創作世界

□胸元に輝く瑠璃色は祈りだと
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旅団上位による定例会議はここしばらくタブレット参加だった。

久しぶりに旅団本部で定例会議を出席したクロウは、
会議を終えた後、本部を歩き進んでは談話室の前で止まる。

ノックを数度。 扉を開ければ彼と同じく会議本部出席だった
十二使の2人が会話を中断させ、こちらを振り向いた。


「あら、クロウも来た」
「やぁ。 会議お疲れ様だったね」


色鮮やかなまでの赤い長髪と、海のような長髪。
視界に飛び込んできた2色は驚くほどに対で、少し瞬きを繰り返した。

海色の長い髪を伸ばした十二使は『夜桜』メーゼ・グアルティエ。

彼、クロウの後輩に当たる女である。
数年前には闘技大会でマッチングした経験もあり、友人としても仲がいい。

赤く長い髪の伸ばした十二使は『八駆』グラシア・クウェイント。

こちらはクロウの先輩に当たる男だ。
会話頻度こそ少ないが、クロウに十二使勧誘を行ったのはグラシアである。

髪色こそ対だがさして珍しくもない組み合わせに、
クロウは短く「ん」とだけ返すと、手前の方にあったソファに腰掛けた。


「中断させたか?」
「大した話はしてないわよ」
「メーゼがあまりにも物事に幅広く詳しいから、
 彼女の知らぬジャンルはどこかを探し当ててた」
「何をしているんだ」


