創作世界

□まだ見ぬ真を探す者
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会話相手をしていたソブラスが対話時より少しばかり落ち着いた表情をし、
自分の部屋戻るよ、と告げ甲板から離れ、彼が艇の中に戻るのを見送った。

少しだけ一息付いたエルフリーデは、
ショートパンツの後ろポケットに手を突っ込む。

握った手に覆われるほどの小型機械。 手を開けば通信機器。
目的の物はこれのようで、エルフリーデはボタンをカチカチと操作した。

飛空艇の甲板、縁に凭れ掛かる彼女のプラチナブロンドの髪が揺れる。

一定の操作をした後、後ろの右ポケットから
また小さな機器を手に取ると彼女はそれを両耳に引っ掛けた。

左手に持っている機器の中央のボタンを押す。

青空に視線を上げて数度のコールを耳にする。
予想より早く途切れた。


「・・・あ、もしもし メーゼ? うん、私私。 今手空いてる?
 ちょっと、なんて言うの。 ・・・そっちで言う異変? かもしれない、」


メーゼと呼んだ通話相手の声を聞きながら、
彼女は甲板に視線を落として相槌を打つ。

普段はエルフリーデは明るい印象を受けるが、ソブラスとの会話時といい、
メーゼとの会話時といい、真剣な話になるとそう思わせない凛々しさがある。


「え、今? 直近到着ならエンドレー・・・いや、目的地はネージュだけど
 ・・・ちょ、本気で言ってる? え、後10分で着陸すっ・・・
 待って! 今マッハで途中降り手続きするから!!」


・・・その凛々しさを掻き消して、
彼女は眉を寄せてばたばたと慌てて艇の中に戻っていった。







彼女の通話相手だったメーゼ・グアルティエとは、
エルフリーデの高校時代からの付き合いである女性の先輩である。

尚エルフリーデとは学年が2つ離れていたため、
学校生活という意味では1年しか共に過ごしていない。

更に彼女は卒業後、騎士団に行ったため連絡頻度も減り疎遠であった。

メーゼとの連絡頻度が増えてきたのは、ここ1年以内の話だ。
彼女が騎士団をやめ、旅団をメイン活動としたらしい。

メーゼの同級生とは結構な頻度で連絡を取っていたため、
それらの情報が入ってくるのはそう難しくなかった。


飛空艇で慌てて降りる手続きを済ませた後、
貸出されていた部屋に置いた荷物を引っ掴んで甲板に出た。

廊下で通りすがったソブラスが彼女の様子を見、降りるのを察知したのか
「あれ、エルさん降りるのここでしたっけ?」と声を掛けてきた。

「急用!! またねソブラス!」
矢継ぎ早にそれだけ告げて彼女はばたばたと飛空艇を降りた。

・・・そこまで急がなくても飛空艇はすぐ離陸せず、
街に30分ほど停止しているのに。

忙しない彼女が王都エンドレの地に足を付ける。
発着場の出入り口の前で、目当ての人物は待っていた。

高低差のある段差で彼女は座り脚を組んで。
彼女が座っていると蒼く長い髪が地に付きそう・・いやもう付いている?

旅団員特有の大きな荷物を肩に掛けて出てきた、
エルフリーデの様子を視界に入れると、彼女は眉を少し落とし笑みを見せた。


「随分急いで降りてきたのね」


彼女は身を乗り出し、1メートルほどの高さがある段差から飛び降りる。
挫く様子もなく美しく着地した彼女はエルフリーデと向き合った。


「やー、メーゼの呼び出しには急がなきゃって思うじゃん?」
「・・・遅刻すると何かされるとでも思ってるのかしら?」
「いや、別に。 でもなんとなく緊張感がある・・」
「へぇ」

