創作世界

□本部事務員、案内人ミコト
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旅団本部に設置された自室にはあまり物がなかった。

ベッドや本棚、机やクローゼットだのの家具は一通り揃っているようだが、
本棚やクローゼットの収納家具には一切物が入っていない。

自由に使ってくれて構わない、模様替えもご自由に、
元々置いてある家具は処分しても構わないからなどとのお達しはあるが、
部屋メイキングに慣れていないのでどう動かしていいかも分からない。

物が無い部屋を眺めてはどこか引っ越しをしたような気分になる。

・・・正直それ以上に、機密ともあろう旅団本部へ
家具の導入がどう行われているのかが気になる。

ある程度自室を触り「本部に寄った時に取れればいいか」と言ったもの、
たまに読めればいい小説を本棚に、季節が変わり最近は使う頻度の下がった
冬用のコートなどをクローゼットに押し込む。

一息付いて後は、と室内を見渡した時、
机の上に置いた1枚のメモ用紙が目に留まった。

先程本部内で迷った際に案内してもらった十二使から渡された手書きの地図。

メモ用紙を手に取り開く。
1階の重要スペースの記載だけで細かいところは省略されている。

そもそもこの旅団本部ともあろう屋敷は、
1階だけでも十分広いのに平然と2階がある。 広い。

・・次また迷うようではキリがないな。
メモ用紙を片手に、用紙に記載されていた事務室へと向かうことにした。







地図はある程度簡易なものだったが分かりやすい表記だったようで、
なんの問題もなく事務室とプレートの掲げられた扉の前に到着した。

地図の書かれたメモ用紙をズボンのポケットに入れて、幾度かのノック。
扉越しに「はい!」と男の返事が聞こえクロウは扉を開ける。

オフィスのように事務机が並んでおり、それらにそれぞれ座る男女複数名。
ノックの音に全員が顔を上げこちらに視線を向けていた。


「あ、クロウカシス様」
「クロウでいい。 すまないが手の空いている者は居るか?
 本部の案内を頼みたいのだが」


用件を述べると本部事務員が手元の作業と見比べる。

ここで区切るのは、と少々悩ましげな反応が多いように伺えたが、
すぐにすっ、と伸びた手に視線が行った。


「それでは私が」


色素が薄い青髪を肩下ほどまで伸ばした女性が名乗り上げた。

事務椅子から立ち上がる彼女を見、クロウはなんとも思わなかったが
周りの事務員達は明らかに「え」と謎の反応を見せた。

何も訳を知らぬクロウが小さく首を傾げる。


「え、ミコト1人で平気?」
「やだな、流石に敷地内のことは覚えましたよ?」
「や、えっと、そっちじゃなくて・・・」


ミコトと呼ばれた事務員の女性に困った表情で呼び止める男性事務員。

敷地内は分かるの発言に、
それではないと来ると案内絡みではないように思える。

数秒思案した後にクロウは「彼女、何かあるのか?」と問いかけた。


「や、やーちょっと、彼女病弱でー・・・」
「病弱。 ち、違いますよ! ちょっと人より免疫力がないだけなんです!」
「ちょっとじゃないよ壊滅的だよ!!
 こいつ具合悪そうだったらすぐ連れ戻してやってください!!!」


ミコトの必死の弁解を秒で上塗りしていく男性事務員の速度に、
予想より大事なのだなと感じる反面、
コントのようなスピーディーな流れに小さく笑う。


「っく、成程な。 心得た」
「ほらぁ変な覚え方されるー!」
「それくらいでいいの! ほんと相当なんだから!!
 クロウ様お騒がせします!! 案内役としてはバッチリなので!!」


ご丁寧に深いお辞儀まで貰ってしまった。







「とりあえず飲み物持って行って」
「掃除行き届いてないところも通るかもしれないし一応マスクもしときな?」
「相手が十二使とかもうこの際気負わなくていいから、
 まずいな具合悪いなと思ったらちゃんとクロウ様に伝えて」


案内人の見送りに手厚すぎるまでの待遇を受けるミコトの様子に、
あぁ、本当に深刻なのだなと想像が付いたクロウはやり取りを伺っていた。

ミコトの体調を心配した物の押し付けが終わり、
事務室から出てきた頃には彼女は少々気恥ずかしそうに、
「申し訳ありません・・」と謝罪の言葉に口にした。


「いや、構わない。 相当なのだな」
「風邪を引きやすくて、空気悪いと体調崩しやすくて・・
 人より身体が弱いのは事実です・・・ご迷惑をおかけします」


深々と下げられた頭に幾度かの瞬き。
クロウは短くふ、と笑みを浮かべると会釈のように小さく頭を下げた。


「今日は本部案内よろしく頼む。
 存じてはいると思うが、クロウカシス・アーグルムと言う」
「これはご丁寧に・・本部事務員のミコト・カーニャと申します」

「東方な名前だな。 生まれもか?」
「そうです、トリメスの生まれで」
「どうりで」

「確かクロウ様も・・」
「トリメスではなかったが、 カルム出身だな」
「各国集まる旅団とかになると同国ですら珍しいですものねぇ」





本部事務員、案内人ミコト



(さて、どこから周りましょうか)
(・・十二使が寄りやすい部屋、であれば?)
(そう、ですね・・会議室、各自室に次いで談話室、戦闘部屋でしょうか)
(戦闘部屋があるのか? ・・屋内だと言うのに)

(近い順に、みたいなこだわりがなければそちらから向かいますか?)
(俺は構わないが、ミコトはいいのか?)
(あ、歩く、だけなら・・・・歩くだけですから・・・)
((事務員達の様子を思い出すと少々不安だな))






本部案内。


クロウカシス・アーグルム
  2回目の定例会議を本部で終えた後迷った。 方向音痴なわけではない。
  当時22歳。 本部の自室をどう変えようかで悩んでいる。

ミコト・カーニャ
  創作世界では初登場。 元々はクトゥルフPC、日本人名は岡永深琴。
  >>>CON4<<< この時間軸では25歳。 本部事務になりたて。





 

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