思わず素で返してしまった呆れ混じりな言葉に、
メーゼがクツクツと小さく笑い出した。


「クロウは何用だったの?」
「自室が静かすぎたから。 音がしそうな部屋に来た」


クロウは手にしていたらしい本を1冊見せる。

彼女は納得したように小さく頷くと、
脚を組んだ体勢のままグラシアへと視線を移した。

メーゼをじっと見つめるグラシア。

海色の長い髪、深い藍色の瞳、端正な顔立ち・・・
彼女からは連想しづらい物を、と考え込むグラシア。

両耳にぶら下がった桜のマグネットピアスは、
古い友人と旅団長から貰ったものだと聞いた覚えがある。

そうして視線を下げていくうちに、
ふと、彼女の胸元にあった雫のペンダントに目が行った。


「そういえば君はいつもそのペンダントを身に着けているな」


再開したグラシアからの問いかけに、
彼女は顎を引きペンダントを視界に収める。

シルバーのチェーンで繋がれた瑠璃色の雫の形をしたペンダントだ。

メーゼはペンダントの雫を覆うように触れる。
細い指先の隙間からでも瑠璃色が溢れていた。


「これ、母の物なの」
「ほう。 母上の物を何故メーゼが?」
「さぁ、なんでだろうね」


一瞬伏せられた瞳に、吐き出すような声。
上げられた口角は少々彼女らしくない形に思う。

普段と違う雰囲気を悟ったか、グラシアは疑問であるかのように首を傾げた。

シルバーのチェーンに指を絡め、指先から瑠璃色をぶら下げる。
煌々と輝く雫は何物も吸い込みそうな深い色をしていた。


「危なっかしいのかしら」
「・・・君ほどの腕を持って危なっかしいとは?」
「あのねぇ。 私にもある程度並の時期があったのよ?」

「あったのかい?」
「高校2年くらいまでは人間、だった」


いつもと雰囲気は違うものの、彼女の表情から感情は読み取れなかった。

彼女が人間の範疇を超えた人であることは周知だ。
現十二使最年少、人間女性、そうは思わせぬ戦闘能力を携えて。


「『だった』・・・明確な何か、でも?」
「言ってもいい?」
「・・・いいよ? 君が後悔しないのなら」

「殺されかけたの、私。 高2の夏」


平然と紡がれた事実に、対面で聞いていた彼は水色の瞳を見開いた。

手元の本に視線を落としながら2人の会話を聞いていたクロウは、
ふと字を追う視線が止まり、メーゼの方へと向かって顔を上げる。

クロウの様子に気づいたメーゼは彼に少し目線をやり、小さく笑みを見せた。


「レーシュテア特戦科に通う寮生だった。
 眠る前に散歩しようと、夜間に街道に出た夏の日。
 ・・視線を感じた矢先、いきなり斬りかかられてしまって」


目を伏せればすぐに思い出す。

暗視スコープらしきゴーグル、フードを深く被る不気味な男2人。
街頭も少なく暗い街道で、急に鋭い風を切る音。

まだ2年生だったけど夜間の外出はさして珍しいものでもなかったし、
ある程度実戦慣れもしていたから、夜間出没の魔物も撃退していた。

ただ人からの襲撃は、 想定するはずもなく。


「学年トップだった・・と言っても、3年生のトップと良い勝負だったから、
 まだ優れた学生の範疇よね。 敵意を持って向けられた攻撃に、
 大の男2人を追い返すほどの力にもまだ及ばなくて」

「・・・・・」
「殺されずには済んだ・・けど、殺されかけた」


今からは想像も付かない、十二使の誰より強い、と言っても
誇張表現ではない彼女に殺されかけた過去。

質の悪い嘘を付く人でもないため、事実だろうことがじわじわと。

ふと目線を落としたグラシアが、指先を顎に当て、
何かを考え込むような仕草を見せた。


「特戦科2年、夏、夜間の襲撃・・・メーゼ、グアルティエ・・・」


いくつかの言葉を並べた後に、顔を上げたグラシアは怪訝そうな表情で、
メーゼの藍色の瞳を見つめ返した。


「君、あの事件の当事者か」


思い当たりがあるらしいグラシアの言葉に、
静かにやり取りを聞いていたクロウが眉を寄せる。

彼女は小さく微笑むように「一応十二使には話に挙がったみたいね」と。


「定例会議で、名が挙がったのを聞いていたよ。
 過去に何も無い高校生が襲撃対象だったなんて明らかに『異変』だからね」
「そう。 でも結局十二使が出る幕は無かったでしょう。
 痕跡が一切無くて襲撃した者の特定にすら至れなかったもの」


グラシアは怪訝な表情が続く中、対してメーゼは小さく笑みを浮かべる。
ふと視線を落として雫のペンダントを見つめると、顔を上げた。


「ペンダントの話をしてたわよね」
「ん? あぁ」
「襲撃事件の後、母からお守り代わりにって貰った物なの」
「・・お守り、」

「押し付けるようにして、肌身離さず持っていなさいって。
 お守りなんて信じてないけれど・・・
 当時の母の悲痛な表情を思い出すとどうも手放せなくてね」


殺されかけた、なんて話を平然とする彼女の様子を、
クロウとグラシアは、眉を寄せて聞いていた。

そうしてメーゼは普段通りに小さく口角を上げては、
ペンダント付近へと指を添え、藍色の瞳を細めて、笑った。


「私が人間の域を超えた、きっかけの日」





胸元に輝く瑠璃色は祈りだと



(・・・成程な、 会話に加わらない第三者だったが、合点は行った)
(ふふ、明確な地点と理由とやらが繋がったでしょう)
(おっと・・? なんの話をしてるんだい?)

(・・黙秘)
(内緒)
(む。 ・・・いや、先程の話の後だ 深入りはしないでおくよ)
(うん。 気が向いたら貴方にも話すわ)






メーゼのペンダントを描写したの今回が初めてである説。


クロウカシス・アーグルム
  装飾と言えば、彼は左耳にピアスを付けている。
  自分にピアスを付けた理由があるから、人の装飾物について聞かない人。

メーゼ・グアルティエ
  両耳にデザインの違う桜のマグネットピアスと瑠璃色の雫ペンダント。
  マグネットピアスは十二使就任祝いだが、ペンダントには上記理由が。

グラシア・クウェイント
  私の記憶が正しければネックレスだったかペンダントだったか、
  首から何かさげていた気がする。 彼のことだから多分お洒落で。



 

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