創作世界

□情報屋スイリ獲得に向けて
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一息付こうとキッチンにまでカフェオレを注いできて、
作業していた部屋に戻るべく廊下を歩いていた時だった。

建物内に響く玄関チャイム。
足を止めると右手側の壁に外の様子を流す映像が現れた。

本来であれば訪問者の顔が表示されるはずだが、
画面いっぱいに映り込んだのは意外にも赤色の旅団員証だった。

家主と思しき青年はカフェオレの入ったカップを片手に首を傾げる。


「”スイリ・ミゼルね”」


女性の高い声だった。
それ以上に聞いたことのない声で名を言い当てられ少々言葉に詰まる。

この家の住人のことなど、昔から魔界出身の者しか分からない。

表札も掲げていない上に家主であるスイリが出入りする頻度も少ないもので、
見知った者以外の訪問者はほぼ皆無と言っていいだろう。

返答せずに経つこと数秒。
画面いっぱいに表示されていた旅団員証が横にズレ、訪問者が画面に映った。

狐耳を生やし、長い髪を太い1本の三つ編みにした金髪の女性。
髪飾りが2種類ほどあり、彼女の頭部を鮮やかに飾っていた。

強気そうに上げられた口角に細められた赤い瞳と
目尻の赤いラインが画面越しに鋭く映る。


「”初めまして、世界一の情報屋さん。
 話があるの。 通すか出てくるかしてくれない?”」


左手に持っていたカップのカフェオレをぐ、っと一気に喉に流し込む。

壁に一歩近づき、画面を追加で表示させると
右手で画面が表示された壁を叩いていく。

ロック解除の文字に視線を落とすと画面に表示された女性に声を投げかけた。


「・・鍵を開けた。 入って」







「(・・・一人暮らし?)」


一人暮らしとは到底思えぬほどのそこそこ立派なお屋敷は、
1人では外観を見ただけでも十分すぎるように感じた。

仮に4人で住んでいたとしてもあまりに広い気がする。

許可が下りたので扉を開けて、ゆっくりと屋敷の中に入る。
数歩進んで周囲を見てみればこれまた広い。 金持ちの屋敷か?

ぱたん、と頭より高い位置から扉の閉まる音。

顔を上げると2階の廊下に人影。
玄関周囲は吹き抜けになっているから姿の確認は容易だった。

黒い翼を広げた人影は廊下の柵に手を掛けると、
ひょいっとその身を持ち上げて飛び降りた。

通常通りの速度で落ちていき、
床まで残り5センチのところで落下速度が急激に落ちる。

ふわり、と静かに1階の床を踏んだのは中性的な顔立ちをした青年だ。
細身のように伺えるが彼女から見れば背は十分あるように見える。

180・・・いや、少し満たないくらいだろうか。

青年スイリ・ミゼルは自らの胸元に手を当てると小さく頭を下げた。


「ようこそ、十二使ナイアレヴィ様」
「!」


身分を言い当てられるとは思わずナイアレヴィと呼ばれた
女性の顔が少し驚いた表情に変わる。

瞬きを繰り返した彼女は少しだけ眉を下げたように笑った。
機密ではあるもののよくよく考えれば不自然ではないのかもしれない。

そう、だって目の前に居る彼は『世界一の情報屋』なのだ。


「・・・流石と言うべきかしら? よく知っているじゃない」
「・・一度だけ、君のパフォーマンスを見たことがあるよ」
「?」


脈絡のない彼の語りにナイアは首を傾けた。
彼女の腰巻きに覆われた右側の脚に、スイリは視線を向ける。


「太腿、使印が浮かんでいたものだから」


使印とは旅団幹部である十二使にそれぞれ浮かぶ特化属性色の印のことだ。

自身の持つ少量の魔力と周囲に存在する少量の魔力で維持されているため、
基本的に消すことができない、十二使の身体的な身分証明となる。

スイリの言葉を聞いたナイアはすり、と脚を寄せて意地悪げな笑みを浮かべた。


「・・・どーこ見てんのよ」
「振りつけに聞いてくれないかな」


その言い方は困る、と言いたげにスイリは呆れたように肩を上げる。
彼女も冗談のようでそれ以上の言及はせず笑みを見せるだけだった。


「・・さて、十二使様が僕に直接何の御用かな」
「用件は至って単純よ。 十二使として旅団に入らないかしら?」
「・・・僕がかぁ」


突然のスカウトだが、彼は悩んだ表情はするものの驚いた様子はない。

スイリは旅団員としての登録はしていた。 ・・・偽名ではあったが。

ただそれは大陸間の移動に有用であっただけで
旅団員として活動してるかと問われればノーだろう、彼は根から情報屋だ。


「旅団十二使ともなれば面白い話沢山聞けるんじゃない?」
「そうだね・・それは僕にとって最大のメリットだね」
「その代わり条件はあるわ。 情報は制限を課して」

「・・敵が居るから、かな?」
「あれは増やしたくない、になるのかしら。 よく分かんないけど。
 ・・・やっぱりよく知ってるじゃない」
「ふふ」

「旅団に義理がないってんなら情報提供ごとにボーナスもあると思うけれど」
「うーん、それはそれで魅力的だけど・・・そうだな、
 旅団長とやらは話の分かる人? 君の意見と周りの意見も聞きたいな」
「・・・やーね、流石情報屋。 人に喋らせるのが上手じゃない?」
「お褒めにお預かり光栄。 本職だからね」





情報屋スイリ獲得に向けて



(旅団長・・そうね、 良い人、じゃない? 話の分かる人だと思う)
(ふむふむ)
(旅団長としても結構長いみたいだし、指示も的確だから信用もある)
(・・・ありがとう。 じゃぁ君に1つ質問ね)

(今度は何なの?)
(『禁術』に関してはどう思う?)
(禁術って・・時空移動? ・・・バカなんじゃない? リスク高すぎ)
(成程、大体分かったよ。 ありがとう。
 ・・今度旅団長とやらと会話する場を設けることは可能かな?)






スイリの十二使スカウトシーン。 ナイアが担当。


スイリ・ミゼル
  魔界出身の情報屋。 当時は24歳くらい・・戸籍上は?
  中性的な顔立ちだが身長は178あるので大体男性かな?って思われる。

ナイアレヴィ・ルヴァス
  十二使『閃雷』の獣人。 当時は多分25歳くらい。
  今回になってようやく喋りと雰囲気が確立してきた気がする。





 

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