創作世界

□魔術師求めて上の階
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とりあえずは紹介されたナツキという男性魔術師に声を掛けることになった。
カウンターから離れ、対応してくれた受付の女性に礼を一言。

階段を上がりきり、左側の壁に並んだ資料の収まった本棚。
いくつかのテーブルとソファの並んだ2階では何人か人が居る様子だった。


「ナツキさんっていらっしゃいますー?」
「おっ、はい!」


2階に居る人に声が届く程度の声量で呼びかけたカデンに、
1人の男性からソファからガタリと立ち上がった。

青みがかった黒い髪を揺らした男性。
魔術師と聞いていたわりには背が高い。

体格は流石に大剣を扱うディスの方が身体はガッチリしているが、
身長だけならナツキの方が高いように見える。

恐らくこの方だろうと、彼が座っていたソファにまで近付くと
テーブルの上は紙で散乱していた。 何やらかまとめていたように見える。


「初めまして、旅団員のカデン・アガフィアと申します」
「同じくディス・ネイバーです」
「おおお、ご丁寧に。 ナツキ・カシュナータ言います」


名乗った後に会釈をした2人を見て名乗るナツキ。
フルネームを聞き目当ての人がこの人だろうと確信した。

喋りは少し訛っているだろうか?
どこかの地方にこんな訛りの場所があった気がする。


「少し時間もらっていい?」


ディスの言葉に一瞬きょとんとしたナツキだったが、
彼は「ちょい待ってね」と言うとテーブルに広げてた紙をまとめ出した。

ちらりと覗き見れば建物や風景の写真付きの字の羅列が多いと感じる。
カデンが驚いたように感嘆の声をあげた。


「凄い量ですね。 調べ物ですか?」
「そんなとこやね、俺一応ジャーナリストなんよ」


旅団員と他の職を兼業するのはさして珍しくはない。
ただジャーナリストに出会ったのは初めてだったようで興味深そうに頷いた。

紙を粗方まとめて端の方に置くと「座りー」とナツキが促してくれ、
2人はナツキの対面に座る形でそれぞれソファに腰掛ける。

背負っていた大剣、左腕に抱えていた弓は
それぞれソファに掛けたり、足元に置くなどした。


「えっと、ナツキさんは警戒令出てる森を
 抜けるのを諦めたと受付から聞いたんですけど」
「急ぎだったとの話も聞いてます」
「あー、大型なぁ」


悩みの種であった話題が挙がり心底困ったようにナツキは重く息を吐き出す。
ソファの背もたれに背中をくっつけ、腕を組み悩ましげな表情。


「俺さっきジャーナリスト言うたやん」
「はい」
「聞きました」

「ジャーナリスト言うてもわりと細分化されとってな。
 そん中でも俺は文化系っつーか、名所の文筆を主にしとって」
「あ、だから資料が建物とか風景とか?」
「ぴんぽーん」


テーブルに散らかっていた資料の意味を理解し、
発したディスの言葉に、指をさし正解音を口にするナツキ。

それからクイズでも出すかのように、
彼は人差し指を立てた右手を空中をくるくると回した。


「森の中にある名所といやー渓流やけど、森抜けた先で名所。 さぁどこや」
「ネビミスとか?」
「ぴんぽーん! というわけで次はネビミス記事にする予定やねん。
 で、記事書く期限がまぁまぁ迫ってて」
「あぁ・・・」


