創作世界

□相談掛かる追加承認役
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きっかけはさておき1ヶ月、がようやく経った頃だったように思う。

お前が管理する倉庫の中を武器を一通り借りたいから鍵を貸してくれないか。

同僚であるクロウからの急な呼び出しに疑問符を浮かべながらも、
鍵を持って発着場の出入り口で待機すれば彼にしては珍しい連れ。

しかも若い女の子と来た。
当時口から出た言葉は素直な感想だった。

数日後、彼からまた連絡が来たと思えば今度は、
「武器が弓に確定したから、弓使いの友人は居るか」

同級生を差し出したのはそれから更に2日が経った頃だったと思う。

元々十二使の中では一番会話する相手ということもあり、
実際に会う頻度はさておきフィアナの様子はよく聞いていた。

戦闘初心者だと、高校は普通科を卒業したという彼女が、
制限付きだが正式に旅団員登録されたと話を聞いたのは昨日の昼頃だった。


そして彼女は今、クロウと共に街道から外れた平原で、弓を引いていた。

1ヶ月というこの短期間にしては充分すぎるほど安定した構え。

弓の師匠として差し出した同級生のおかげもあってか、
当てるのではなく、あえて外す判断を下していることにも正直感心した。

現在の引率が十二使であるクロウではあるが、彼は相当手を緩めている。

戦闘初心者である彼女に合わせているのか、現在が半分試験であるからか。
両方であるかもしれないが、1ヶ月にしては上等な仕上がりと呼んでいい。

今はまだ練習期間が短いが、今後の予測をしても並にはなるだろう。
世界部門級とは呼べなくても、意外と強くなるかもしれない。

4匹の魔物の群れ、最後の1匹。
フィアナのフォローの後にクロウがトドメを刺す。

何もない場所へ空を切る剣の音は後に鞘へと仕舞われ、
彼女は緊張の糸が解けたように、小さく息を吐き出してから弓を下ろした。

一連の流れを見ていた私は、2人へと小さく拍手を送った。

今し方まで戦っていた2人はそれぞれ私の方へと視線をやる。
声が届く距離まで近付き、フィアナを見やった。

微かに切れた息は戦闘に慣れてないゆえの体力不足だろう。
数少ない実戦の緊張もあったかもしれない。 それもいずれ改善される。


「大体クロウから貰った情報通りだわ。 追加承認は合格」


まずは合否の結果を伝える。 しかも良い方だ。
フィアナはほっと、安堵したような表情を浮かべて胸を撫で下ろした。


「まぁ初心者なだけに多少は危なっかしいけどね。
 しばらくはクロウと行動を共にするそうだし、彼の指示を聞きなさい」
「そうします。 メーゼさん、わざわざ来てくれてありがとうございます」
「どういたしまして。 クロウが目を付けた1ヶ月が、
 どんなもんになったかも見てみたかったしね」


ふ、と笑みを浮かべれば彼女もはは、と小さく笑い返した。


「微弱な変動も無しか?」
「数ヶ所若干ブレてたかな・・まぁ詳細は執務室に居る時にでも」
「承知した。 後こちらもフィアナの相談なのだが」
「今度は何?」


この1ヶ月で数回目となる相談に、思わず肩を上げて笑ってしまう。
彼は悪びれる様子もなく、小さく笑いながら話の前に「すまん」と口にした。


「弓の方は粗方落ち着いたから魔術も少し掘り下げようかと話していてな」
「ん」
「風魔術の有名所はいくつか教えておいたが、俺が然程風に詳しくない」
「あー・・彼女に教えられる風魔術精通した人?」

「そう。 お前も一応風だが、一応である上に手が空かん方だろう」
「そうねぇ、ちょっと立て込んでる」
「メーゼの魔術指導は上手いと思うが、
 詠唱からとなると他の奴に手を借りた方がいいかと」
「正直助かるわ」


