創作世界

□2ヶ月越しの答え合わせ
1ページ/1ページ






アルヴェイト王国、シェヴァリエ騎士団に属していた
若き第3部隊長がその職を下りてもう2ヶ月が経っただろうか。

気温が下がり冷え込んできたこの季節、
アルヴェイト王城には2ヶ月ぶりにその姿が目撃されていた。

整然と王城の廊下を歩き進む蒼く長い髪と、高めの背。
腰には愛用の長剣を携えたまま、メーゼ・グアルティエが訪れていた。

いくら「元部隊長」と言えど引退した今は部外者であるため、
訪問すると事前連絡が行われたはずだが。

まずは到着報告のため国王の居る謁見の間へ、
それから後任の居る第3部隊の執務室と、
世話になった先輩の居る第9部隊の執務室へ。

それぞれ挨拶周りをし、廊下を歩いていたメーゼの背後から
カツン、と高いヒールの音が響く。


「ちょっと」


周囲に人の気配を感じないため呼び止めた相手はメーゼだったのだろう。
メーゼが振り返るとそこには第5部隊長のシグ・サウアーの姿があった。

左側を太く編み込んだ髪を後ろに回し、
冬場にしては寒そうなすっきりした首周り。

ベルトに2丁拳銃を差し込んだ彼女は部隊長としての衣装に身を包みながら、
タイトスカートとヒール靴と戦闘には不向きな格好をしている。

メーゼの姿を視界に収めるのもそこそこに、
シグは若干怪訝そうな表情を浮かべたまま口を開く。


「付き合いなさい」


上げた右腕の親指を立て、それを後ろにクイッと引っ張る。

・・・メーゼは部隊長就任からシグとはさほど仲がよくなかった。
非常に不穏な呼び出しである。







「紅茶でよかったかしら」
「構わないわ」


どこに連れて行かれるのかと思いきや、
辿り着いたのは意外なことに共用キッチン近くの休憩スペースだった。

紅茶を淹れ慣れているのかシグの手際は良い。

こっちの手伝いは要らないからとりあえず座れと言わんばかりに、
テーブルスペースに押し込まれたメーゼは手前の方の椅子を引き、
腰を下ろすなり早々脚を組んだ。

紅茶を淹れるシグの後ろ姿を横目に、
メーゼは肩に掛けていた鞄からタブレットを取り出し作業を始めた。

あまり仲が良くなかっただけあって2人の間に会話は少ない。
仲が良くないと言うものの、悪いというほどでもないのだが。

パタパタと字を入力するメーゼの脇に、
ソーサーに乗った白いカップがコトンと置かれた。

中に入っている赤橙色の紅茶が揺れる。

視線だけ上げると、カップを置いたシグは既にメーゼに背を向けており、
向かいの席の椅子を引いて腰を下ろした。


「淹れてくれてありがとう」
「ん」


シグの前にあるテーブルにも同じようにソーサーとカップが置かれる。

カップを持ち上げゆっくりと飲みだすシグの向かいで、
作業していたメーゼがタブレットを仕舞った。


「十二使の生活は?」
「結構楽しいよ、世界を直に周れるのはいいわね」


カップから口を離し近況報告を述べる。
これもまた珍しい光景である。

それぞれ紅茶に口を付け一息付くと、
ふとシグはカップをソーサーの上にコトリと置いて口を開いた。


「ランドルさんから聞いたの、アンタが部隊長やめた理由」


第9部隊長の名と共に出た理由。
メーゼがその内容を察するのは然程難しくはない。

退任から2ヶ月が経過した。

退任の1番の理由を伝えたのは第9部隊長を務めるランドルのみであり、
他の誰にも伝えなかった理由とその項目。

返事も相槌もしないメーゼは、微妙そうな表情を浮かべるシグが
言葉を続けようとするその様子を見つめていた。


「・・体調が悪いなら、そう言えばよかったじゃないの、
 ・・・性分なんてはぐらかさずに・・」
「・・でも体調が悪いようには見えなかったでしょう?」
「・・・」

「見えないものを伝えるには説得力がないと思って」
「アンタのそういうところが本ッ当に気に入らない・・・」
「どうも」


メーゼが小さく笑ったまま紅茶の入ったカップに口を付ける。

テーブルに肘を付き組んだ手を額に当てるシグ。
組んだ手で顔は伺えないが声は少々渋々そうか。

どうもはっきりしない彼女の様子に、
メーゼはため息混じりに小さく息を吐いた。


「言っとくけど性分の話も嘘ではないわよ。
 第一理由ではなかっただけで」
「十分務まっているのに性分だけで部隊長やめるなんて言われたら、
 ブーイングの2つや3つ入れるに決まってるでしょう」





2ヶ月越しの答え合わせ



(アンタの能力は評価してるのに・・・どうして、こう・・・)
(ふ、なんでだろうね)
(・・・体調が悪かったとまでは聞いたけど、それ以上は知らなくて
 ランドルさんが言い渋ってたんだけど、 それはなんなの?)
(・・・あー)

(思い当たりがあるのね!?)
(大方私が眠らないって話でしょ)
(・・・は、ハァ!!? ね、ねむ 眠らない!?)
(騎士団の頃は1ヶ月寝なかったとかあったよ、何回かは)






騎士団組も底上げしたいとは思ってるんです

メーゼ・グアルティエ
  元第3部隊長。 今は旅団十二使に席を置いている。
  高校卒業して数ヶ月で部隊を率いていたカリスマ性。

シグ・サウアー
  第5部隊長でヒール靴タイトスカートの戦闘には不向きそうな姿。
  メーゼより年上だし部隊長歴としてもメーゼより先輩。 2丁拳銃使い。

ランドル・プルーデンス
  高校生と部隊長時代のメーゼとなると彼の話題が上がりやすい。
  第9部隊長のそこそこいい年してるおっちゃん。 多分40ちょいかな。





 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