創作世界

□鮮明に記憶残す君の影
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サファリ旅団、機密として扱われる幹部こと十二使は
各大陸に起こる事象にすぐ調査に迎えるように、
ある程度人数の割り振りが決まっている。

大きく4大陸が存在するこの世界に幹部が12人。
1大陸につき幹部3名が概算の推奨人数である。

腐っても大陸、1つの大陸に対し幹部3名ともなると
意図的でなければ幹部同士がすれ違うことも至難である。 意外と。

定例会議、前日。
街に寄ると旅団支部の受付で馴染みだした海色の背中を見た。


「あ、メーゼ」
「ん? スイリか。 偶然ね」
「ちょうどよかった。 少し時間空いてないかな?
 手合わせお願いしたいんだけど」
「・・珍しいわね。 なんで?」

「一番強い殺気が知りたくて」
「・・何?」


彼女は分かりやすく怪訝そうに眉を寄せた。







『夜桜』メーゼ・グアルティエが、
十二使としてやってきた記憶はまだ新しい。

海色の髪を長く伸ばし、凛とした彼女は端正な顔立ちである。

以前はアルヴェイト王国の直属騎士団で部隊長を務めていたという、
旅団十二使としても若き期待の星であった。

24歳の彼女は現在十二使最年少であるが、
十二使でその若さはさして珍しいものではない。

ただ最年少には見えぬ大人びた風貌、百戦錬磨それ以上の風格すらある。
謎めいた独特の雰囲気を纏う彼女はどこか遠い人だ。

対して、彼女に声を掛けたのは『知聖』スイリ・ミゼルだった。

種族に応じてある程度容姿に偏りや影響等が反映されるものだが、
悪魔種族らしい彼は翼を隠してしまえばそれらの反映が一切ない。

十二使としてはどちらかと言えば最近の方であるが、
それでも3年が経過しているためメーゼから見れば充分先輩であった。

十二使より以前は情報屋をメインの仕事とし、世界を騒がせた人物でもある。
情報屋は引退したわけではないらしく、彼は調べたがりだ。

今日は、それがメーゼに向けられたらしい。


「随分と好奇心旺盛ね」


メーゼは左腰のベルトに長剣を、スイリは両サイドに剣を2本携え、
とりあえずは手合わせが可能なスペースへ、と街の外に出た。

更に彼女の要望で、人通りが少なく人目に付きづらい場所まで足を伸ばす。

『夜桜』の表情は相変わらず読み取りづらかったが、
道中呆れたように吐かれた息は自分が感じたもので正解だろう。


「君が適任だろうと思ってさ」
「その発言でどう見られてるのかは大体理解したけれど」
「事実じゃなく?」
「事実よ」


彼女が対魔物より対人向きであることは既に知れていた。

そして本人も言ったのだ、
「自分と姿形の似た相手の動きを読みやすいのは当然でしょう?」と。

彼女の発言にも一理あるが、かと言い相手はあくまで『人』である。
姿形の似た者を相手にするからこそ、理性などと言ったストッパーが掛かる。

害とされ、人とは違う姿形をした魔物とは根本的に違うのだ。

世の中の戦闘員の9割以上が対魔物が戦いやすいと、
相手が『人』でないからこそ全力で戦えると答える中。

彼女は対人の方が得意だと、言ったのだ。

お互い一定の距離を取り、スイリは鞘から剣を2本抜き出す。
白の剣身と黒の剣身、対である2本の剣にゆっくりと視線を落とした。

その向かいで長剣の収まっていた鞘から銀色の剣身がすらりと姿を見せる。
充分手入れが行き届いているであろう刃の先は一時地へと向けられた。

頬を撫でる風は、最近になって熱を帯び始めたが、
どこかを見据えるような彼女の藍色の瞳を見ると空気が冷たいように感じる。


「先読みできるスイリじゃなきゃこんな要望受けなかったわ」
「はは、その評価は光栄だけど、君相手に先読みが利くとは限らないなぁ」
「読んでもらわないと困るのよね」


すう、と浅く吸い込み、息を繰り返す息。
ゆっくりと伏せられた瞳は藍色の姿を隠した。

形の良い唇は噤まれ、彼女の桜のマグネットピアスが風に揺れる。


「・・・10秒だけ、本気で行く。 から」


開始の合図であるかのように、握られる長剣のグリップ。

そして、

