っていない早朝だと気づくのにそう時間は掛からなかった。

布団の中から腕をごそごそと取り出し、瞼を擦る。

そして彼女は、ストレートな黒紫色の髪を垂らしながら
ベッドの上に座るように身体を起こした。

夏とは呼べない季節になり、室温も先日より低い気がする。

足に掛けてある毛布と掛け布団が自らの体温で温かい。
起き上がったままの上半身はどことなく寒い。

オマケに寝起きなので、とても眠い。

彼女はしばらく瞬きを繰り返し、座ったまま枕元周辺を振り向いた。
ベッドの脇に置いてあるサイドテーブルの上にタブレットが置かれている。

頑なに足をベッドから出さないように、と少しだけ座る位置を直し、
枕に肘を付いてタブレットへと手を伸ばす。

タブレット起動の承認をすると、メッセージが届いていた。
・・・彼女は少し驚いたように目を見開いた。 送り主はこの人か。


昨夜、ノルテ・ティフォーネが廃墟の館の不審音を調べに行き、
そのまま連絡も無く、帰ってこないとの報告が支部からあった。

そのため、近隣に滞在しているティグレ・プロイビートと
セラ・セイクリッドに、館を中心としたノルテ捜索を依頼する。

『最悪』である可能性がある。
向かう際には私への連絡と、相応の覚悟を。



「・・・・」


彼女は文面をじっと見つめた後に、目を伏せた。

ノルテと言えば、任務に付いていた相手との戦闘で
最近は特に火花散る頻度が高く、戦闘を危険視されていた人物だ。

・・彼ほどの者が、 いや。
・・・相手も、それだけ。

少しだけ首を横に振った後、彼女はメッセージ欄に
「承知いたしました」と一行入力して送信した。

先程まで彼女の顔を覆っていた眠気はもう見えない。

深い色をした瞳を何度か瞬き繰り返し、
セラ・セイクリッドはベッドから起き上がった。



身支度をしている途中、メッセージの着信音が鳴った。

同行者として指定されたティグレ・プロイビートによる依頼承諾一文と、
ティグレから彼女へ、現在の所在地と集合場所への質問だった。

彼からの問いに1つずつ答え、集合場所は彼が最後に目撃されていた
旅団支部にしませんかと提案すると、程なく承諾が得られた。

捜索依頼へ承諾の返事を送信してから1時間ほどが経っただろうか。
身支度や朝ご飯を終え、大きな荷物はホテルに置いたままで。

聖職者特有の衣装を身に纏い、小さな鞄を手首に掛けて
杖を手に持って、セラは街を出て街道へと向かった。

ノルテが昨日まで滞在していた目的の街までは街道を歩かないといけない。

別に徒歩でなくてはならない、という決まりはないが、
彼女はあまり馬や馬車の移動に慣れていなかった。

時折街道に現れる魔物を気絶させながら、歩くこと30分ほど。

目的の街に辿り着いたセラは他の建物には目もくれず、
真っ先に旅団支部へと向かった。







「セラ殿! お待たせして申し訳ない!」


旅団支部に駆け込むように、急いで来た様子の大柄の男は両手を合わせ、
椅子に座っていたセラへと深々と頭を下げた。

そのまま立てば身長2メートルほどあるだろう男性は、
誰が見てもゴリゴリのムキムキな筋肉を携えている。

そこに居るというだけで威圧感が凄い。

そして男性にしては長い、肩ほどまで伸ばした黄色の髪。
オールバックにし、伸びた髪はふわふわのセミロングだ。

うねっている髪はパーマを掛けているとかではなく地毛なのだと言う。

セラは微笑むと椅子から立ち上がる。


「移動お疲れ様です、ティグレ様。 街を3つ跨ぐのは大変だったでしょう」
「馬には悪いことをしてしまった・・・」


彼は申し訳なさそうに眉間に大きな手を当てた。

セラが到着してから1時間ほど経った頃に彼は来た。

旅団十二使である彼らは元々まとまって行動しない。
それどころか異変の対応に合わせて、活動地域もある程度バラけている。

彼女は偶然にも街から街への移動だけで済んだが、
ティグレは街が4つ離れたところから来ていた。


「長距離の移動でしたが、お疲れでしょうか?」
「いいや。 元気が取り柄なのでな、心配無用である」
「それでは早速ですが」
「うむ、参ろうか」


セラはテーブルの上に置いていたタブレットを操作し、
「ティグレ様と合流したため、出発いたします」と書き込んで送信した。

鞄にタブレットを入れ、テーブルに立てかけていた杖を手に取る。

ティグレはそれを見届けてから、旅団支部の扉を潜って行った。
旅団支部の受付に見送られ、会釈して出て行く。


「南西にあった館であったな?」


支部を出て街道へと向かいながら、街中を歩いて行く大男。
165cmほどの身長であるセラは見上げるにしても首を痛める。

セラは少しだけ視線を上げて、彼からの質問に頷いた。


「えぇ。 傭兵がこの街に来る途中で館から不審音を聞き、
 支部に報告したのだそうです。 依頼として受付が相談されていたところ、
 ノルテ様が聞きつけ自分が今から調べに行く、と」
「そしてそのまま音信不通であると。 ふむ・・」

