創作世界

□戦わないネオルカ・ジーヴェ
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彼の名はネオルカ・ジーヴェ。

身長177センチ、21歳男性、黒髪、碧眼、黒い衣服を好む。
背中から生えた黒い翼を見、彼の種族を特定するのは然程難しくない。


彼がまだ11の時であった。

悪寒するほどの深い闇の中、「その者」は彼と向き合うように立っていた。
床が見えたわけではないから正確には浮いていたのかもしれない。

焼け爛れた皮膚、ボロボロの布切れを纏い鋭いまでの赤い瞳が自分を貫く。
11の子供にはショッキングすぎるほどの醜い容姿。

震えが止まらなかった。
吐き気がこみ上げてきた。

夢なのに鮮明で、空間自体がどこか不快で、
造形にしては異常なほどリアリティがあって。

まるで死神だ。 それを、見たこともないのに。

その者はゆっくりと口を開いた。
ノイズのようなしゃがれた声で何を言ってるのかは聞き取れなかった。

ただなんとなく、選ばれたような気がした。

・・・目が覚めた時、彼は汗だくだった。
肩で息をするほど呼吸が乱れていた。

夢の内容は鮮明に覚えていた。
起き上がって周囲を見ると、ベッドに見知らぬ剣が立てかけられていた。

彼がその剣を手にしたのは、11の時だった。


その剣の名はシュクリス。
悪魔種族にのみ受け継がれる『悪魔の六剣』と呼ばれるうちの1本だった。

六剣は強力な呪いの品であり、調べれば調べるほど六剣の使い手は
まともな死を迎えておらず、ひたすら闇が深い歴史であることを知った。

ネオルカは調べるのを止めた。 病みそうだった。

六剣にはそれぞれ特性があり、シュクリスは『壊』だった。

対象が「破壊できるもの」であるならば、
剣で壊せない物でもシュクリスなら壊せる。

ただしこの剣には欠点があった。
シュクリスは使い手への執着が非常に強く、一定距離を離れられないのだ。


剣を手に入れたから、というわけではないけれど、
メジスト高等学園の特戦科に進学した。

シュクリスという自前の剣があったが、
特性の件があったため授業では木刀や通常の剣を借りていた。

しかし前述通り、ネオルカは例の剣から一定距離を離れられない。

特戦科授業で使わない時は腰のベルトに携え、
通常授業の時は机に立てかけていた。

彼は無事に特戦科を卒業した。


そして、高校を卒業したネオルカはと言うと
戦闘する頻度がぐっと減った。

彼は戦わない。

特戦科を卒業するに至った彼は決して、戦いが下手なわけじゃない。

剣による近接、魔術共にまともに扱うことができる彼は、
一般的に要求される戦闘力を充分に満たした。

呪いの品と呼ばれている六剣だって兵器のような物だ。
戦闘員としては寧ろ非常に優秀だ。


強いはずであるはずの彼は戦わない。

しかし戦わないと言っても「滅多に」という話で、
一切の交戦を避けることは不可能だ。

必要に迫られれば彼は戦う。

しかしネオルカとの共闘に至った際、
戦闘直後に彼が必要以上に摩耗していることを、彼女達は知っている。

体力が人よりあるにも関わらず酷く乱れた呼吸。
怪我を負ってもいないにも関わらず青ざめた表情。

その様子を見ると、「無理に戦わなくていい」と言わざるを得ない。


彼はたまに壊れる。

その一面が垣間見れるとすれば決まって戦闘中である。
その表情を見ると、まるで自我を失っているかのように思える。

いや、彼がその表情を見せる時、
ネオルカの動きは驚くほど格段に良くなるのだ。

その上で戦況把握も読みも異常なほどに上手くなる。
だから自我を失うというのは語弊かもしれない。

強くなるならばいいじゃないか。
そう声を掛けた者が居た。

戦闘狂って奴? 戦闘になると人が変わる人、たまに居るよね。
そう声を掛けた者が居た。

本人はその瞬間を不本意に、嫌悪に思っていた。
ネオルカが、戦闘を避ける最大の要因であった。


その瞬間の彼は、彼の本心ではない。

それは何かの作用。

答えは全て、彼が携える武器にある。

それは鍵のない枷。
それは切り離せない原因。


彼は戦わない。

戦闘自体は嫌いじゃない。
息の乱れもなく、体調も悪くならなければ彼だって戦線に立っている。

彼は戦いたくないのだ。





戦わないネオルカ・ジーヴェ



(原因は全てこの剣にある)

(でも、この剣でなければ)
(命を落とした場面もある)






悪魔の六剣は闇が深い。


ネオルカ・ジーヴェ
  メジスト高等学園を特戦科で卒業した傭兵業『シクザール』の事務担当。
  シュクリスを手に戦うが、回数を重ねるごとに具合は悪くなっていく。





 

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