創作世界

□運命の始まりと邂逅
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生まれた時から与えられた自分の使命は、
幼いながらに教えられていたから知っていた。


街道を歩き、森に差し掛かったところで見た大きな建物。
レーシュテア高等学院の門の前に差し掛かり、彼は足を止めた。

若い顔立ちに黒い髪、覗かせる碧眼は落ち着いた色をしている。
耳へのピアス、首に掛かっているネックレスと装飾が多いと伺える。

長袖の黒い衣服は彼の肌を大半覆い隠した。

腰のベルトにはチェーンがチャラチャラと付いており、
左側には剣が2本上下に並ぶように挿してある。

ネオルカ・ジーヴェは目の前にある門を一目見、1つ息を吐き出した。

初めて訪れたレーシュテア高等学院。
街道沿いの建物だが、周囲には林があるようで学院周辺も木々が多い。

『案内人』はレーシュテアの学院長という話だった。
・・・だから、まずはその人物に会いに行かねばならない。

学院の案内板でもあるかと門の内側に立ち入る。

校舎に続く整備された地を見つめ、
ふと人の声が響く右手側へと視線を向ければすぐにグラウンドがあった。

特戦科の授業中だろうか、生徒がグラウンドを駆けている姿が伺える。

反対側、左側に視線を向ければ花壇だった。
植えられた花は荒らされずに綺麗な形を保っている。

視線を正面の方に向ける途中に、視界が人を1人拾った。

柔らかく優しい夕日のようなオレンジ色をした長い髪の制服の女性が、
じょうろを右手に花壇の前に立って水やりをしている後ろ姿。

女生徒を呼び止めていいものか迷いはしたが、
今呼び止めるのも少々悪いだろうか。

女生徒に声を掛けない方向で校舎へ続く道を踏み出し、歩き出す。
砂利を踏んだ音が響いたのか、その女生徒はネオルカの方へと振り返った。

ネオルカが学院の生徒でないことは立ち姿を見て一目で分かっただろう。


「あら、どうかされました?」
「あー・・・メジスト高等学園の生徒なんだが。
 学院長室に向かいたい。 どこにある?」
「あ、ご案内します。 少しお待ちくださいね」
「助かる」


