創作世界

□彼は立場ゆえに無知
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第9部隊長ランドル・プルーデンス仲介の元、
就任したばかりの第3部隊長メーゼ・グアルティエが
シオリビア第一王子と接点を持ってから幾日か経った。

初日以降は就任直後のメーゼが多忙であったため、
顔を合わせたとしてもほぼ通りすがりの挨拶のみで済んでしまっていた。

2度目となる一定の時間を得た会話の始まりは、
シオリビアの自室に響いたノックからだった。


「夜分に失礼します、シオリビア王子。 今晩はお時間あるでしょうか」


名乗りこそしないが凛とした女の声は、最近妙に聞き覚えがあった。

分厚い本を広げたテーブルから顔を上げ淡い紫色の髪が揺れる。

少年と呼べる幼い顔立ちにも関わらず、
ろくに表情が出ない様子は年齢不相応だと読み取れる。

数秒の間、シオリビアは室内の扉の前に待機していたメイドに顔を向けた。


「開けてくれ」
「承知いたしました」


この部屋で行われた数十分ぶりの会話だった。

中年のメイドが扉を引きノックした人物を出迎えた。

鎖骨ほどまで蒼い髪を伸ばした女性は、
胸元に手を当てお辞儀をすると端正な顔を上げる。

今まで部隊長制服であったがゆえに、それらのマントや指定服でない
私服と呼べるだろう彼女の格好は珍しいように思えた。

第3部隊長に就任したばかりの19歳、
メーゼ・グアルティエが室内に立ち入るとメイドが扉を閉めた。

彼女は扉の開閉をしていたメイドに視線を向ける。


「・・世話係の御方?」
「いえ、お茶をお持ちしただけのしがないメイドでございます」

「普段から傍で待機しているのでしょうか?」
「そうですね、就寝まで王子の様子をお伺いする決まりに」
「成程。 ありがとうございます」


度々誰かの出入りがあるのか、部屋の主が向かっているテーブルには
誰も座ってない椅子がもう1つ入り込んでいた。

シオリビアは表情の変わらないまま、
口を開かぬまま向かいの空いた席に座るよう促す。

メーゼは王子に向けて1つ会釈をしてから椅子を引いた。
座る際に開かれていた本に視線を向ける。

思ったより文字がびっしり埋まっていた。
逆さになっていながらも文字を追う。 ・・・政治関連の本か。

丸テーブルを挟んで向かい合う2人の様子を見たメイドが、
話を挟みづらそうにおずおずと口を開く。


「席を・・・外した方がよろしいでしょうか?」
「王子、どうされます?」
「・・・どちらでも」
「聞かれて困る話もしないので、お仕事しやすい方で」


王子の確認を挟んでから回答を述べたメーゼに、
メイドは申し訳なさそうに小さく頭を下げた。

メイドは扉の前に待機し直し、2人の様子を静かに見守る。

本に視線を落としていたシオリビアがふと顔を上げ、
向かいに座るメーゼの衣服に視線を向けた。

紺色の半袖Tシャツに、左腕に巻かれた白い包帯。
扉の前で見た時は彼女の細い脚が映えるスキニーパンツだった。

腰に巻かれた上着に挿すように、彼女の愛用であろう長剣が視界に映った。

武器を見るのはそう珍しくないが、
自分の部屋に武器が存在するのはどこか違和感が生じる。


「・・・初めて見る姿」
「この時間にもなれば部隊長も仕事を終えるので。
 堅苦しいので少々脱いできました」


眉を下げて笑みを浮かべるメーゼに、シオリビアは幾度かの瞬き。


「・・・メーゼ」
「なんでしょう?」
「敬語」


端的な指摘に今度は彼女の方が瞬きを繰り返した。

それまで敬語を使い話していた上で指摘をしたということは、
「外せ」の意だろうと想像が付いた。

初対面時に普段通りの話し方で構わないと、
王子直々に言われていたのをメーゼも覚えている。

彼女はそれから目立った表情はしないものの、
一瞬だけ扉の前に待機するメイドへと視線を向けた。


「・・第三者の前ですけれど・・・」
「ランドルは気にしない」
「彼を基準に出されてもなぁ」


呆れたように少し息を吐き敬語のない彼女の素が垣間見える。
メーゼは観念したのか目を伏せて手の平を彼に見せた。


「・・・分かった、公的以外ではそうするわ」


その返答に納得したのか、表情では判別ができないが
彼が会話が一区切り付いたかのように視線を再度本に落とした。