「・・・ノルテ様、先日交戦されてましたわよね」
「うむ、3日ほど前であるな。 そう短期間に何度も、とも思ったのだが・・
 ノルテ殿ともあろう御方が、魔物程度にやられるのは想像が付かぬ」
「・・そうですわね。 わたくしも、想像付きませんわ」


・・・その後は、 あまり会話は交わさなかった。

街道に出、魔物との戦闘時に怪我の有無と無事を伝えたのと、
館に入る手前で、状況写真を頼むとティグレがセラに頼んだことくらいか。

タブレットと杖を手に持ったまま、先導するティグレの後を追う。

入口の扉が閉ざされていたからか、侵入したらしい魔物は見かけなかった。
棲んでいる気配もなく、着々と館の奥まで進んでいく。

人の気配も無く、ノルテも見つけられないまま、
どうやら最奥まで来たのか高い両開きの扉まで到達した。

片側だけ扉が全開に開かれており、中の様子が少しだけ分かる。

空を覆う天井が無くなり、快晴の空が扉の隙間から見えた。

警戒しながら、ティグレが扉から最奥の様子を覗く。
セラも隙間から様子を伺った。

崩れたかのように落ちた天井が斜めに突き刺さっている。
中央には床に刺された刀と、 ・・その脇に仰向けで倒れている人の姿。

杖を胸元に抱え、セラが一歩後退った。


「っノルテ殿!!」


倒れている人物をいち早く認識したティグレが走り出して駆け寄った。
セラも明るい、とは呼べない表情を浮かべ、ゆっくりと後を追う。

既に青白くなった肌の色と、腹を抉るような深い斬り傷。
赤黒く汚された衣服と、流れただろう血が乾いた床。

床に刺さったノルテ所有の刀で突き刺されたのであろう胸。
刀には赤黒い血がすっかり乾燥してこびりついている。

自らの刀で命を絶ったにしても、刀が身体から抜けているのは不自然だ。
更に腹部や腕にできた傷は、刀でできるような傷じゃない。

・・・対人の戦闘になったのは、明白だった。

ティグレはノルテの傍に膝を付き、苦渋の表情で彼を見つめている。


「・・・セラ殿、念のため・・貴殿も確認を」
「いえ・・ダメですわ。 瀕死ならまだしも・・・
 これは手の施しようがありませんわ」
「そうであるか・・・」


首を横に振るセラに、ティグレは残念そうに目を伏せる。

ティグレに向かい合うように、ノルテの脇に立っていたセラは
その場に膝を付き、手を合わせて目を伏せた。

彼女を見つめていたティグレも、同様に手を合わせて目を瞑る。

・・・しばらくの静寂。

手を合わせたまま、2人はゆっくりと瞼を上げる。


「・・・『彼』と、思われるか」
「・・わたくしはそう思いますわ。 他の傷口がそうですもの」


その返答を聞いた彼は頷くのと同時に、少し悔しそうに奥歯を噛み締めた。

何故とも、どうしてとも、問えない。
理由なんて聞かずとも、向こうの意図は大体理解できるのだ。

ティグレは膝を付いたまま、袖のない上着を脱ぐと
命の無い彼へと、首から下を覆うように被せた。


同僚の死だけが、残っている。





Good-bye,Night.



(・・全く予想していなかったわけではないのだ)
(はい、)
(彼だってそれを感じ取っていた。 吾輩達も同様に、だ)
(・・・はい)

(・・・・あぁ。 すまぬ、どこか やりきれぬ気持ちが)
(構いませんわ。 ・・わたくしも残念です)






【Kill a long night.】の翌日。

セラ・セイクリッド
  半年ほど前に十二使に抜擢された聖職者『真栄』
  ノルテが喋らない人だったので、あまり声を交わしたことはないが
  優しい人だろうことだけは認知していた。

ティグレ・プロイビート
  今作にしてようやくまともに書いた。 ティグレさんこんな人だよ。
  虎人である彼は筋肉ムキムキだしめっちゃ大柄。 どっちかってーと熊。
  十二使としては設定が浅い方。 ただ彼にも一波乱あった。

ノルテ・ティフォーネ
  異音を調べに行くと夕方頃に出かけて、
  そのまま連絡が途絶えた十二使『北風』
  氷と風の魔術を操り、二刀流の彼は十二使では結構強い部類だった。





 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