続いて名所の問いにもディスが答えた。

記事の期限が迫るとの言葉を聞いた瞬間、
2人が察したように苦笑いを浮かべた。


「あれ書きたい! はよ行かな! 意気揚々と報告したら警戒令出とるやん?
 はー・・・迂回しよーにも森まぁまぁ広大やしどうしようかおもーて・・」


ソファに座り曲げていた膝に両肘を付き、指を組む彼は
傍目でも分かるほどどんよりとした空気を醸し出し肩を落とした。

だから彼は急ぎだった、の話になるのか。
納得したように頷くカデンはふと思い出したように顔を上げた。


「俺ネビミス行ったことないや、霧凄いんだっけ」
「いやー、凄いで。 早朝とか真っ白やもん」
「ちょっとした異空間を感じられるよ」
「凄そう」


ナツキとディスは行ったことがあるようで、
それぞれネビミスの街の感想を述べる。

霧の街で知られるネビミスは王都ラクナーベルよりずっと北にあり、
山の中にあるゆえに飛空艇の着陸も不可能で通行手段がかなり限られている。

そういった会話にも気軽に乗ってくれるナツキは朗らかな印象を受ける。

受付の女性が言ったように確かに大変気さくな人だ。
気が合うんじゃないかと予想した彼女の言い分も分かる気がした。


「で、何の話やっけ?」
「あ。 俺ら、森抜ける予定なんです」
「・・・んん?」

「抜けるついでに大型の位置誘導できねぇかな、って話してて。
 2人は心もとないな、って そしたらナツキさんの名が」
「魔術師だって聞いています。 よかったら、どうですか?」
「・・・その発想はなかった・・・」


ナツキはうーん、と頭を抱え悩ましげな唸りを見せる。
眉を寄せ「ちょい待ってな・・」と告げる彼はかなり渋っている様子だ。

頭から手を離しはしたもののその表情はあまり変わらず。


「・・・俺な、大型魔物との遭遇経験ないんよ」
「あっ、それに確かに不安抱えられる・・・」
「確かに渋るなぁ」

「そっちは?」
「2、3回経験あります」
「俺は1回だけ」
「え?」


ディス、カデンと順に返事して行き、カデンの回答に首を傾げたのは、
質問したナツキではなく隣で聞いていたディスだった。

驚いたように瞬き繰り返される赤紫色の瞳。


「そうだったん?」
「言ってなかったっけ? 飛行種の翼撃ち抜いたって話」
「初耳なんだけど。 めちゃくちゃ大仕事じゃん」
「強いなぁ」


弓持っとったもんな、と聞いたナツキにカデンは頷いた。
彼の武器である弓はソファに立てかけるようにして置かれている。

ナツキに大型魔物の経験がないことを知った2人は少し悩ませる。

経験がない、というのが悪い点ではなかったが、
初めて大型魔物を見た時には気が怯むものだ。

それが怪我や死に繋がりかねないことを2人は知っていた。

少し考えた表情を見せるカデンが、顔を上げてナツキを見た。


「ナツキさんって普段特定の誰かと行動してたりします?」
「特定の誰かかー、一番多いのは妹ちゃうかな」
「妹さんですか?」

「そそ、ナイフと銃で近距離中距離身軽に動くねん。
 大学特戦科出とるから頼りになるでー」
「成程。 ディスとは逆だな」
「速度犠牲威力重視」
「あぁ、大剣背負っとったもんな。 確かに彼威力凄そう、筋肉あるし」

「・・妹さんはどちらに?」
「今はちと別行動しよる。 俺が仕事しにこっち来たからさ」
「あ、成程。 それは残念で・・」
「んー、妹さん巻き込みたかったけど無理そうだな」


妹の所在を聞いてはみたものの、アテが外れ悩んだ顔を浮かべるディス。

妹の話を聞いていたカデンは悩むというよりは、
どこか穏やかな表情をしており、少し面白そうに口を開いた。


「こう言ってはあれかもしれませんが」
「んー?」

「ナツキさん明るい人だから、妹さんも愉快そうなイメージです」
「おー、兄妹で楽しくアホやっとるよ」
「アホやってんの?」





魔術師求めて上の階



(ナツキさんはどんな戦い方されるんです?)
(主なんは水魔術やけど、4属性くらいは人並み以上に回せるで)
(えーっ凄いじゃないですか!?)
(はっは、悲しいことに器用貧乏やねん・・・)
(いやいやいや)

(1属性しか使えないよりはずっといいと思うな、
 選択肢多いってことじゃないすか)
(おーきに。 あっ、逃げ足はちょっと自信あるで!)
(あ、いけね。 俺置いてかれそう)
(頑張れカデン)







ディス・ネイバー
  俺の知ってる兄妹とは違うなぁと思っている。
  思ったより気さくな人で敬語使うべきかどうかでかなり迷っている。

カデン・アガフィア
  敬語でナツキに話しかけてたら大体彼が発言してる。
  弓使いだからソロ行動の頻度が少ない。 だから行けてない街もままある

ナツキ・カシュナータ
  ナイフと銃で戦う大学特戦科卒業生の妹は既に創作世界登場済。
  仲のいい男女の兄妹。 アホなので兄妹一緒に居ると大体笑ってる。





 

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