「メーゼが多忙だからかな」
「・・私のせいじゃない?」
「あっはは、いーよいーよ」


あっけらかんと笑うエルフリーデに、
少し困ったように息を吐き出すメーゼ。

彼女はエルフリーデの荷物のチャックが中途半端に開いているのを見た。


「そんだけ急いだら忘れ物してるんじゃない?」
「大事なものは持った!」
「・・・まぁエルフィが良いならいいわ・・」

「どこで話す?」
「支部の執務室で」
「おぉ、初めて入る」
「重要書類多いからあまり触らないようにね」
「ひえ」







大荷物で旅団エンドレ支部に入ってきたエルフリーデを見て、
受付の者が一時的に預かってくれるとのことで荷物を差し出す。

荷物がなくなりすっきりした肩周りに、
彼女は首を回しては「肩凝ったー」と肩を振り回す。

王都エンドレの旅団支部は3階まで存在する。

受付スペースの1階を通り過ぎ、
大体会話するスペースや資料の置いてある2階も通り過ぎる。

3階まで上がれば旅団員の休憩スペースとなっており、
街の喧騒とも距離があるため静かだった。

滅多に人が通るところを見ない細い通路に入る。

直角に2度ほど曲がると通路よりは広い空間に出て、
壁に扉が1つ、ロック解除キーが1つ。

メーゼは鞄から十二使証を取り出すと解除キーに押し当てた。

扉の鍵が外れたらしい音、メーゼはそのまま扉を開けて部屋に入る。
エルフリーデも、靡く蒼い髪の収まった背を追いかけた。

焦茶色の家具で統一されたシックな部屋は執務室らしさを感じさせた。

書類等の作業は奥にある机でやるのだろうと想像が付いたけど、
メーゼはそこまで歩かず、その手前の壁に寄せられていた
背もたれなしの椅子を2つ引っ張ってきた。

それぞれ椅子に腰を下ろし、向かい合うように。
メーゼはそのまま脚を組んだ。


「で、内容は?」
「うーん・・どっから話せばいいかな・・・
 ・・去年、さ アニティナに向かう飛空艇である旅団員と会ったのよね」


エルフリーデはそこから順番に語った。

その旅団員が、記憶と現実が食い違っているのだと。

アニティナ出身だと思っていたのに、
町長宅で出生一覧確認したら自分の名がなかったのだと。

高校はエルフリーデやメーゼと同じレーシュテア高等学院を
卒業したはずだが、卒業アルバムに自分の姿はなかったのだと。

怪訝そうな表情で話を聞くメーゼは悩む表情をした。


「・・その旅団員の名前は?」
「ソブラス」
「ファミリーネームは?」
「・・・ついさっき会ったのに聞き忘れた・・・」

「あのねぇ・・・ 男性?」
「男。 私より年上っぽかったよ。 ・・・あー、メーゼよりも上、かな」
「30くらいかしらね」
「多分? や、私外見から人の年齢当てるの下手だから信用なんないかも」

「まぁそれはどうにでもなるんだけど。 彼、他に何か言ってた?」
「・・・旅団の手続きは正式に受理されていて、
 後、過去の記憶は人並みだろうって」
「・・そう」


彼女は一度目を伏せると鞄からタブレットを取り出した。
組んだ脚、太腿の上にタブレットを乗せ何やらかの操作を繰り返す。

・・・辛そうな表情を見た。
原因が分かるまで、彼は怯えた日を過ごすのだろう。

この時間は本当に現実なのか。
この間の出来事は本当に現実なのか。

今まで過ごしてきて、過ごしてきたはずなのに。
ある日突然、自分の記憶は偽物だったなんて知ったら、


「思い出せないのではなく、代わりがある辺り周到ね。
 実在するものと混ぜられたらリアリティあって疑えない」


偽りの記憶の原因を暴いて、本当の記憶が戻ったとして。
真実は残酷なのだろうと思った。

ある時間を隠蔽するだけなら、たった1つの何かが原因だったのであれば、
その期間だけを埋めればよかったはずなんだ。

とある短期間を思い出せないだけなら良かった。
それはその人の人格を、心を守るための人としての本能的な措置だから。


「メーゼは、さ 原因が特定できたとして、
 記憶をソブラスに戻せるとしたら叶えてあげたい?」
「・・・個人的には、 本人の意向であっても伏せたいわ。
 気持ちは分かるけれど、普通に過ごした記憶であるならば尚更伏せる」
「・・だよね」

「十二使としては、明かさなければならない対象だわ。
 そのままでは置いていられない」
「・・・・まぁそうだよね、 そうなるよね」
「・・心配かしら?」
「・・・まぁ、多少は。 ・・・良くない想像くらいは付くよね」


忙しなく飛空艇を降りてきた時とは様子とは一変し、
エルフリーデは紫色の瞳を細めた。

決して明るいとは言えぬ表情に、メーゼは藍色の瞳を一瞬上げて。
再度視線を落とし、タブレットの操作を再開する。


「・・・メーゼは何やってんの?」
「調査手伝いたいとこだけど、今私の方で案件立て込んでて多忙なのよね。
 だから代わりに調査押し付けられそうな人を探してる」
「押し付け」


タブレットで十二使のスケージュール帳を開く。
今後の滞在予定、その予定の重要度が半年記されている。

流石に6ヶ月先の予定がギッシリ埋まっているということはないが、
ある程度直近で動けそうな人物の判断くらいは可能だ。

記憶系の調査に手伝ってくれそうな人。
それでいて、傷を抉らないだろう人。

・・・スイリ、はあれはあれで忙しい、負荷掛けるのは良くないな。
クロウは・・いや、今はまだ呼ばない方がいいだろう。

ミーザ、は 春に任務あったばかりで十二使としてはある程度は暇そうか。
・・・・この手の話なら、意外と彼が適任か。


「・・・ミーザ、かな」
「誰?」


エルフリーデの高校時代の先輩、メーゼ・グアルティエ。
彼女は旅団ともあろう組織の幹部だった。





まだ見ぬ真を探す者



(信用ある人に任せるから、大丈夫)
(あぁ、いや それは心配してないんだけども。 ・・ありがとね、メーゼ)
(こちらこそ報告ありがとう。 ・・もしかしたら、
 私も彼の話題を埋めた一因かもしれないしね)
(?)

(今の話だと彼が記憶に気付いたのは去年の6月でしょう。
 ・・ちょうど私が十二使就任がどうとかで話題が挙がってる頃だわ)
(・・・あ、成程。 他の話題で掻き消されたってこと?)
(かもしれない、 そうでなくても去年6月は何かとあったみたいなの。
 ここまで不自然な話、異変を流すなんてって思って)
(はー・・十二使の方もいろいろあるんだねぇ)






ソブラス案件、実はメーゼが介入してた。


エルフリーデ・レヴェリー
  アニティナ出身レーシュテア卒業の旅団員『双重』
  討伐依頼時は1人のことが多いけど、それ以外は人とよく会っている。

メーゼ・グアルティエ
  ナディ出身レーシュテア卒業の旅団十二使『夜桜』
  エルフィの先輩、元騎士団部隊長、闘技大会世界1位。 武勇伝が凄い。

ソブラス・ヘリッヌ
  アニティナ出身レーシュテア卒業・・という記憶の旅団員。
  実際は出身も卒業も分からない。 1人で居ることが増えた。





 

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