創作世界

□襲撃事件の翌日の様子
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届いた不穏な通信、一瞬で「普通じゃない」と感じたそれは
日常の全てを裂くような、そんな出来事だった。


回復術師や先生が数人がかりで重体だったメーゼの治療に専念した。
彼女を見つけたのは午後10時頃、寮の消灯時間直前だった。

それから先生達による健闘のおかげで一命を取り留めた彼女に、
面会が許されたのは翌朝のことだった。

生まれて初めて徹夜をしたような気がする。

ディスは重い瞼を手で擦るようにして眠気に耐え、
メーゼが居る医療室へ入っていった。

回復魔術は怪我を完全に治す術ではない。
深い傷となると魔術のみでは治りきらない場合もある。

だからか、ベッドに横たわっていた彼女の身体には
今まで見たこともないような量の包帯があちこちに巻かれていた。

端正な顔立ちであったその頬にも大判絆創膏が貼られている。
出血量が多かったせいか彼女の顔色は良くはない。

眠るメーゼの小さな息遣いを聞きながら、
ベッドの右サイドにあった近くの椅子を引いて腰を下ろした。


血を、怪我を、見るのはさして珍しくはなかった。
特戦科2年生ともなれば実戦も増えてくる。

学生同士で戦う手合わせこそ「相手は人だから」と
無意識にセーブが掛かりやすい上に刃は使わない。

だから怪我があるとしても痣程度だ。

実戦となると本物の魔物を相手にするわけで、
向こうは手加減なんて知ったこっちゃない。

そうなると引っかき傷や刺し傷なんてものも珍しいものじゃなかった。
とは言えいくら角や爪が凶器と言っても、鋭利な刃を使うわけじゃない。

だからきっと、メーゼも初めてだった。
本物の刃を携えて、本気で戦う人を相手にしたのは。


特戦科生徒とは言え一学生が、不良に絡まれたなんて可愛いものではなく、
襲われたというのはあまりにも異常だった。

先生が1人、直ぐ様旅団へ調査依頼と報告に走った。

メーゼが目覚めて動けるようになってから
事情を聞かせてもらう段取りになりそうだと先生は言っていた。

メーゼの両親にも今朝方連絡が行ったらしく、
明日にはこの学院に到着すると連絡があったらしい。

緊急にも程がある事件に、ディスも授業にさして身に入らず
その日はほとんどメーゼが横たわるベッドの傍に居た。

授業の休み時間に入れ替わりで様子を見に来る同級や先輩後輩の姿。

彼女の目が覚めたのはまだ太陽が落ちるには早い夕方だった。
最終授業が終わる20分前、見舞いの足もほぼ無い時間。

ぴくりと動く指先、ふ、と重い瞼を持ち上げて藍色の瞳が姿を覗かせた。
幾度かの瞬きを繰り返し、傍に座っていたディスへと見やる。

彼女の目が覚めたことに胸を撫で下ろした。

メーゼはゆっくりと腕を動かし、自身の身体に触れて怪我の状態を確かめる。

腕を布団の中に入れてもぞもぞと腹部辺りの怪我を確認した後、
「うん」と頷くように彼女は呟いた。


「おはよう」
「・・おはよ。 体調は?」
「うーん、良くは ないよ」


苦笑いしながら、肩ほどまでの蒼い髪を揺らして彼女は起き上がった。
小さく「痛、」と言い片目を強く瞑る。


「まだ寝転がってた方がいーんじゃ」
「ずっと寝てたから身体痛くって、 歩かないから」


目を伏せるように笑い、ベッドに座るように起き上がったメーゼ。

治療後に着替えさせられたようでラフな姿をしていた。
あれほどの血が付着してそのままというわけにも行かなかったんだろうけど。

・・・動いてる、 ていうか生きてる。

ディスはかたん、と膝裏で椅子を蹴ると
ベッドに座るように起きていたメーゼを抱きしめた。

良かった。 生きてる。
でもこんな怪我を負ってよかったわけがない。

自分より一回りは小さい身体に腕を回し、視界に埋まったメーゼの肩と背中と
掛け布団等の白いベッドを視界に収めて目を細めた。


「っ、つ ディス 右肩、傷痛い」
「うわっ、ごめん!」


痛みの訴えに彼が慌ててぱっと離れた。

メーゼがディスを咎めるような様子はなかったものの、
浮かない顔をする彼の表情を見た彼女は呆れたように微笑んでいて。

どこかやりきれない感情を胸に、彼女の背中へ再度腕を回した。
さっきよりは力を込めないように。


「ふふ」
「・・・」

「ディスが情けない表情してるのが目に浮かぶわ」
「・・生憎こっちはお前ほど強かじゃねーんだって」
「強かかぁ」


生まれた時から知ってると言っても過言でない長い付き合いである友人が、
自分の知らぬところで命の危機だったなんて、
その痕を直視したというだけで、動揺するには充分だった。

何故メーゼが、何故メーゼを。

腕の中に居る彼女は、随分と大人しかった。





襲撃事件の翌日の様子



(凄く喉乾いてるの。 何か飲み物ないかしら?)
(あー、せんせに聞くか。 無かったら買ってくるわ)
(ありがと。 水かお茶でいいわ)

(・・あー、1人で平気?)
(うん)
(そか、行ってくるわ。 あ、ついでにメーゼが目覚めたって伝えてくる。
 それと旅団の人がー、あー 本人から事情聞きたいって、言ってたから)
(あぁ、調査依頼投げてくれたんだ。 うん、分かった)






タイトルが全て。


ディス・ネイバー
  腐れ縁とは言うが決して仲が悪いわけじゃない、
  寧ろ仲が良かった分、今回の件に関しては一番動揺した。

メーゼ・グアルティエ
  意識を手放す寸前、とりあえず連絡をと思った先がディスだった。
  あの日の夜、それから起きた時、彼の姿を見た時は安堵する。





 

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