少し笑い返した後に数秒頭を巡らせる。
風に精通していて、衝突しなさそうな、信用のある・・・


「・・・エディ・ノクターンは? 『風の魔術師』」
「定例会議で時折名が上がる彼女か」
「どうかしら? 悪い噂聞かないし、異名通りの風特化だし。
 フィアナともあまり歳離れてないし」


黙って話を聞いていたフィアナに目線をやると、彼女は瞬きを繰り返した。

フィアナが19だと聞いていて、クロウが26、私とカデンが23だ。
年上に囲まれただけあって、差の少ない相手は新鮮かもしれない。

更に同性だから話しやすいだろう。 私よりは。
私はエディ・ノクターンの人物像をあまりよく知らないけれど。


「俺が掛け合うか?」
「うーん、バラし具合では私の方がいいんじゃない?」
「機密とは」
「冗談よ。 彼女が知る機密の範囲って意味合いなら、
 クロウが掛け合うのが一番いいわ」


呆れたような何度目かの発言に小さく笑う。

フィアナと関わるってことはクロウとも関わる可能性が非常に高い。
『風の魔術師』ともあろう人物なら十二使の存在くらいは知る可能性も高い。

そうなるとクロウがただの一旅団員ではないと、
勘付くのもそう難しくないだろう。

遅かれ早かれ、いずれは。
まぁこの思考は大方オマケであるんだが。


「旅慣れしていないフィアナが居るとなると、
 あまり派手な移動はできないでしょう? 彼女の所在地もまだ分からない」
「・・・」
「一連を理解した上で、動ける私が掛け合う方が早いと思わない?」
「・・多忙じゃなかったのか」

「うーん、ここが王都じゃなければ結構すぐ動けたんだけどね。
 まぁ2週間か3週間後までには」
「フィアナ、構わないか?」
「勿論。 メーゼさん、何から何までお手数お掛けします」
「了解よ。 早めに手回すようにするわ」


彼女からの律儀なお辞儀にまた小さく笑っては頷く。

話はまとまった。
追加承認も終えたことだし、私はそろそろ退散してもいいだろう。





相談掛かる追加承認役



(今だから言うが。 ここまで真面目に、
 誰かに戦闘指導を行ったのは今回が初めてだった)
(えっ、そ、そうだったんですか?)
(意外と機会無いのよ。 基礎の基礎だから大半は特戦科で習うの)
(そっか、特戦科授業ってこういうのをやってたんですね・・)

(応用やイメージ不足が勝った時はメーゼに聞いておけ。
 俺の知る中では突出して魔術操作が上手い)
(あ、クロウさんがそこまで言うほど・・!?)
(『見え』さえすればなんてことはないのよね)
(・・そこまでの感覚は俺でも理解できん)






メーゼ視点で始まる予定はなかった。


メーゼ・グアルティエ
  十二使『夜桜』 時間軸が4月頭であるため誕生日が来ていない23歳。
  本作では省いたが以前部隊長として属していた騎士団に、
  先日見つかったせいで王国周辺から去るタイミングを見失っている。

クロウカシス・アーグルム
  十二使『氷軌』 氷特化。 風は属性値的には苦手なわけではない、が、
  戦闘で必要な魔術が氷でほぼ消化できるため風魔術の使用頻度は低い。
  仕事云々を除いてもメーゼとは意外と結構連絡を取っている。

フィアナ・エグリシア
  特戦科が強いというレーシュテア高等学院を普通科で卒業した19歳。
  ある一件の出来事をきっかけに、何かしらの形で
  戦える人になりたいと感じた人。 クロウに片思い中である。

カデン・アガフィア
  メーゼの高校時代の同級生。 高校を卒業した後は
  部隊長メーゼと再会し、数ヶ月後彼女が旅団に来たことを知った。
  1ヶ月前に来た「生徒を取る気は無い?」は久しぶりの連絡だった。

エディ・ノクターン
  21歳にして『風の魔術師』と呼ばれる女性。
  今作では容姿に一切触れなかったが、童顔低身長が悩みである。
  割りといつも学生に間違われる。 高校生に間違われたらいい方。





 

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