水やりを終えたらしい彼女はじょうろを花壇脇に置くと、
長いオレンジ色の髪を揺らし、校舎に手の平を1つ向けた後に歩き出した。

レーシュテアの制服は幾度か見たことがあった。

普通科も特戦科も男女共にブレザーであるが、
ブレザーのカラーリングと形が普通科特戦科で変わるはずだった。

目の前に居る生徒の制服、記憶では。


「その制服は・・普通科か?」
「はい、普通科1年のフィアナ・エグリシアと申します」
「・・ネオルカ・ジーヴェ。 メジスト特戦科2年だ」
「これはご丁寧に」


柔らかく笑みを見せ、フィアナと名乗った彼女は綺麗な翡翠の瞳を細めた。
ご丁寧に自己紹介してくれたのはどっちやら。


「今日は何故この学院に?」
「人探し、かな」
「人探し。 ・・生徒さんですか?」
「多分ね」


曖昧で不確定な話にも関わらず、フィアナは頷くように相槌を打った。

校舎内に立ち入り、奥の方にある棚に
来客用のスリッパがあると言われたネオルカはそちらに向かった。

ネオルカがそれを見つけ出して履き替えてる間に
彼女は学内用の靴に履き替え終えたようで彼に近付いた。

それらを終えるとフィアナは「こっちです」と案内を再開し、
学院長室へ続くらしい学院の廊下を歩いていった。

彼女の背を追い歩く見慣れないレーシュテア高等学院内。

そこそこ伝統ある学校のはずだが、
建て替えもあったのか学内は綺麗なように思う。

フィアナは自身の少し後ろを歩くネオルカにふと視線を向けた。


「偏見だったら申し訳ないんですけど、
 ネオルカさんは悪魔種族の方ですか?」
「正解」
「わ、当たった」

「偏見通りの見た目してるだろ」
「悪魔種族の方は黒を好む人多いですものね」
「フィアナは人間?」
「正解です」


笑って答えたフィアナがある扉の前で足を止めた。

学院長室と書かれたプレートの下げられた扉を指し彼女は「こちらです」と。
そして扉に数度のノックをすると、扉越しに「どうぞ」と男の声が返った。


「失礼します」


ゆっくりと扉を開けて、学院長室に身体半分覗かせるフィアナ。

ネオルカはそれを後ろから眺めていたので学院長の姿は見えなかったが、
室内はそこそこ立派で、男の声は学院長相応の年齢な気がした。


「メジスト高等学園から、ネオルカ・ジーヴェさんがお会いになりたいと」
「あぁ、来たか。 お入り」


フィアナは扉の取っ手を引き、ネオルカが入れるようにスペースを作った。

彼はゆっくりと歩き、学院長室に足を踏み入れた。
40ほどと思しき男性は穏やかな表情でこちらを見据えていた。


「ようこそ、レーシュテア高等学院へ。
 学院長のリクリー・クロシェットだ」


穏やかな表情なのにどこか威厳を感じる。
・・・実力者だ。 そういった強者へと対する勘が働いた。

リクリーと名乗った学院長はにこりとネオルカに笑みを浮かべると、
扉の前で待機していたフィアナに視線を向けた。


「彼の案内ありがとう。 君は1年だったかな」
「はい」
「クラスは?」
「Bクラスです」

「同じクラスにルーエ・ディ・ティエルが居るだろう。
 学院長室まで来るように呼んでくれ、頼むよ」
「承知いたしました。 すぐにお呼びしますね」
「あー・・案内ありがとな」
「ふふ、どういたしまして。 失礼します」


頭を下げて学院長室から出た彼女は扉を閉めた。
廊下越しだが彼女のものと思しき歩が遠くなっていくのが分かった。

・・・一学院の長と2人きりで室内に残され静寂が落ち着かない。
しかも初対面だ。 1世代違うくらいに年齢も離れている。

床に視線を落として頭をがしがしと掻いたネオルカは「あー」と短く呟いた。


「・・・案内人が学院長という話は聞いていたが」
「ふむ?」
「学院長が案内人である理由は知らない」


学院長は質問を聞き届け、頷きを1つ見せると
机の上にあったらしい紙に視線を落とした。

一拍空いて、彼がゆっくりと口を開いた。


「俺の娘がね、『十字』なんだよ」
「・・・!」
「でも『君達』よりずっと若い、まだ10かそこらだ。 だから橋渡し役」

「学院長自身に、関連する力は」
「残念ながらそれらへの直接的な力は俺にはないよ。
 でも地位ゆえに協力できることもあるだろう」
「・・・」
「例えばまだ見ぬ片割れの呼び出しとか」


リクリーの娘が十字、彼に直接的な力はない。
そこまでの情報を落とし込んで、学院長の最後の一言にも頷いた。

案内人たる学院長の学校に片割れが居るのは、
偶然か、意図的か・・はたまた運命か。

少し悩む表情を見せたネオルカに、リクリーは笑いかけた。


「いくつか椅子が置いてあるだろう。 掛けて待ってくれ」
「・・・」
「細かいことは2人一緒の時に話すよ」
「・・はい」


学院長の言う通りに椅子を引っ張ってきて、部屋の端に腰を下ろした。
彼は書類と思われる紙を不定期に捲っている。 執務中だ。

紙の音が不定期に、窓越しに特戦科授業中と思われる声。
それ以外の音はほとんど聞こえない静寂の学院長室。

数分もすれば学院長室にノックが響いた。
女の声、名乗りも共にあった。 ・・待ち人。

学院長の促しでそいつは室内に入ってきた。
腰ほどまで伸ばした金髪と、レーシュテア特戦科の制服。

彼女はネオルカの顔を一目見ると、少し驚いたような顔をした。


「揃ったね」


リクリーは椅子からゆっくりと立ち上がるとネオルカを一目見、
そして今しがた室内にやってきたルーエへと視線を移した。


「君とも直接的な会話は初めてだね」
「えぇ・・」
「改めて自己紹介をしよう。 レーシュテア高等学院、学院長、
 そして君達の『案内人』リクリー・クロシェットだ。 よろしく頼む」


・・・どこか緊張感に満ちた自己紹介だ。





運命の始まりと邂逅



(・・レーシュテア特戦科1年、ルーエ・ディ・ティエルです。
 主に召喚術を扱う天使種族の『光』、です)
(メジスト特戦科2年、ネオルカ・ジーヴェだ。
 ・・・呪われた品を与えられた悪魔種族の『闇』だよ)

(先ずは、若くして責任の重い使命への重圧、心中お察しする。
 核は君達でしか成しえないが協力は惜しまない。 なんでも相談してくれ)






ひたすら枷が凄いLD組。


ネオルカ・ジーヴェ
  六剣『壊』を腰に携えたメジスト高等学園の特戦科2年。
  戦闘時はできるだけ何の変哲もない剣を使っている。 闇属性。

フィアナ・エグリシア
  花壇に水遣りしていたレーシュテア高等学院普通科1年B組。
  ルーエとはちょくちょく喋る。 ある程度ウマが合う。

リクリー・クロシェット
  『案内人』のレーシュテア学院長。 40くらいだったと思う。
  まともに喋らせたの今回2回目で喋りに迷っている()

ルーエ・ディ・ティエル
  レーシュテア高等学院特戦科1年B組。 ネオルカの片割れ、光属性。
  天使だから召喚術が使える、というわけではなく家系的な珍しい奴。





 

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