創作世界

□王都にて新十二使との道中
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旅団本部へと向かう前にルベクトに寄るのが決まったクロウとメーゼは、
ラクナーベル支部の建物の扉の潜り、外に出た。

暑い季節はとっくに過ぎ去り、これからまだまだ下がっていくだろう気温。
薄ら寒さを感じ、何かしらの上着を羽織りたいと思う。

旅団支部の前に面した大通りは東西に向かって直線になっている。

水路の街ルベクトは王都ラクナーベルの北に位置するため、
北門に向かうには大通りに出た後、一度左折しなければならない。

支部に面している大通りを左側に出て歩き進む。

クロウは左隣を歩くメーゼへと視線を向けた。
彼の動作に気付いたか、声が掛けられるより前に彼女は顔を上げる。

左側の髪がすっきりしてるクロウの耳からは、
リング状のシルバーピアスがよく見える。


「ルベクトに家と聞いたが、実家なのか?」
「一応賃貸よ。 高校卒業してからはそこで一人暮らしで」
「・・騎士団員は城住まいか?」
「そうよ」

「契約は切らなかったのか」
「休日でも城に居ると呼び止められるし息詰まるからねぇ。
 だからオフの時は結構戻ってたの」
「騎士団のことは分からんが、そんなものか」
「そんなものよ」


クツクツと小さく笑みを浮かべて歩を進めるメーゼ。

彼女とは接点もなく、もっと言えば対面2回目であるが、
狼狽えたり動揺したのを一瞬たりとも見たことがなかった。

・・・プレッシャー負けするような女には見えなかったが、
今のは本心だったのか、冗談だったかの区別が付かない。

意外と掴めない女なのだなと結論付ける。

視界の左側で揺れる海色が、「ところで」と呟いて後退した。
正確にはメーゼは足を止めただけでクロウが進んだのだ。

足を止めて振り向くと数歩後ろで、彼女はその場に立っている。


「なんだ?」
「私が右側を歩いてもいい?」
「・・何故?」
「あまり右側立たれたくなくて」


人と歩いていただけではあまり聞かれないだろう質問。

ただ本人の表情は至って真剣なものであり、
「そんなもの」と切り捨てはできなかった。

クロウは数秒考えた表情を見せた後、彼女の腰に提げている
長い剣身が収まった鞘とグリップへと視線を向けた。


「・・それは、剣を抜く際の障害が理由か?」
「だとしたら?」
「ならば断る」
「・・・なんで」


メーゼは表情の出方が薄いように感じたが、
この時の聞き返した声と表情は不満そうなのが一瞬で見て取れた。

王都ラクナーベルの大通り。
行き交う人々の視界の端に収めながら、彼は小さく息を吐き出した。


「お前ほどではないが腕には自信がある。
 魔物の出る平原や山道ならまだしも、街中くらいなら充分に守れる」


だからこちらも譲ろうとは思わない、という意図の言葉を残し、
彼はそのまま王都ラクナーベルの大通りをスタスタと歩いていった。

ここまで言い切られてしまっては交渉がどうとかいう話ではなさそうだ。

歩き出し距離が遠のいていくクロウの背中を見つめ、
彼女は地に一瞬視線を落とすと解せない表情を浮かべた。

今の発言だと街中室内以外は自分の意向に従うという意味だろうか。

メーゼは呆れたように1つ息を吐き出し、
大通りのタイル詰めされた地を一歩、後を追うように踏み出した。

歩幅は普段より広めに、先に進んだ彼との距離を縮める。
1歩後ろで彼の象牙色のコートを視界に収めた。

それ以上の言及や無理強いこそしなかったが、
彼の発言に納得したわけでもなかった。

やはり左側に立つのは向いてないし落ち着かない。
できるなら今すぐにでも歩く場所を交換してほしい。

渋々で従った・・・いや、折れたが正しいけれど。
複雑な心境の傍ら、私の頭はこの男は信用できる良い奴だと認識した。


「・・・意外と頑固なのね」
「なんとでも」


振り返りもしなかった返事と共に、
喉を鳴らすような含みのある笑いが返ってきた。





王都にて新十二使との道中



(大体メーゼは剣が無くとも強いだろう)
(・・体術戦には持ち込まなかったように思うけど?)
(お前が纏う空気はそんな言葉では済まないな?)

(・・・意外と食えないのねぇ)
(お互い様だろう)






歩く場所の話

メーゼ・グアルティエ
  剣士で右利きの彼女は右側に人が立つことを好まない。
  ただ右側に障害物があるからと言い、急激に不利になるわけではない。

クロウカシス・アーグルム
  彼も剣士で右利きではある。 彼は人の右側に立つことが根付いてる。
  クロウの隣を歩く人は、彼の左耳に付けられたピアスがよく見える。





 

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