創作世界未来

□十二使『樹花』は錬金術師
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太陽も高く昇った時間、影は短く、
突き刺すような日差しに瞼を伏せる。

快晴の空、雲もほとんど見当たらない空の下、街中で彼は、
ダークブロンドの髪を揺らして出店が立ち並ぶ通路を歩いていた。


「あらぁお兄さんカッコイイわねぇ! よかったら買っていかないかしら?」


ある出店から女性らしい言い回しで男性らしき声が、
通行人の男性の引き止める。

出店の店主らしい人物は顔の横で両手を組んでにっこりと微笑んでいた。

右サイドで器用に編み込まれた色彩の薄い水色の髪は、
男性にしては長く、うなじ部分で括られた髪は首の右から下げられている。

彼の背は随分と高い。 190cmは超えているだろうか。

引き止められた男性は、その容姿と彼の発言に足を止め、
「えっと」と動揺するような素振りを見せた。


「錬金系の出店なの! 錬金術を応用した小物や雑貨も置いているわ
 1つどうかしら? 今なら特別に割引し・ちゃ・う♡」
「・・・あまり客を困らせるなよ、評判落ちるぞ」


店主と、その彼に引き止められていた男性の間に
割って入るような男性の声。

ダークブロンドの髪とよく似た色の瞳が、
呆れたように店主の方へと向けられていた。

彼の存在を確認した店主が「あらっ」と声を上げる。


「やだクロウじゃない! ご無沙汰ね! 元気だったかしら?」
「いつも通りだな」
「元気そうね! んっふふアタシも相変わらずよ!」
「そのようだな。 客が引いてるぞ」


店主にクロウと呼ばれた男性は、少々意地悪そうな笑みを浮かべて
彼に引き止められていた男性に視線を向ける。

店主が客への対応に戻るのを横目に、クロウは出店の裏に入り
休憩時に店主が座っているであろう椅子を引いて腰を下ろした。

自然と組まれる脚、鞄を椅子の傍に置いて一息付く。

ダークブロンドの髪は右側の方が伸びており、
短い左側からは耳に付けられたシルバーのリングピアスを姿を覗かせる。

黒いインナーに半袖のコートはいつものスタイルだ。

店主は引き止めていた男性といろいろ会話をし、
男性が雑貨を2つ買って、出店から去っていった。

ふー、と一息付く店主に、クロウが「お疲れ」と声を掛ける。
彼はクロウの様子を視界に入れて少し笑みを浮かべた。


「何はともあれ、クロウと会うのも久しぶりねぇ」
「会議以外ではなかなか顔合わせんからな」
「活動場所近い方だし、会おうと思えば会えるけど会う理由無いものねぇ」
「そうだな」


男女とも取れる整った容姿をしながら、ヒール込みで190cm強の背。
女性らしい喋りをしながら、男性らしさも残る声

彼はミザキ・セレジェイラ

旅団十二使『氷軌』クロウカシスと並び、
十二使の一角を担う『樹花』であり、錬金術師であり、オネエである。

一部からは愛称のミーザと呼ばれる十二使古参である。


「クロウも何か買ってく? 友人サービスしちゃうわ」
「・・・・?」
「ちょっと! 流石にアタシでもそれは悲しいわ!」
「少し考えていた。 面白い奴だとは常々思っている」


椅子から立ち上がり、ミザキの隣で店先に並ぶ商品を見て行くクロウ。
全体的に目を通した後、彼が手を伸ばした小物雑貨だった。

手に取った手の平サイズの小瓶の中には、水が入っているようで、
底に敷かれた白い土の上に転がる貝殻や小石、
土から伸びる植物と小さい花が、水の中で揺れていた。


「あら? クロウにしては珍しいわね、小物雑貨から見るの」
「好きそうな奴が居るから土産にしようかとも」
「それって噂の女の子かしら?」
「・・・・」

「図星ね! こーいう時のクロウの無言は肯定だってアタシ知ってるのよ!」
「・・それ、メーゼにも言ったのか?」
「? いえ、言ってないはずだけど?」
「・・・流石に解せんな」


クロウが怪訝そうに小さく眉を寄せるのを、
ミザキが疑問符を浮かべながら見つめる。

彼はミザキに気を留めず、並んでいる商品を手にとっては眺めていた。


「アタシも土産選定に首突っ込んでいいかしら? どんな女の子?」
「・・空をよく眺めている印象だな。 綺麗な物には惹かれるらしい」
「うんうん。 女の子だもんねぇ」

