創作世界

□歩み始めた一生徒
1ページ/1ページ






「特戦科1年のメルド・ラボラトーレといいます!
 メーゼさん! 俺をっ、弟子にしてください!!」


少しだけ切らした息を肩で整えながら、ばっと下げられた頭。
後頭部でちょんと短く括られた髪が逆さになり自らの頭部に掛かっていた。

ばくばくと鳴る心臓、グラウンドの土に視線を落とす。

ひゅぅ、と微かに左側の頭上から口笛の音がした。

メルドから見て左側にディス、右側にメーゼが立っていたから
きっとディスの口笛なのだろう。

口笛を吹いた当人の彼はメルドを見て少し驚いた様子だった。
メーゼは沈黙数秒、浅くゆっくりと息を吐き出した。


「・・・断るわ」
「なっ、」


沈黙こそあったものの彼女から悩んだ時間は感じられなかった。

自分を鍛えがいのある奴だとは思ってはいないけど、
ほぼ即答と言える返答にメルドは顔を上げた。

メルドはあまり背が高い方ではないからか、
女性であるメーゼに対しても見上げる形になる。

端正な顔立ちに藍色の瞳がメルドの姿を捉えていた。


「気に病まないでほしいのだけど、貴方が悪いというわけじゃない。
 元々弟子は取らない主義なの」


戦闘習い始めたばかりのような若い子は特に、ね。

付け加えるようにして呟くメーゼは平然とそう告げた。
それは、彼女なりの信念といったものも感じ取れる。

志願からの断りに、メルドはぐっと奥歯を噛みしめた。


「・・・〜っ、確かに俺は戦闘を習い始めたばかりの初心者だし、
 不器用で物事を覚えるのも他の人より遅いです!」


引き下がりきれなかった。
あまり気が強いわけでもなく、主張するタイプでもなかった。

だからこうして、食い下がったのは記憶の限りでは初めてな気がする。


「学年トップだとか、大会で1位だなんて無謀な高望みはしてません!
 ただっ、戦えるようになりたいんです・・・! お願いします!」


そう告げて彼は深く頭を下げた。
必死そうな声は気迫も感じた。

食い下がった彼の言葉を耳に留めたまま、
メーゼは頭を下げたままのメルドをじっと見つめた。

彼女は表情が頻繁に変わりはしないため、
口を噤むメーゼが何を考えているのか想像が付きづらい。

硬直、沈黙、静寂。 校舎からの喧騒はどこか遠く聞こえる。

返事のない時間は、緊張する。
握り拳も、肩も微かに震えていた。


「・・・だってよ、メーゼ」
「聞いていたわ。 ・・・メルドって言ったわね」
「は、はい」

「1つ聞く。 そこまで声を張り上げたのは何年ぶりかしら?」
「えっ。 え? えっと・・・いつだっけ・・・」
「・・思い出せないならそれでも構わないわ、よく分かった」
「??」


どういう、と言いかけた口を噤んだ。

背後から遠巻きに響いた「おーい、メルドー!?」と
自分の名を呼ぶ声に遮られた。

振り返ればメルドの同級生であるゼーヴァと、
メルドを探しに戻ってきたらしい先生が1人付き添いで居た。


「えっ、あっ、あ、どうしよ・・・!」


そうだった、授業終わりなんだった。 校舎に戻らないと。
いや、でもせっかくメーゼさんを捕まえて話していたのに。

どう動いていいのか混乱したメルドは、
呼びに来たゼーヴァと呼び止めたメーゼを交互に見合わせた。

メルドの前に旅団員2人残ってることに気付いたのか、
大声で呼びかけたのは1回きりで、ゼーヴァと先生はメルドの方へ近付く。

近付く者に視線を向けて数秒。 メーゼがゆっくりと口を開いた。


「・・・昼食は普段どうしてるの?」
「あ、俺寮生なので・・・」
「あー、寮生バイキングか」


最後まで回答しなかったにも関わらず、
寮生の一言で納得したように答えたディスにメルドがこくこくと頷く。

そういえばこの2人、レーシュテア卒業生なんだった。
道理で学院制度に詳しいわけだ。

ゼーヴァと先生が、立ち話していた3人の元に駆け寄った頃。
「・・・そうね、」と口を開くメーゼに全員の視線が集中した。


「昼食は奢ってあげるわ。 その代わりしばらく付き合いなさい」
「はい!?」
「おっ?」

「先生、この子借ります。 5限には返すので」
「はいはい、お気をつけて」
「え゛」


昼ご飯、昼休みに差し掛かるとは言え
こんなにアッサリ外出の許可が下りるのか。

確かに旅団員などの戦闘員が居ないと学院から出ることはままならないが。

・・・旅団員の人が付いているから・・・ということだろうか。

肘に小突かれて視線を向ければメルドより
幾分か背の高いゼーヴァがこちらを見ていた。

彼は声量を抑えて口を開く。


「・・・で、メルドおめーは一体何やらかしたんだよ」
「え、えーっと・・・・その・・・で、弟子入り志願?」
「・・・!?」

「メルド、行くわよ。 アニティナまで歩くから」
「あっ、はーい!」





歩み始めた一生徒



((なんでだろう・・・凄くディスさんに見られてる・・・))
(・・・・)
(え、えっと・・なんですか・・・?)
(え、測定? メーゼの真似)

(・・・? ・・・??)
(メーゼは誰が見てもやばい奴だけど思うより怖くないから大丈夫だぜ)
(!)
(聞こえてるんだけど)






諦めなかったことが良い結果に繋がったパターン


メルド・ラボラトーレ
  気が強いわけてもなく主張が激しいわけでもなく、
  寧ろ弱気っぽい面が伺えるレーシュテア特戦科1年。 兄が居る。

メーゼ・グアルティエ
  主張は通す方。 在るべきものが在るように。
  十二使『夜桜』 兄が居るけれど滅多に会わない。

ディス・ネイバー
  間違ってるって思ったものには指摘する。 後は円滑に。
  一般旅団員だがメーゼのせいで意外と旅団事情は詳しい。 兄弟は未定。

ゼーヴァ
  メルドの同級生。 気が強い、というよりは積極的。
  兄弟姉妹に関しては未定。 身長は171、メーゼと並ぶ。





 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