創作世界

□信用度で知ってしまう機密
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どこかからの呼び出しから帰ったクロウがグラウンドへと戻ってきた。
グラウンドに立つ特戦科大学生達のお帰りの声に「ん」と短く返す。

そんな様子に気付いたか、暗い赤色の髪をサイドテールにした女性も
彼の姿を視界に収めると「お、おかえりー」と陽気に声を掛けた。


「用件なんやったん?」
「旅団の勧誘」
「ほー。 ・・・アンタ今でも普通に旅団員やなかった?」


訛りを感じさせる話し方は地元特有のものなのだと彼女は言った。
同級であるアキ・カシュナータの的確な指摘に口を噤むクロウ。

特戦科に進んだ大学生は高確率で旅団員登録を済ませている。
授業で別大陸に渡ることもあるし何かと都合がいいのだ。

返しあぐねている・・様子ではないが返事をしないクロウに、
アキは「あっ、これもしかして聞いたらアカン奴やったかな?」と、
少々困ったように笑みを見せた。

数秒、少々思案に暮れた後のクロウからは小さな溜息。


「・・・お前ならいいか・・・」
「なに!? 何!? あたしの与り知らぬとこで何かの許可が下された!」


学生が集合している場所からは少し離れているアキとクロウ。
生徒達の後ろ姿を見ながら、彼は小さく肩を上げた。


「十二使の勧誘だった」
「じゅーにし。 ・・ごめん、何やそれ?」
「旅団の機密。 12人しかいない旅団の幹部だと」


彼を呼び出した人物は、確かにそのように言っていた。
旅団長が存在しているのは知っているが、幹部が存在するのは初耳だった。

それは隣で会話を聞いているアキも同様らしく、
耳慣れない言葉に幾度かの瞬きを繰り返し。

ようやくその情報を自らの中に落とし込んだのか、
「は、はぁ!?」と素っ頓狂な声があがった。


「え、は クロウそれの勧誘受けたん!?」
「まだ受けたわけでは、 保留にしている」
「はー・・・別格や思ーとったけどそんな誘い来るんやな・・」







クレールド大学内のクロウカシス・アーグルムと言えば。
特戦科生徒ならば知らない方が珍しいほどの戦士である。

特戦科大学1年でも充分な腕があったというのに、
強きを目指す彼の意志は固いものであった。

ぐんぐんと力を伸ばし早い段階で対人許可証も得た彼だったが、
それでも彼は慢心の1つもしなかった。

魔力にも充分恵まれコントロールも問題無かった氷属性特化の彼は、
相手の動きを封じ、自らに有利な地形を作る魔術展開が得意だった。

結果、驕りもせず相手を見くびることもない彼は
大学3年にして世界部門の出場権もあるという。 早すぎる。

同級生で世界部門に出場できる者など片手で十分足りるというのに。


彼にはある程度つるむ友人がいくらか居た。
アキ・カシュナータもその1人で、大学入学当初から懇意にしている。

彼女の喋り方の話になると生まれたのが同じ大陸圏だったことが判明し、
話が盛り上がったこともあった。

驚くほど賑やかで明るくて友人想いで、たまにコイツは何を言ってるんだと
ポンコツな時もあるが、真剣な相談には親身に乗るまぁ単純に良い奴である。


特戦科授業を終え、学内の校舎に入った2人はそれぞれ武器を
腰やホルダーに携えたまま、人気のない廊下の一角で立ち話をしていた。

壁を背に、落ち着いた色合いの廊下を視界に、隣には同級を添えて。

会話が一段落したのかアキは小さく息を吸い込むと、
渋い顔をしながら目を閉じて首を傾げた。


「いやいやいや、考えれば考えるほどなんであたしに言うたん?」
「?」
「十二使とやらの話」
「あぁ」


分からんと言いたげに怪訝な顔をするアキに、
クロウは今思い出したかのように頷いた。

伝えた本人は重要だと思ってないが、
伝えられた方が重く感じているパターンだ。

彼女は浅く長い息を続けると、額に手のひらを当てた。


「機密なんやん・・あたし一般学生で一般旅団員なんやけど・・?」
「お前は口は固いし信用できるかと」
「そういう問題やなしに・・・あー・・・・??
 あぁ、でも信用してくれとんのはおーきに?」

「どういたしまして。 まぁそれは俺ではなくアキだからなんだが」
「アンタそーいうとこあるよな」


彼の口角を上げただけの笑みに返せるような言葉もなく、
アキはまた悩ましい表情を浮かべては天を仰いだ。


「俺も一般学生で一般旅団員ではあるのだが?」
「世界部門出場権のある大学生が一般なワケあっか!!」
「・・解せんな」
「解せるわ!!」





信用度で知ってしまう機密



(次の授業どこや?)
(歴史学部の方が)
(あー、なんやあたししばらく暇やん。 一旦部屋戻ろっかなぁ)
(ん、そういえば先日依頼主から酒貰ったが今夜辺り飲むか?)

(飲む。 何もろたん?)
(シャンパン)
(お、ええなぁー。 飯何作ろ。 何やったら合う?)
(・・炭酸相手だろう? 肉か?)






クレールド酒豪コンビ。


クロウカシス・アーグルム
  十二使勧誘を受けた大学3年。 特戦科歴史学部。
  酒はあったら飲む。 基本酔わない、潰れない。 強い。

アキ・カシュナータ
  トリメス国出身の大学3年。 特戦科法学部。
  酒が好きでよく飲む。 酔っても潰れないし意識はハッキリしてる。





 

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