本の脇にはメイドが用意したと思われる
ティーポットと空のカップが置いてある。


「とりあえず今日はシオンのこといろいろ聞きに来たの」
「・・俺の?」
「そう。 適当に質問するから答えてもらえる?」


彼女の問いにシオリビアは静かに頷く。

メーゼは「そうねぇ」と一言、悩むように手を顎を当てると
向かいに座る彼をじっと見つめた。


「城内でよく話すと言える人は?」
「・・・ランドル、ダール。 ・・次点父上」
「騎士団の鍛錬の様子を見たことは?」


その問いに彼は首を横に振った。


「試合形式も見たことがない?」


その問いに彼は頷いた。


「ふむ・・騎士団に興味はある?」
「・・・・」


すぐに反応はなく、シオリビアは無表情のまま黙り込む。
しばらくして彼は首を傾げた。


「城下町を散策したことは?」


その問いに彼はまた首を横に振った。
予想以上に彼の知る範囲が狭い。


「・・・もしかして城のコックが作ったもの以外食べたことない?」


もっと切り込んだ方がいいか、と否定期待混じりに投げた質問だった、
・・・にも関わらず彼は頷いてみせた。

彼女は呆れたように重く1つ息を吐いた。

予想以上に、彼の世界が狭い。
これはランドルさんも気にかけるわけだ。


「・・・今すぐ王子の世話係呼び付けてほしいくらいね」
「居ない」
「・・ちょっと意外な回答だな。 メイドの名前は言える? 誰でもいい」


その問いにも彼は首を横に振った。


「言えないか」
「名乗られない」
「・・成程ね」


腕を組んだメーゼが沈黙数秒、待機するメイドの方へと視線を向けた。
会話を聞いていたメイドはその視線に気付いて思わず目を合わせた


「王子を放任にはしないと思うから聞きますが、王子の面倒は交代制?」
「はい、特定の者が担当しているということはございません」
「王子に名乗ったことはありますか?」
「・・・初対面以降は、ありませんね・・・」

「他のメイドもそんな感じですか?」
「恐らく、」
「・・そりゃ覚えられなくて当然ね」
「・・・」


薄く笑みを浮かべたメーゼがシオリビアに視線を向けた。
仕方ないと言わんばかりの雰囲気に何を返すでもなく無言を貫く。


「質問戻ろうか。 本は読む?」
「・・・政治、法関連なら」
「小説は?」


その問いにも彼は首を横に振った。


「何冊か見繕ってあげるわ、近々持ってくる」


不思議そう、といっても彼の表情は決して動かないが。
シオリビアが彼女に向けて顔を上げた。

シオリビア第一王子、11歳。
成長期もまだな彼に、女性と言えど8つ年上のメーゼの背は高い。

彼の不思議そうな様子を察したのか、
彼女はシオリビアの瞳をじっと見つめた後にゆっくりと口を開いた。


「貴方の将来は何?」
「・・アルヴェイトの民のため政治を回す王」
「貴方の価値観は何?」
「・・・?」

「言い方が悪かったわね。 貴方は物知りだと自負できる?」
「・・・」
「民のために物事を考えるべき王が、国と民を知らないのはどう思う?」
「・・・まずいと思う」


シオリビアの回答に、メーゼは少しだけ笑みを見せた。


「とりあえずはいろんなこと知って触れてみなさい。
 興味あるものは可能な限り持ち込むし、
 どこから興味持てばいいか分からないなら適当に見せてあげるわ」





彼は立場ゆえに無知



(うお、シオン珍しいとこ居るな)
(・・・メーゼに連れてこられた)
(なんでまた)
(騎士団を見ろと)

(まぁ私に任せるとこうなるわね)
(思ったよか展開が急速だなぁ。 お前さんに頼って正解だったかもしれん)
(閉鎖的すぎよ、ランドルさん貴方ともあろう人が今まで何してたの?)
(耳が痛い。 いやー幼いもんのことはよく分からんのよ・・)






騎士団組を底上げしたくて


シオリビア・アルヴェイド
  創作世界っつーか私の創作初のまともな王家血筋キャラのはず。
  当時11歳。 色素の薄い髪、昔の方が無表情。

メーゼ・グアルティエ
  第3部隊長に就任したばかりの19歳。 女性。
  彼女は高校2年3年の間に政治辺りに手を出した。





 

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