創作世界未来

□おはようアリス
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決して小雨とは言えない雨、日付が回る直前だろうか。

街の一角にある建物の扉がゆっくりと開き、
扉からは少女が外の様子を眺めた。

時間が時間なこともあり、天候が雨なのもあり、外に人らしい気配は無い。

扉を閉めて、玄関の鍵を閉めると、彼女は雨が降る街中を
傘も差さずに駆け出して行った。

パシャパシャと水の跳ねる音、水溜まりを踏むのも厭わず彼女は走り続ける。

まだ学生であろうほどの少女は、長い紫色の髪は耳下の方が二つ括りに。
防御も無く雨を受け止めた髪は水分を吸い、少々重たそうだ。

家を飛び出し、街を飛び出すように彼女は街から出ていった。

街頭等があった街中と比べると人工の明かりはほとんど消え、
かろうじて街道沿いの街頭が道を照らしている。

息を切らしながらずっと走り続け、彼女はゆっくりと足を止めた。

髪や服は雨水を存分に吸った。
降りかかる雨を防ぎもせず、彼女はその場で小さく俯く。

ほとんど、と言っていいほど真っ暗な街道で
ろくに見えもしない地面を見つめていた。


「なんかあったの」


背後から投げられた少年らしき声に、少女は振り向いた。
暗がりに目が慣れていたのか、少女はかろうじて人の姿を認識する。

背は・・あまり変わらないだろうか。
年齡は・・・もしかしたら少女よりも下かもしれない。

Tシャツに半ズボンというラフな姿をした少年。
彼も相当な時間外に居たのか、金色の髪も服もびしょ濡れだった。

彼女は少年を見つめると、微かに口角を上げた。


「笑ってるの」
「笑ってる?」


少年の復唱に少女は何も答えず。
返答しない代わりだったのか、彼女は更に口を開いた。


「泣いてるの」


少女の表情は笑っているとも泣いているとも呼べない。

しばらく止む気配のない雨は、彼女の頬を濡らし、
涙していたのかどうかまでは、少年には分からなかった。

聞いたまま答えない少年に、更に彼女は続ける。


「悲しんでるの。 思い出してるの。 感じたの。 分からないの。
 脆かったの。 儚かったの。 迎えたの。 終わったの」


一貫しない言葉の羅列、少年はそれを黙って聞いていた。

一頻り喋り終えたのか、彼女は口を開くのを一旦止める。
すると彼女は徐に、身体の後ろに隠していた両手の平を少年に見せた。

暗がりでほとんど分からないが、彼女の手が白くないのは認識できた。

赤黒く染まっていたのだった。


「殺したの」


彼女のその一言で、少年はピンと来た。
この赤黒い手は血が付着したものだったのか、と。

付着した割には白い部分が見えないほど黒く染まっていたから、
近距離で殺したのか、それとも出血した部分を触ったかなのだろう。

外に出た時には既に血が乾いていたのだろうか、
この雨の中でもすぐ流れ落ちる気配は無い。

少年は黙ったまま、見せられた両手を取った。

少女は驚いたような表情を浮かべる。


「何やってるの。 汚いよ」
「残念ながら僕はもうとっくに汚れてる」


少年は眉尻を下げ、苦笑いを浮かべた。
「今更だ」とでも言わんばかりの発言に、少女を言葉を失くす。

赤黒い少女の手を取り、雨水で彼女の手を洗い流す少年。

少年が指で撫でるように触れた部分が洗い流され、
彼女の本来である手の色が微かに姿を見せる。


「・・数日もすれば気づかれるね」
「・・・・」


少女の手を触りながら、少年はぽつりとそう呟いた。

聞こえていたのか、雨音にかき消されたのかは分からないが
少女は黙ったまま、洗われている自らの手を見ていた。


「匿ってあげようか」


少年の意外な申し出に、少女は顔を上げる。

微かに笑みを浮かべている少年に、彼女は口を開いたが言葉が出てこない。
その様子を知ってか知らずか、少年は続ける。


「君のような『ワケアリ』の人が多い場所でもいいならね」


彼女は少し驚いたように、面食らった表情を見せた。
微かに開いた唇を閉じる。

少女は、頷く。

了承と受け取った少年は小さく笑みを見せた。


「僕はエール・ハルロディア。 君は?」
「・・・アリス、 アリス・ルテアートル・・」

「よろしくね、アリス」


その日、彼女は堕ちた。





おはようアリス



(ようこそ、箱庭)

(深淵へのお目覚めはいかがかな)






時間軸が若干ブレているので、もしかしたら設置場所移動するかもしれない。

アリス・ルテアートル
  今作初登場にして、某組織に拾われる少女。 17歳。
  紫色の長い長い髪を2つ括りにしている。
  時間軸がブレていればキャラもブレ気味。

エール・ハルロディア
  彼も今作初登場。 短い金髪。 15歳、学年的には中3。
  パッと見人間と大差ないのだが、種族としてはハーピーに当たる。
  自らの意思で腕を翼にできる。





 

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