創作世界

□夕焼け差し込む支部2階
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旅団支部の2階に設置されたソファに彼女は座り、
テーブルに広げられた資料に目を通していた。

フィアナは先月旅団員登録したばかりで、戦闘初心者だった彼女は
基本誰かと行動することで旅団依頼を請負う制限が課されていた。

何より高校では普通科を卒業した彼女は圧倒的に基礎知識が足りていない。

そのため、魔物の資料等が保管されていることの多い旅団支部2階では、
度々フィアナがそれらに目を通している姿が目撃されていた。

階段の上り下りの足音を耳にすれば、顔を上げて挨拶なりも行っていたが、
しばらく出入りがないまま時間が過ぎると相当集中していたらしい。

すぐ傍まで来ていた足音にさえ気付けなかった。

視界の左端でテーブルの上に缶がコトンと置かれた音に、
一気に現実へと引き戻されフィアナの肩がびくりと跳ねる。

缶から離れる指に釣られるように、資料から顔を上げた。

左手にコーヒー缶を持っていた、ダークブロンドの髪を伸ばした彼は
顔を上げたフィアナを一目見ると
テーブル挟んで向かいのソファに腰を下ろした。


「集中力が凄まじいな」
「あ、 クロウ、さん」
「そろそろ切り上げたらどうだ。 陽が落ちたぞ」
「あっ・・と、もうそんな時間ですか」


座ったまま、右手側にある窓へと視線を向けてガラス越しに外を眺める。

オレンジ色に染まった日差しが大通りに面した建物を照らしている。
太陽は落ちたようだがまだ微かに明るく、街灯がなくても充分そうだった。

でも街灯はそろそろ点いてもいい頃だろう。
太陽が既に沈んでいるならば、しばらくもすれば一気に暗くなる。

視界の端に映るクロウと呼ばれた男はコーヒー缶を傾け一口飲むと、
フィアナの手元にあった資料をじっと見つめていた。


「熱心だな」
「あはは、初心者なんで。 勝てそうな相手、
 どう足掻いても負ける相手くらいは見極めた方がいいかなって」
「ふ、 だから然程お前の心配はしていない」
「放任だ」


くすくすと笑い、翡翠の瞳を細めるフィアナ。

フィアナが座るソファの足元には彼女の鞄が置かれており、
その隙間から彼女の縮小された武器が小さく顔を覗かせていた。

会話に一区切り付くと、自身に差し出されたのであろう
テーブルの端に置かれた缶に視線を移す。

手を伸ばし、缶の印刷を見ればココアだった。 冷たい、アイスココアか。


「・・・あの、クロウさん。 このココア」
「やる」
「え。 で、でも ただで頂くわけには」
「その程度構わん」


数秒の沈黙、目線での攻防、応答。
沈黙が数秒も続くと、フィアナは折れたように目を逸らした。


「・・すみません、頂きます・・・」
「そうしてくれ」


普段は平然と応対しているがフィアナは彼が好きなのだ。
惚れた弱みと言うべきか、折れやすいのは彼女の方だった。 前提条件。

よくよく見れば以前、彼と飲み物を買う際に選んだココアだ。
偶然、とは思いづらい。 よく見ていらっしゃる、

微かに頬に熱が帯びた。

アイスココアの缶を包むように手にし、口元に寄せた彼女は愛しげに笑った。
ふふと溢れるように笑みに、対面に座ったクロウが不思議そうに顔を上げる。


「やっぱり好きです、クロウさんのこと」


微笑むように告げられた言葉にぴたり、と彼の動作が止まる。 硬直数秒。

発言の内容自体は以前から存じているものであり、
さして驚くものではない、が。 急だ。


「・・・お前はそういうことを・・・」


溜息のように1つ、すっきりしない息を吐き出しては小さく眉間を寄せた。
向かいに座るフィアナは変わらず、穏やかに微笑んでいた。


「・・缶1つで?」
「頂いたのも勿論嬉しいけど、覚えててくれたことにかな」
「なんのことやら」


クロウは笑いながらはぐらかし、コーヒー缶に口を付けた。
彼女はこの返しでココアが意図的であったかどうかの確信を得たが。

くす、と小さく笑みを浮かべ手元の缶を開ける。
ココアの甘い香りが漂った。


「クロウさんはもう切り上げですか? 結構お仕事溜まってたそうですけど」
「粗方片付けた。 流石に少し寝たい」
「そう言いながらブラックコーヒー」
「この時間から寝るわけにもいかないからな・・」





夕焼け差し込む支部2階



(じゃぁ今日は早寝ですね)
(そうなるな。 ・・・お前最近夜出かけてるか?)
(え。 あ、 扉の開閉、聞こえます・・?)
(隣室なら流石に)

(星空を見るのが好きで時々、 窓からじゃあまり見れないので)
(だからか。 ・・・)
(すっごく考えてらっしゃる表情なんですけど・・え、えっと?)
(夜に1人出歩くのは感心しないなと思った、のだが)






クロウは結構人のことを見ている。


フィアナ・エグリシア
  飲むとしたらココアかジュース。 気分で若干ブレる。
  飲酒もできる年齢だけど飲んだことはない。 因みに弱い方。

クロウカシス・アーグルム
  飲むとしたらブラックコーヒー。 稀に砂糖入れる。
  酒には強いが頻繁に飲んでいるわけではない。





 

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