一瞬、開けた瞼の隙間から除く藍色の眼光が
あまりにも鋭くぞっとするほどの寒気。

地を蹴り一瞬で詰められる距離、急所である首に容赦なく振り落とされる刃。

震える空気、とんでもない重圧、突き刺すような・・・――殺気、
鞘から抜いていた剣で刃を受け止めるや否や息付く暇もなく第二撃。

何より、何より彼女の眼が本気である。
これは、まずい。

彼女の攻撃に全神経を注がねば、殺られる、
ここまで明確に、真剣に、命の危険を感じたのは、随分と久しぶりだった。

目先ギリギリをすり抜ける刃先、突き刺すように真っ直ぐ伸びる剣身。
歯をぎり、と食いしばり彼女の一挙一動を見逃さない。

数値として知ってはいたがメーゼの動きはとかく速い。

判断が早い、迷いがない、戦闘に慣れ、
人との戦いに慣れた彼女の動きは、相当なものだ。

息をする余裕もないほどの怒涛の攻撃、これが、彼女の本気。
彼女は最後に大きく剣を振り、動きを止めた。

1秒差、スイリの左頬にぴっと切れ目が入る。
つー、と頬に伝う血が時間の感覚を取り戻す材料になった。

体質のこともあり時間の概念には結構詳しい方であったが、
10秒という時間がこれほど長く感じたのは初めてだった。


「っ、は・・・! はぁっ、は・・・」


緊張が解かれたのと同時に忘れていた息を思い出す。
どっどっ、と心臓が早足に脈を打つ。

これが、現在測り得る最大の殺気、

戦力把握試合でもメーゼの最高値を自らの目では確認できなかったと、
十二使の先輩であったヴァンは言った。

彼女は今、敵対する組織の人物との戦闘が度々起きているが、
きっとその相手も知らない、彼女の、本気。

剣を振り終えたメーゼは一度深く息を吸い込むと、
先程までの殺気が嘘のように全て消え、
普段通りのすんとした表情と様子を見せている。

この変わりよう、 意識して切り替えているのだとしたら末恐ろしい。

端正な顔立ちである彼女はすい、と顔を角度をこちらを向ける。
すらっと伸びた鼻筋の輪郭がよく映えると思う。


「満足?」
「・・うん、凄く」
「・・・そう。 ここから後は頼みっていうか、遅い注意事項なんだけど」
「何?」

「今のを数値やデータとして残すのはやめて。
 記憶の中だけに留めておいてほしい」
「分かった、そうしとく」


了承が得れたメーゼは少しだけ安堵したような息を小さく吐き出した。

彼女は感情の読みにも鋭いから嘘を吐くのは賢いとは言えない。
かといい裏でするような無粋なこともしない、が。


「(殺気を知りたいと頼んだのは僕だけど、)」


メーゼの海色の横髪を耳に掛ける動作を横目に。
普段と変わらない、どこか謎めいた雰囲気を纏う彼女に幾度かの瞬きを送る。


「(同僚ともあろう相手に本気で殺しに掛かれるのは、なかなかないよ)」





鮮明に記憶残す君の影



(頬、少し負ったわね。 魔術で完治できる?)
(あー・・これくらいなら)
(・・タオルで悪いけど、これ貸すから。 拭いて)
(ありがとう。 流石に無傷というわけにはいかなかったね)

(・・・先読みは働いた?)
(うーん、多少は。 時折予想外なのも混ざって結構危なかったな、
 頬の傷だけで済んだのが奇跡的だよね)
(・・そうね。 それだけで済んでよかった)
(・・・メーゼ、君さ。 対人得意なの気にしてるでしょ)






メーゼのあまりの動きの速さに、私の頭と描写が追いつかなかった。


メーゼ・グアルティエ
  対人得意な十二使『夜桜』 対魔物が苦手というわけではないが、
  メーゼに並ぶほどの実力者、例えばアインと魔物の討伐時間
  タイムアタックになると彼女の方が若干秒遅い。
  ただし現状彼女に倒せない魔物はいないので、あくまで時間の話である。

スイリ・ミゼル
  対魔の方が得意な十二使『知聖』 しかし対人が苦手なわけではなく、
  寧ろ戦闘データを山ほど抱えてるので、対人でも動きの先読みが可。
  メーゼほど速すぎると先読みが追いつかない場合があるくらい。
  メーゼほど速い人って居ないんですけどね。





 

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