「花も好きだと言っていたな。 それと目が、」
「目?」
「綺麗な翡翠をしている」


商品の1つである、草原モチーフらしい小瓶を見つめたまま、彼がそう呟く。

小瓶の中の草原は青々とした緑が広がっており、
暗い金色の瞳は、その色を映していた。

ミザキは瞬きを2つ。 その後小さく口角をあげる。


「・・ん、 ふふっ」
「・・・・」
「あぁ、ごめんなさい 珍しくって・・ちょっと、そんな怖い顔しないで?」
「なんなんだお前は・・・」


口元を抑えくつくつと笑みを零すミザキの様子を、
怪訝そうな表情を浮かべて見つめているクロウ。

ミザキは笑みを浮かべながら「そうねぇ」と呟き、
小物雑貨の商品を見回していく。


「それならこの辺りどうかしら?」


笑いが落ち着いたらしいミザキが手に取ったのは、
草原と夜空でコントラストがくっきり分かれている小瓶だった。

小瓶の上半分は幾多もの星が立ち並ぶ夜空と、それを裂く一閃の流星。

底には深緑色の草原が敷き詰められており、
大きな岩の根本には白い花がいくつか咲いている。


「・・綺麗だな」
「こういうのは好きそうかしら?」
「好みそう。 それ1つ頼めるか」

「毎度! あ、包装箱要る?」
「頼む」


ミザキが商品を手に、出店奥の机に向かう。

クロウは椅子の傍に置いていた鞄から財布を取り出し、
チャラチャラと小銭を取り出していた。


「あっ、クロウ!? 包装箱のリクエストとかあるかしら!?」
「ミーザに任せる」
「分かったわ!」

「これいくらだ」
「470よぉ」
「勝手に精算するぞ」
「はぁい! 近くに記録帳あるからそれも記入してくれる?」







「はい、完成。 ある程度は大丈夫なように作ってるけれど、
 あまり強い衝撃は与えないようにね」
「どうも」


出店に並ぶ商品と机越しで包装箱の受け渡しを行う。
クロウはそれを鞄の中に収めると、思い出したように顔を上げた。


「そういえば今日は弾丸改造を受け付けているのか?」
「店先以外ならね。 なぁに? 補充?」
「術用の弾が切れそうでな」
「そういうのはもっと早く言いなさい!? こっちにも準備あるのよ!?」

「必要そうな材料は調達して来てるが、それでも?」
「んもう用意周到ね!!」


深く息を吐き出すミザキに対し、ふ、と笑みを浮かべるクロウ。


「完成希望はいつ? それと数も」
「・・ミーザ、後1週間ほどは大陸移動しないな?」
「予定ではね」
「なら大陸発までに200」

「くっ、クロウもアタシの作業ペースを知ってて
 その数を要求してるわね・・!」
「無理な数ではないはずだが。 どうせ夜は暇してるだろう」
「一言よ・け・い!! あぁもう分かったわ!」


折れた様子のミザキが額を抑えて盛大な溜息をつく。
脇にあったペンを取り、メモ帳にサラサラッと字を書き足した。


「店仕舞いしたら支部に向かうわ。 そん時に材料頂戴」
「まぁ提示数は理想だから、多少足りなくても文句は言わんさ」
「・・理想は200なのよね?」
「そうだな」

「分かったわ・・もう、 1週間で200でしょ・・」
「どうも。 ついでにこれも買っていく」
「毎度。 全くもう・・メーゼの方が可愛げあるんじゃない?」


財布から小銭を取り出すクロウが、ミーザの言葉で動きが止まる。
止まったのはほんの一瞬で、すぐに小銭を探し出した。


「・・メーゼがか?」
「あの子可愛げあるでしょ!?」
「寝顔は幼いと思った」
「それはアタシも思ったわ!」

「ん、1180」
「はい、確かに」


お金の受け渡しを終えた後、
クロウが今しがた買った商品を鞄の中に仕舞った。

鞄を肩に掛け直したクロウが「あぁ、」と呟く


「そういえばそのメーゼが先日言っていた」
「?」
「そろそろお前に会いたいだと」
「ほらメーゼ可愛いじゃない!」

「錬金の依頼だそうだが」
「メーゼ!!」
「ふ、 冗談」
「クロウ!!!」

「店員が大声出すと客が引いて寄り付かなくなるぞ」


彼は薄く意地悪そうな笑みを浮かべた後、
ミザキの出店にひらりと手を振って、旅団支部のある方向へと歩いて行った。

クロウの後ろ姿を見送るミザキ。

彼は浅く息を吐き出した後、椅子を引いて座った。





十二使『樹花』は錬金術師



(ねぇ、クロウ)

(お土産を選ぶのに、目の色の情報は必要なのかしら?)
(なんて。 水を差すようで聞けなかった)

(人の目を綺麗だと言う彼が珍しくて)






現在よりちょっとだけ未来なクロウさんとミーザさん。


ミザキ・セレジェイラ
  十二使『樹花』 42歳、樹属性、錬金術師、そしてオネエ。
  身長は185cm+ヒール。 ヒール何cmだろう、5cmはある

クロウカシス・アーグルム
  十二使『氷軌』 よく「クロウの無言は肯定」と言われてる。
  あながちハズレでもないので否定できないでいる。

メーゼ・グアルティエ
  十二使『夜桜』 十二使対人戦最強にして一番新参。
  割りとあらゆるところで名が挙がってる





 

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